9 濁り
9 濁り
まずは、この状況を抜け出さないといけない。でも、どうしよう。相手はマモルのパーティーだし、乗っ取られてるだけだし、危害を加えるなんて……
「ウォラァァァァァア‼︎」
うわっ! トキオだ‼︎ トキオがアヤト君達目掛けて突っ込んで来る⁉︎ アヤト君逃げよう! ルナのおかげで攻撃は当たらないかもだけど、心が、擦り減ってしまうよ……
「キィィィィィィィィィッ‼︎」
ショッカーか? アヤト君達に攻撃していた徳無精達は、奇声を発しながらトキオに襲い掛かった。よし! 仲間割れしてる間に早く逃げよう!
「てめぇら何してやがる⁉︎」
「キィィィィィィィィィッ⁉︎」
トキオが三人を薙ぎ払った。ショッカー秒でやられちゃったよ‼︎ 逃げる暇無かったし!
「ト、トキオ、何ですか?」
ルナが、警戒してる。
「はっ? いや、悪かったな? 俺の昔のパーティーの奴らがよ……」
へっ? あっ、トキオは大丈夫なパターン? ごめんごめん。絶対に隠に侵される側だと思ったよ。
「これは一体、何だって言うんでしょうか?」
「俺だけかもしれねぇと思ってたけど、多分みんな、記憶が蘇ってんだ。ルナは?」
「記憶が蘇る? 何の話しですか?」
ルナは現世の記憶が戻って無い。プレイヤーじゃ無いからか? それならマキナさんもそうなのかな?
「俺も良く分かんねぇ。ただ、四十年生きて、死んだ記憶が急に流れ込んで来やがった」
「よく、分かりませんが……トキオは大丈夫だったのですね?」
「まぁ、どうかな? ただ、その記憶が蘇ったからって、お前達をあんな風に襲おうなんて思わなかったよ」
良かった。トキオは隠の心に打ち勝ったんだね!
「何かあの人達、急にうめき出して、目が、白目まで真っ黒になったんです」
そういえばなってた! 何かしら関連性ありそうだね。
「魔法か何かの類かもしれねぇな。目が真っ黒になったら、操られてるみたいな」
トキオ勘冴えてるね! ミオナさんに見せてあげたいよ。
「アヤトは……? 大丈夫ですか?」
アヤト君は大丈夫……って、前髪で隠れて、まだ目が見れてない……
「アヤト! 目見せろ!」
「アヤト⁉︎」
ルナが繋いでいた手を放し、右手でアヤト君の前髪を上げた。
……ハァァァァ、大丈夫だ、ちゃんと白目がって……めっちゃ濁ってんだけど⁉︎
「おい! アヤト! 正気になれ‼︎」
「アヤト? アヤト⁉︎」
アヤト君⁉︎ 二人の声をちゃんと聞いて‼︎
「……ぼ、僕は……みんなのそばに居たら、いけない人間なんだ……」
ヤバい! ヤバいよ‼︎ アヤト君はそんな徳無精度高いと思って無かったのに、呑み込まれそうになってんじゃん⁉︎ ってかそもそも、アヤト君ってネガティヴだからなぁ……隠と陽でいうと、隠の方の割合高いのかも……
その時、トキオがアヤト君を思い切り殴った。
「ちょっとトキオ‼︎ 今触れて無いので絶対防御にならなかったじゃないですか⁉︎」
「アヤトー‼︎ って、えっ? 今ちょっと大事な話しする流れだから、絶対防御されてもだったんだけど?」
「大事な話しする為に何故殴らないといけないんですか? 可哀想でしょ‼︎ アヤトに謝りなさい!」
あのールナ? 漫画とかアニメとか見た記憶無いのは分かるけど、流石に私も今の流れは止めない方が良いと思ったよ?
