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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第五章  『壊れた世界』
134/200

11  籠の中

 11  籠の中

 

 

「ごめんねリナ……こんな、危険な役目を押し付けてしまって……」

 

「大丈夫です! わたしはレイナミナナナと常に通信出来ますし。メミ総司令は、他のみんなの事をお願いします! きっと、一筋縄じゃいかないです」

 

「そうだね。また会う日まで、お互い、出来る事をしよう!」

 

「ご武運を、祈っております」

 

「ありがとう。リナ……」

 

 リナ、ありがとう。ごめん。

 

 どのくらい時間を費やしたのだろうか? でも、アヤト君はルナとトキオと居るし、安全だと思っていた。こんな壊れた世界で、安全な所なんて無い筈なのに、そうやって楽観視してたんだ。

 

 アヤト君達の元へ戻り、最初に目にした光景は、ザリガニが剣を振り上げた姿だった。

 

「止めろ! ザリガニ‼︎」

 

 アヤト君の声が響いた。ザリガニの目が、黒く濁っていた。その目の前には、武器を砕かれ尻餅を着き後ずさる、隠に侵された徳無精が居た。

 

 その近くに、背中に大きな傷を負った、か細い遺体が横たわっていた。

 

「マ……キ、ナ……マキ、ナ……」

 

 ザリガニのその振り絞る様な声は、聞いているだけでも心が灼かれて、目を背けてしまいたくなった。

 

「ハァァァァハハッ、殺した、殺した、ハハッ、アハハハッ‼︎」

 

「マキナ……? あぁ、あぁァァァ……アァァァァァァァァァァァァァァアッ‼︎」

 

「ザリガニ‼︎」

 

 アヤト君が、ザリガニの前に立ち塞がり、両手を広げた。

 

「シールド!」

 

 私とナキの声が揃った。アヤト君へ掛けたシールドは、間に合わなかった。アヤト君はその胸に大きな傷を受けて倒れ込んだ。

 

「アヤト君⁉︎」

 

 私はすぐさま、傷みを和らげる魔法を使った。そして、首の下から腕を入れて、抱えて起こそうとした。すり抜けても、何度も、何度も、抱きかかえ様とした。

 

「い、嫌だ……嫌だよ! アヤト君……アヤト君⁉︎」

 

 涙が溢れて、何も聞こえ無くなって、それでも、何度も何度も、君の名を呼び続けていたんだ。

 

 奇跡が起こった。私の腕が、アヤト君を優しく抱え上げた。

 

「大丈夫。傷は、そんなに深く無いよ」

 

 アヤト君のその言葉を聞いて、傷口を見た。ギリギリでシールドが間に合ったのかもしれない。その傷は、深く抉れていなかった。

 

「あ、アヤト君! よ、良かっ……た……」

 

 私は、周りが見えて無かった。アヤト君を抱きかかえたのは、私じゃ無かった。アヤト君が話し掛けたのは、私じゃ無かった。

 

「アヤト……ごめん。守ってあげられなくて、ごめん……」

 

 私よりも、可愛くて、素直で、役に立って、健気で、私よりも、傍で彼を見ている女の子が、涙を流して優しく彼を抱き締めていた。

 

「ルナ? もう大丈夫だから」

 

「バカ! アヤトのバカ‼︎」

 

 ザ、ザリガニは、どうなったのだろう?

 

「ア、アァァァぁぁぁぁ……アヤト……オ、オイラ、オイラァァァアッ‼︎」

 

 ザリガニの、真っ黒だった瞳が、元に戻ろうとしている。

 

「ザリガニ……? 良かった。君が、誰も傷付けなくて」

 

「お、お前を! アヤトを、傷付けちまった‼︎」

 

 ヤバッ、また黒く濁り始めた。

 

「違う違う。僕がたまたま君が素振りしてる所に入って勝手に怪我しただけだよ」

 

 なんじゃそりゃ? もう……色々落ち込んでるんだから、笑わせないでよ。

 

「オ、オイラ、オイラ……」

 

「悪いと思ってるなら、肩貸してくれないかな? 仲間だろ?」

 

 ザリガニの目が、元に戻った。

 

「あぁ、勿論だ!」

 

 ザリガニがアヤト君の右の手を取り、肩に掛けた。反対の腕をルナが肩に掛けた。

 

「この場から離れるぞ」

 

 静観していたトキオが言った。みんなも、黙って頷いた。

 

「メミ……ごめん。ユウヤ君が、あんな事……」

 

 ナキの顔色は、青白く染まっていた。

 

「止めようよ。そうやって、双方に厭悪を撒き散らすのがイーグルの狙いなんだよ。私達は、何があっても仲違いしちゃいけない。私達は、パートナーを二の次に置いてでも、やらなきゃいけない事がある」

 

「やらなきゃ、いけない事?」

 

「イーグルと、チイナを始末する」

 

「始末って……」

 

「もう遊びじゃないんだ‼︎ 大事な仲間が、危険の中に居るんだ! もう私は、折れる訳にはいかない」

 

 それにもう、アヤト君に私は要らないから。仲間もいるし、君の事を大切に想ってくれる人も居る。君はもう、私の創った籠の中には戻れ無いんだよ。

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