4 魔王VS竜王
4 魔王VS竜王
「ちょっと! ちゃんと説明してよ⁉︎ これ全部茶番なの⁉︎」
魔王はとっても苦い虫を噛み潰した様な顔をした。
「……ぬぅっ‼︎」
「だからぬぅっじゃ無いよ‼︎ その口癖でもう神だってバレてるんだからね!」
「なっ⁉︎ ワ、ワシにそんな口癖が⁉︎」
「はい引っかかったぁ! 神確定!」
「おぬし、謀ったな⁉︎」
「はいもう認めた様なもんー! 超超超大盛ギガマックス神確定!」
「ペヤングというやつかっ⁉︎ しょうがない。他の精霊達もよく聞け! ワシは神じゃ!」
ペヤング? えっ、ステーションでのやり取り見てた? 私のツッコミ聞いてたって事なの? えっ……気持ち悪い。
「本来この世界で、ワシが魔王役をやって、おぬし達の導いたプレイヤー達と戦い敗れ、徳無精を更生へと導くのがワシらの本筋であった! しかし……ハ、ハッキングなるものをされてしまい……どうしようも無くなってしもうて……こうやって、魔王の姿で操られた竜王を抑制して、逃げてもらおうと思うて……」
「神様? えっ、これはイレギュラーな事なんですか⁉︎」
「どうにかしてくれよ⁉︎ こんな世界じゃまともに徳無精を導けないだろ!」
「何ですか⁉︎ わたし達に不安を与える為に出て来たんですか⁉︎」
うわぁ、ルイの攻略戦前にリンクしてた精霊達からの罵詈雑言が飛び交ってる。さっきより混乱し始めちゃった。
「ほらメミ‼︎ 神様だと明かさぬ方が良かったじゃろ⁉︎」
名指しするなし‼︎ 私がしくじったみたいじゃん⁉︎ 私今このチームの司令塔なんだからね⁉︎ 評判を下げる様な言い回しするな! でも……集中砲火食らってる神をこれ以上追いやるのは可哀想で、声には出さないであげた。
「ユイゴンハイイオエタカ?」
あっ、竜王が、イーグルが、動き出した……
「ね、ねぇっ? 神? 勝てるよね? だって、神なんだもん。そのイーグルって奴に、勝てるよね?」
私達はもう、神に全てを懸けるしか無かった。
「……こやつは、もしかすると、ワシがここに駆け付ける様に誘導しておったのかもしれぬ……」
「クククッ、ゴメイトウ」
そんな……私達を殺さなかったのも、神を誘き寄せる為の生贄だったって事……?
「こやつは、何か勝算があるのじゃろう。そしてここで、ワシを殺すつもりなのじゃろう」
えっ……神が、死ぬ……?
「そ、そんなのおかしいよ? 神が、死ぬなんて、誰も想像して無いよ? ずっとみんなの長として、見守ってくれるんじゃ無いの?」
「……メミ、甘えるで無い。人の世もそうじゃろ? 古い者から亡くなっていくのが世の理じゃよ。おぬしらに、託しても良いか?」
「……嫌だ……嫌だよ。もうたくさんだよ。大切な人達から、いっぱい、いっぱい託されて‼︎ もう、分かんなくて……どうしたら良いかわかんなぐて‼︎ 何で……殺されるかもしれないのに出て来たの⁉︎ 神は……神は⁉︎ おバカさんなの……?」
本当は文句も言いたかった。何で精霊に徳無精を混ぜたの? って、何で、ハッキングされる様な甘い管理システムにしちゃったの? って、でも今は、そんな事を言う場面じゃ無いと思った。だから神、ちゃんと生き抜いてよ? いっぱい、いっぱい、言わなきゃいけない事があるんだから‼︎
「攻略の術を持たれているワシより、おぬしらの方が希望が持てたからじゃよ」
「……へっ?」
「次の世代へ力と知恵と、希望を託すのがワシの仕事なんじゃ‼︎ この信念だけは、絶対に曲げられん‼︎」
頑固ジジイ……でも神は、そういう者だったと思い出した。
「ギャオオオオオオ‼︎」
「ぬぉぉぉぉぉぉお‼︎」
魔王(神)と竜王ががっぷり四つ組み合った。両者は共に八メートル程で、体格の差は無い様に思えた。
「逃げろ‼︎ 早くしろ‼︎ パートナーを導くのじゃ‼︎」
マモル達のパーティーの精霊は、小動物を使って上手く導き、パートナーを逃げさせる事に成功していた。
「メミ……? あたし達も、逃げなきゃ……」
ナキの言葉に、私は素直に従えなかった。
「出来ないよ……神は、私達の為に戦ってるんだよ? 私達だけ逃げるなんて、出来ないよ……」
「なんだよそれ……メミあんた、さっきからブレブレなんだよ‼︎ ルイツーを見殺しにした時は、あたし達をルイと同じだって非難して、その後あんた、あの男の精霊は見殺しにしたじゃん‼︎ 分かってるよ……? ミオナさんが死んで、チイナの始末を託されたからそうなったんだって、分かってるよ⁉︎ だからあんたに従った‼︎ 誰かの死だって、利用しないといけない程切羽詰まってんだ‼︎ なのに、ここに来てまたそんな事言ってんのかよ⁉︎ あんたがそんなんなら、神様だって、ミオナさんだって、ルイツーだって男の精霊だって、浮かばれねぇだろぉがよ⁉︎」
「私……もう、分からない……分からない……ナキに、任せるよ……」
「自分勝手な事言ってんじゃねぇよ‼︎ あんたに、あんたが……」
「ナキチさん……時間が惜しいです。みぃ達で、パートナー達に伝えましょう」
「チッ……ヨルシゲが丁度みんなの近くに居る。ヨルシゲにあたし達から魔法で言伝させよう。メミ? それで良い? ……無視すんなよ? お前はそこでボーッと突っ立ってるだけかよ⁉︎」
「ナキチさん⁉︎ それはみぃの話しを無視してる事にはならないんですか⁉︎ 時間が惜しいから、早くパートナーに伝えましょうって言ってるんです‼︎」
「ミーヤちゃん……ご、ごめんなさい……ただ、あたしは——」
「言い訳要らない! さっさと走る‼︎」
ナキとミーヤがアヤト君の側に居るヨルシゲに近寄って、魔法で何か喋らせているみたいだった。ヨルシゲは、ずっと私の方を見て、不思議そうな顔をしていた。
でも、何を喋らせているのか、全く聞こえ無くなってしまった。あれっ? さっきまで爆音で取っ組み合いしていた魔王と竜王の叫びも聞こえ無い。受け付け、無いんだ。精神的なものなのかな? 何の音も聞こえない。無音で、それでいて、それが、心地良い。
もう、二度と、何の音も、声も聞こえ無くなるのかな? 明日から……いや今日から、どうやって生きて行けばいいのかな? でも、何も聞こえ無くても、ここに一人きりになっても、ちゃんと、私だけは、神の最後、格好良い所を、見届けてあげるからね。
「ふざけるな‼︎ 魔王が僕達の為に戦っているのに、僕達が逃げれる筈あるか⁉︎」
アヤト君の、声……
「僕は、一人になったとしてもここに残る‼︎ 魔王にちゃんと生き残ってもらって、みんなの呪いを解いて、謝らせるんだ‼︎ 誰が魔王に借りなんか作らせるか‼︎」
アヤト君の声だけが、その想いが、伝わって来る。