「お、俺は! アヤトの為を思って……それに! 俺も前にアヤトに殴られた事あったから、そのお返しって事で!」
「お返し? その場面は見て無かったですけど、どうせトキオが悪い事しててアヤトが殴ったんでしょ? そんなのノーカウントですから‼︎ アヤト⁉︎ ちゃんとトキオにやり返しなさい!」
「いやっ! いやいや‼︎ 俺だってちゃんと理由があって殴ったんだから! そう! それでノーカンだ‼︎ ノーカン! ノーカン‼︎」
カイジの地下チンチロ編か⁉︎ まぁ、あの時の大槻班長よりは説得力あるけど。
「ちょっとうるさいんですけど⁉︎ あと理由って何ですか? しょうもない理由だったら一発返しますから!」
「いや、だから! アヤトが、自分はみんなのそばに居たらいけない人間だとか言うもんだから……あの……その……」
「何で口籠もってるんですか? 今言う事考えてるんじゃ無いんですか⁉︎」
「違う違う! ただ、勢いだったら言えたけど、改めてってなると、言い辛い事もあるじゃねぇかよ……」
あっ、トキオ、ちょっと臭い事言おうとしたのかな?
「言い辛い事って何ですか? まさか……エッチな事ですか⁉︎」
オォォ……ルナもなかなか、発想がぶっ飛んでるね。
「はっ? 何言ってんだよ?」
「分かりました。邪魔者のアヤトを殴り飛ばし! ルナにエッチな要求をするつもりだったのですね⁉︎ 見損ないました‼︎」
「んな訳ねぇだろ⁉︎ 話し通じねぇのかお前‼︎」
「ルナの事を、お前って言うなぁァァッ‼︎ ルナだってあなたの事かろうじて名前で呼んであげてるのに‼︎ ルナの事を、お前って言うなよ‼︎」
前にもその事で怒られてたなトキオ。
「そ、それは……悪かったよ。俺は……ただ俺は……嫌だったんだよ‼︎ ……アヤトに、感謝してんだよ。アヤト達と戦って負けた時、あの場に置いてかれてたら、俺は死んでた。アヤトに命を救われて、でも、すぐには受け入れられなかった。そこからはルナも知ってんだろ? 負かされた相手に、おんぶに抱っこじゃ格好つかねぇ!」
「うん、そうだね……それで?」
ルナ急に聞き手上手くなったんだけど⁉︎ 逆に情緒不安定なんじゃないこの子?
「一人で勝手に飛び出して、敵に囲まれて、そんな、そんな俺を助けてくれた。頼んではねぇけどよ。でもさ、凄ぇって、思っちまったんだ。助けてくれたのが凄いんじゃ無い。アヤトは、当たり前の事をしているだけだって、俺を助けてくれる。自分の命を、賭けやがる。恩を着せて来ねぇけど、アヤトは気付いてねぇけど、返さねぇといけない恩が、俺には山程あんだよ‼︎ だから、自分はみんなのそばにいちゃいけない人間な訳ねぇだろって、伝えたかったんだよ‼︎」
トキオ、めっちゃ素直になったじゃん……
「うん。納得しましたよ」
ルナの心も晴れたみたいだ。
「何か、長々と恥ずかしい話ししちまったな」
トキオは、人差し指で鼻を擦った。伝わるかな? 何か、少年漫画の主人公の照れ隠しみたいな仕草をした。「へへっ」みたいな。……ちょっとだけ、ダサいなと感じた。
「それじゃあアヤトを起こしますんで、もう一度同じ話しをしてください」
へっ?
「へっ?」
どゆこと?
「へっ? ルナにその話ししてもしょうがなくないですか? なかなか良い話しだったので、ちゃんとアヤトに聞いてもらいましょう」
鬼か⁉︎ もうあのテンションで同じ話し出来ないでしょ?
「ちょっと待て。もう一回? いやいやいや! アヤトを起こすなよ!」
問答無用にルナはアヤト君を起こそうとした。
「ちょっと待てよ‼︎ おいおいおい! 出来ねぇから! もう一回とか無いやつだから! あれ? 聞こえてる? ルナ聞こえてますかぁ? ……お前話し聞けよ‼︎」
「ルナにお前って言うなぁァァァァアッ‼︎」
「話し聞かねぇからだろ⁉︎」
うぅぅぅ、もう収集つかんし……
「待ってよ二人共……」
あっ!
「アヤト!」
「アヤト? 目が‼︎」
アヤト君の白目から、先程までの濁りは無くなっていた。
「もう大丈夫。二人のおかげだよ」