12 優しい男の子
12 優しい男の子
町の入口付近で魔獣は止まり、アヤト君の頬をずっと舐めていた。私は、引きずられ、泥だらけで疲れ果てていて、その場に胡座をかいた。
「ここで待つ事は出来ない? 出来ないのなら、一緒には居れない」
「ヴゥゥゥゥゥゥゥウ!」
魔獣は、納得はして無いみたいだ。
「みんな、君を見ると怖がってしまうから。怖がられている君を、見たく無いんだよ!」
「ウゥ、ゥゥゥゥゥゥゥウ……」
「ありがとう! 分かってくれて!」
えっ? 分かったの? 私には、魔獣、全然分かった様に見え無かったけど。
「毎日会いに来るから!」
毎日会いに行くの⁉︎
「バウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」
嬉しそう。そのくらいは私にも分かった。
アヤト君とヘトヘトな足取りで、村人の居る分岐点に差し掛かった。アヤト君は、わざわざ足場の悪い道を進み、その村人と対面するのを嫌った。
町に入った。まだちらほらと旅人なのか? 精霊が創り出した人物なのか? こちらを眺めて来た。
アヤト君は、下を向いていた。
別に良いじゃんそれでも! アヤト君は今日外に出て、毎日魔獣に会いに行くと言った。きっかけが出来たんだ。外に出る、理由が出来たんだよ!
部屋に入ると、アヤト君は、外行きの服のままベッドに横たわった。
疲れてたんだね? 大変だったよね? 几帳面な君が、本来、それで良い訳が無い!
それから、十分程その静寂を過ごした後、メールを送った。
『クエストに行ったのですね! 見直しました』
パソコンからメールの電子音が鳴ると、アヤト君は、弾む様にベッドから起き、パソコンの前の椅子に座り、返事をした。
『クエストは、失敗したよ?』
タメ語になってるな? 自信の現れかな?
『神が、成功じゃわい! だって。良かったじゃん! クエスト、クリアしたんだよ』
『えっ? なんで? ってか神って?』
神の存在言って良かったのかな? まぁいいか!
『一応神っていう、最後責任者が居るんだよ。ってか、討伐する対象と仲良くなっちゃったら、もう討伐出来ないじゃん? 逆に、これから討伐しようと思ってたの?』
『思ってないよ』
『あんだけ仲良い姿見せられて、これから隙を見せた時に討伐するとか言われてたら、引いてた所だったよ。あなたが正常で良かったよ』
『君はずっと、傍に居たって事?』
『えっ?』
『傍で、見ていたの?』
傍に居ないと分からない事言っちゃってたのか?
ってかヤバい! 腕、透けてんだけど⁉︎ この子導くって決めてんだから、こんな所で、私がお粗末で消える訳にはいかない!
アヤト君の疑いを、解かないと!
『神に、お前の動向を聞いておったのじゃ』
『そうか……ありがとう』
何が? 何でありがとうなの? まぁ良い。逃げ切れたのかな?
『見て欲しいもの、分かってくれたかな?』
『君は、こうなる事が分かってたって事?』
『そんなんじゃ無いよ。ってか、討伐せよって言ってんのに、魔獣と仲良くなるなんて思わんし』
『それじゃあ、君が見せたかったものって、なに?』
『外に出ないと、一人きりじゃ、分からない事、あったでしょ?』
『……それって、見せたい物なんて、決まって無かったって事だよね?』
『そうだよ?』
『悪びれ無いんだな……』
『何で? 私悪い事した?』
『だって、見て欲しい物があるって、自信満々に言ってたから……』
『君は、私を見返したくて、一人で家を出て、分かってた筈なのに、険しい山道を進んで、魔獣と仲良くなって、帰って来た。だから、外に出て、良かっただろ?』
『それは、偶然が重なり合ってそうなったんじゃないか! 君は、関係無い筈だろ?』
『関係無いかもね。でも、君が外に出たキッカケって何? 私じゃん?』
『はっ⁉︎ だからって、なに?』
『外に出なきゃ、出逢えなかったんだよ?』
『だから、君は何も知らなかったんだろって……』
『外に出なければ、それこそ君は何も知らなかったんだよ? 友情を深めた魔獣。君は嫌がったけど、別れ道に居たおじさん。あと……誰か逢ったりした?』
『逢わなかった。嘘、ついたって事?』
『君ねぇ、その心を許せる魔獣に出逢ったんでしょ? 私に騙されて、そいつに出逢って、後悔しているの?』
『後悔なんかある筈無いだろ! ヨルシゲは、僕の友達だ!』
ヨルシゲ? 名前付けたのか。もっと、良い名前無かった?
『もう、分かってんじゃん』
『えっ? まさか⁉︎』
もういいか? やっと何か良さげな方に向いたし、疲れたし。早く、眠ってくれないかな。
『君が、ヨルシゲ⁉︎』
『違うし! 友達出来たんだからもう良いでしょって事!』
そのメールの後、アヤト君はシャワーも浴びず、服を脱いでベッドに潜った。
十分後、十二時になり、カレーを送ったのだが、ビコーンという音にも反応せず、アヤト君は眠り続けた。
疲れてたんだね? 本当今日は、色々あったね。
私はソファーに座って、部屋全体を眺めてみた。
真新しいソファーと、狭い天井。小さなテーブル、デスクの上にパソコン。それ用のパイプ椅子。それとスタンドミラー。
そしてこの部屋で、一番目に付くベッドに目をやった。
そこには、物では無く者。今は疲れ果て、寝息を立てている。少し、地味な男の子。
でも、とても優しい男の子が、安らかな寝息を立てていた。