8 隠と陽
8 隠と陽
「メミ⁉︎ 早くユウヤ君達の元へ戻らないと!」
「……そうだね」
「竜魔王に、殺されちゃうよ!」
「いや、怖いのは竜魔王じゃないよ」
「えっ?」
竜魔王がアヤト君達の元へ行ったとは考えにくい。何故かというと、まず竜魔王は、イーグルの意向に逆らえ無い。、そしてイーグルは、この世界の混沌を願っていた。その目的は、徳無精の存在意義を無くす事の様に感じた。
徳無精の、現世の記憶解放。考えたくも無い事が、頭を埋め尽くしていく。
竜魔王の炎は未だに鎮火していなかった。森が、木々が、消滅していく。心が、擦り減っていく。もう無理なのに。これ以上、心に負担が掛かったら、壊れてしまうのに。私達は、みんなの元へ向かうしか無かった。
「居ない。みんな何処行ったっていうの⁉︎」
先程まで、竜魔王とプレイヤー達が対峙していた場所まで着いた。
「ナキチ落ち着いて下さい!」
ナキが変に取り乱していたので、ミーヤに続いて、私も状況を説明してあげた。
「みんな逃げたんだよ? 私達が囮になってる内に!」
「あ、あたし達が、囮になってあげてる間に、自分達は悠々と逃げたって訳⁉︎」
「いや、元々そういう作戦でしたから! あと、ザリチやカイト君、アヤチ達にみぃ達見えて無いですから。基本設定忘れちゃってます?」
「あぁ、そうか……」
ヤバい。みんな精神がギリギリだ……
「あっ⁉︎ みなさーん‼︎ こっちですー‼︎」
「あっ」
あれは、リナだ‼︎ 近付いて声を掛けた。
「リナ! 私達を一人で待っててくれたの?」
「待ってました! 一人? 一人じゃ無いです! あっちにレイナが居ますよ!」
リナの指差す方角に、手を振るレイナが居た。
「レイナー‼︎」
私も手を振り返した。
「三人が囮になってくれたのに気付いて、アヤトさん達が逃げた場所分からないと思ったんで、ちょこちょこ精霊置いて、三人が戻って来た時の道案内出来る様にしてたんです」
そうだったのか! ありがとね、リナレイナミナナナ。
「えらいえらい」
リナの頭を撫でた。
「えへへぇ」
子供の様に喜んだ。リナ可愛いし……
レイナの元へ行き、ミナ、ナナと道案内をしてくれた場所にみんな居た。そして、アヤト君とルナが、手を繋いでいた。
別に、嫉妬してそんな事をフューチャーしているんじゃ無い。ルナの絶対防御の力が必要だからそうしている事は分かっていたから。
「ああ、あぁ! 死ねぇぇえ‼︎」
「ははは! 死ね! 死ね! ははは‼︎」
「殺す! 殺す! 殺したい殺したい殺したい。ハァァァァアッ‼︎」
アヤト君は、前髪で目線を隠していた。
「な、なんなんですかコレ⁉︎」
何も知らなかったリナが、悲鳴の様な声を上げた。
「何で……何で⁉︎ わたし達は、仲間、チームじゃ無かったんですか⁉︎」
アヤト君を殺そうと武器を振り回す者達は、マモルのパーティーの者だった。
ちゃんとみんなに、説明しないといけない。でも、現世の記憶が戻ったからって、そんな……想像以上で、私だって、頭が追い付かない。
ビロビロビロビロ
ヒッ! 何だこの不愉快な音は⁉︎ あらゆる方向から聞こえた。携帯か? 精霊の持ってる携帯が一斉に鳴ったんだ。
携帯を取り出し、画面を見てみるとメッセージが一件とあった。嫌な予感がした。ってか、携帯ここ最近使って無かったから鳴った時マジびびった。
メッセージを開いた。
『プレイヤーの現世の記憶を解放した。それだけでは面白く無いので、隠の心が上回れば、その肉体を乗っ取り、殺戮衝動へ導くシステムへと変更した。せいぜい、この壊れた世界で踠いてみろ』
『イーグル?』
そう返信を送るとすぐに、カスタマーズエラーの送信先が見つかりませんという返事が来た。きっと、イーグルだ。運営は完全にハッキングされ、イーグルの手に堕ちたのだろう。
イーグルにとって、プレイヤーや私達を消すのは簡単な事なのかもしれない。それだけでは面白くないとか何⁉︎ マジ救えない。それでも、まだアヤト君は生きている。私一人が諦めるなんて、出来ないよ。
「何ですかこのメール⁉︎ だから、あの子達……操られて、殺人衝動に侵されてるんですか⁉︎」
リナがメールを見て言った。
「……そうだと思う。そうだよ。本当は、あの子達だって、あんな事やりたく無い筈なんだよ。助けて、あげなくちゃ……」
みんな、ルイ攻略の為に力を合わせて、頑張ってた。でも、誰だってその心の中に、隠と陽ってある筈じゃん。そこに現世の記憶を入れられて、隠の心が勝ったら問答無用で殺戮兵器になるとか、おかしいよ。イーグルは、人の心なんてまるで分かって無い。分かって無いから、これでみんなが殺し合って、この世界が終わるなんて思ってるんだ。
どうしても、導いてあげたい。全てを懸けて、この状況をひっくり返して、イーグルを見返してやりたい。




