6 竜魔王爆誕
6 竜魔王爆誕
「ピギャァァァァァァァァァァァア‼︎」
悪夢か? この世のモノとは思えない叫び声を上げ、妖しい光を放ちながら、竜王の姿は変化していった。
全体的に真っ黒く染まっていき、その漆黒の羽根は二倍程の大きさになった。いつも四つん這いだった竜王は仁王立ちとなり、一回り大きくなった様に思える。
一連の出来事に、全員言葉を失って、その様を眺める事しか出来なかった。
「クゥアッ‼︎ アッ、ハハハハハハハハハハハ‼︎ これが魔王の力かっ⁉︎ これで、この世界に怖いモノは無くなった!」
妖しい光が消え、その全容を現した魔物は、この世を終わりへと導くモノなのだろうか?
「竜魔王とでも名乗っておくか?」
そして、カタカナ言葉では無くなった。読み易くなった。
「竜魔王は今、非常に機嫌が良い! お前達? どんな殺され方をされたいか言え。望み通りに竜魔王が殺してやろう」
そして、一人称は自分の名前呼ぶパターンらしい。ミーヤみたいなぶりっ子キャラと同じだ。
……ねぇ、どうしよ。そりゃ誰も喋れ無いよ。精霊側のショックは計り知れない。プレイヤー達も、あまりの出来事に呆気に取られ立ち尽くしてしまっている。その姿を見て、みんなが思った。
こんな化け物、倒せる筈が無い。
でも、取り敢えず二つだけ、確認したい事がある。
「あなたは、イーグルなの?」
精霊の声は届くのか、今話しているのはハッカーのイーグルなのか知りたかった。
「イーグル? 何を言っている?」
イーグルじゃ、無い? 喋り方が全然違うからもしやと思ったけど、別の人格が宿ってる? でも、さっきの言葉から、魔王と竜王は認識してたんだよね? えっ? どういう事? 訳分かんないんだけど?
「……イーグルって、何の事?」
アヤト君? あれ? 竜魔王の言葉プレイヤーにも聞こえてる? 良く無いよ! イーグルはハッカーで、精霊側の問題の筈なんだから、プレイヤーにその存在がバレると、精霊の存在が透けてしまう。
「さぁ? まぁそんな事はどうでも良い。どうやって、死にたい?」
対策も糞も無い。問答無用の殺人衝動、圧倒的な威圧感。狙われたら、もう命は無い。
「誰か喋れ。萎えるだろう?」
竜魔王が大きく足を上げた。そのまま誰かを踏み潰すつもりか? でも、助ける術なんて……
「まずは、初めて口を開いたお前から」
えっ?
あぁ、もう、終わりなんだ。大きな足が、私目掛けて降って来る。
「ナキ‼︎ ミーヤ‼︎ 私から離れて‼︎」
近くに居た二人が心配だな。逃げて、生き残ってて欲しいな……
「死ねぇクゥアッハッ‼︎」
一歩も、動けなかった……これが、死後の世界か? まぁ一回死んで精霊になったんだから、死後の死後の世界か? 茶色? 辺り一面茶色だ。あっ、見上げたら、一箇所だけ赤い丸がある。使徒のコアみたい。ハハッ……こんな時まで、現世で好きだったエヴァの話しかよ。
「メミ‼︎」
「メミチー‼︎」
はっ? 嘘でしょ⁉︎
「はっ! ナキチさん‼︎ メミチここですよ多分‼︎」
「えっ⁉︎ どれどれ?」
何で……二人がここに? 逃げ切れ無かったって事?
「この鼻の形、メミチですね‼︎」
「うん! この歯並び、メミだね‼︎」
めっちゃ顔のデリケートな部分力任せに触って来んじゃんこの二人⁉︎ 思いやりとか無い訳⁉︎
「ふがぁぁぁぁあ‼︎ へぇ(手ぇ)ほへ(どけ)ろぉぉお‼︎」
「メミだ‼︎」
私のセンチメンタルになった季節返して!
「ちょっと! 何で逃げなかったの⁉︎」
「いや、間に合いそうに無くて……さ」
「そうそう! そうなんですよ……」
「二人の嘘なんて、すぐ分かるよ……もう、終わった事だから言うけど、嬉しかったよ。でもね、二人には、少しでも、希望を繋いで欲しかったな……」
「やっぱり、メミチに嘘は通用しないですね。だって……放っておける訳無いじゃ無いですか‼︎」
「あたし達はもう、無理なんだよ。お互いを切り離して考える事なんて。あんたが今さっき教えてくれたんじゃん! 助けたい人は、助けれる人は助けたいって、あたしの名前も、入ってたじゃん。嬉しかったからさ。あんた達を犠牲にとか、もう出来ないんだよ!」
「そっか。ありがとう」
「助けられもしなかったし! ありがとうは、言うなぁ‼︎」
「その気持ちが、嬉しかったから……」
死後の死後の世界でも、二人に会えて良かった。じゃないと、ありがとうって、言えなかったから。
その瞬間、いきなり視界が明るくなって、またあの戦場に引き戻された。
「はぁっ?」
「あれっ? 何ですかコレ?」
「また戻って来た⁉︎ いや、っていうか、そもそも踏み潰されて無いって事?」
精霊に竜魔王の攻撃は効かないのか⁉︎ こっち見えてるし言葉は届くもんだから、攻撃も届くもんだと思うじゃん⁉︎ そんなミスリードおかしいんだよ‼︎
竜魔王は私達が無事だった事に気付いていない様子だった。
「さぁ? 次は誰が犠牲になる?」
「次は? 君は、何を言っているんだ?」
アヤト君が疑問を呟いた。
「あたし達に攻撃は通じない。間違い無いよね?」
「えぇ! まぁ、効く攻撃があるかもですけど、そんな低い可能性に怯えるより、ですよねメミチ?」
「分かってんじゃん! 作戦伝える間も惜しい! 行くよ二人共‼︎」
「へっ? 何の事言ってる?」
ナキは分かってくれなかった。でも時間が惜しいので、説明もせず私は、叫ぶ様に竜魔王に語り掛けた。
「おーにさーんこっちらー手ーの鳴る方へー‼︎」
竜魔王はこちらを一瞥した瞬間、目を見開き、仰天した。
「お前達‼︎ 何故生きている⁉︎」
私はナキの手を取り、全速力でアヤト君達の元から離れて行った。ミーヤはちゃんとついて来てくれた。挑発する為に、左目の下の皮膚を人差し指で押さえながら下へずらし、白目を剥き出しながら叫んだ。
「べぇーーだ! バァーカ! 私達だけ逃げるよー‼︎ もう安全圏だもーん! バイバーイ‼︎」
「その程度の距離で、竜魔王から逃げ切れると思ったのか⁉︎ ぶち殺してやる‼︎」
引っかかった‼︎
「逃げろー‼︎」
そうだ! そして、アヤト君達から竜魔王を引き離すんだ!