11 満点
11 満点
もう、ヒヤヒヤするんだけど?
アヤト君は、魔獣と横に並んで山道を下っていた。
私も一緒に帰っているんだけど、いつ襲い掛かるか不安で、生きた心地がしなかった。
君が死んだら、私もって決めてるんだから、危ない行動控えてよ……
でもそんな事情アヤト君は知らない。魔獣の頭を撫でながら、ゆっくり山を降りて行く。
神から電話が掛かって来た。一分程で着信は切れ、その後、四回目の着信で電話に出てみた。
「メミか? 三度も神からの着信を無視するな。攻略不可能とはなんじゃ? 何があったのじゃ⁉︎」
「あー、その事か! 取り敢えず無理っぽくてさ」
「パートナーはまだ死んでおらぬ! らしく無いでは無いか!」
「何の話し? パートナーはすぐ近くに居るよ。ただ、ねぇ……」
「何じゃ? それで終わりか? それで魔王討伐の熱は冷めてしまったというのか?」
「いや、まず魔王とかいうワード、私側近さんから聞いたし。あたかも説明ちゃんとしてましたの感じで言われるの癪に障るんだけど?」
「わしは神じゃぞ! 癪に障るとはなんじゃ! じゃが、特別に許してやらん事も無い。諦めず、魔獣を、魔王を討伐せよ!」
神は、私に諦めて欲しく無かったのだろう。その気持ちだけは、少し、嬉しかった。
「神? 私ね、魔王の討伐がどうこうとかじゃ無いの。ただ、魔獣の討伐が厳しいんだよね?」
「一つ一つやるべき事をやってこそ、目標に近付くのじゃぞ? 間が面倒臭いからといって、魔王に立ち向かっても、絶対に勝てん仕組みになっておる! 精進せい!」
私は、もうちょっと泳がせたら、先の旅のヒントが貰えるんじゃないかと思った。
「勝てない仕組みって何? 一人じゃ無理って事?」
「そりゃそうじゃろ! ロールプレイングゲームなのじゃから!」
「魔王討伐に必要な武器があるみたいな?」
「そうじゃそうじゃ! RPGなのじゃから!」
口ユルっ! 今後そういうクエストが送られる訳ね。
「アヤト君。パートナーがさ、私の創った魔獣と友達になっちゃって、討伐とかもう無理なんだけどどうしたら良いかなぁ?」
やっと核心に触れた。
「なーんだ、じゃ無くてなんじゃそりゃ! 何故討伐せずに友達になっておるか⁉︎ おかしいじゃろ! 討伐させる様に導かんかい!」
「確かに討伐させる様に導けなかった私の責任だよ。でもさ? 私、獰猛な獣想像して創って、傷とか付けたんだよ? その傷見てさ、パートナーの子、泣いてたんだよ? 自分と同じ様な人に傷付けられたんだって、泣いてたんだよ? それってさ、徳無精を更生させるって意味合いであれば、百点なんじゃないの? どうなの?」
神が、私と同じ様な心根の持ち主だったら、許してくれる筈だった……
「確かに満点じゃ! 特別に、おぬしもクエストクリアとしてやろう!」
「わーい!」
同じ心根の持ち主だったし、チョロかった。
「では」
「ってかさぁ? めっちゃたまたまだよね?」
私は、少し胸に引っかかってた事は聞いてみた。
「何の話しじゃ?」
「アヤト君が森に行ったのは自分の意志だけどさ、そんな、他の精霊が創った魔獣には逢わず、たまたま私の創った魔獣に逢うって、めっちゃたまたまだよね?」
冷静になってから、やっと気付いたんだ。
「……確かに、たまたまじゃったな」
「えっ? 本当にタマタマなの?」
「たまたまじゃ」
「本当にたまたまなの? タマタマだったら凄い確率だよねぇ? タマタマが重なって上手く転んだんだねぇ」
「えぇーい! たまたまタマタマ言うで無い! イントネーションを変えながら言うで無い! 話し入って来んし!」
「でっ? でっ?」
「そーじゃわい! 今回のクエストは、パートナーが創った魔獣としか干渉せぬ様にしとったのじゃ!」
「じゃあ、さっき言ってた百匹の魔獣が居るから危ないってのは?」
「嘘じゃ。嘘じゃわい」
「へー? 開き直るんだ?」
「何が開き直っとるじゃ? お主はそれでやる気出して、パートナーに満点取らせたんじゃろ?」
「嘘吐く事が日常茶飯事だったんだ。そうじゃ無いと生きて行けなかったんだね。何か、イジってごめんね」
「なに神を憐んでおるか! そういうの無いの! 悲しい過去無いの! そういうの超越しとるんじゃから!」
「ちょう、えつ? あ、あはっ、そうですか……」
「漢字分からんパターン? 超越! 超越じゃよ?」
「あ、あはっ、そうですか……」
「愛想笑い止めい! わしが変な事言っとるみたいになっとるじゃろうが!」
「あっ……あのさ? パートナーと離れると、精霊のMP減るじゃん? それがゼロを下回るとどうなるの?」
「そんなもん速攻追放じゃ! 傍から見守れといつも言っておるじゃろ!」
「な、何か、アヤト君足挫いちゃったみたいで、私の創った魔獣がさぁ、背に乗れよみたいになってんだけど?」
「おぬし今MPは?」
「ゼロ」
「お、おぬし! 計画性無いにも程があ——」
途中で通話を切った。そんな説教、最後まで聞いてらんないから!
私は、魔獣の尻尾を掴んで、引きずられながら山道を降りた。