51 ルイ攻略戦⑥ 奇襲
51 ルイ攻略戦⑥ 奇襲
うぅぅぅ、勢いでやっちゃったけど、一人でどうにか出来るもんなのかこれ?
「アヤトさん動けそうに無いですね……やっぱり、ショックが大きいんですかね……」
でも、分かってくれないなら、あの人達と一緒に居る事なんて出来ない。
「そうだね……」
「あれ? ルイも動かなく無いですか? ルイツーの亡骸を、ずっと眺めていますよ?」
「確かに……」
ルイの中で、何かしらの葛藤があるのかもしれない。ってか?
「何であんたここ居んの⁉︎」
すぐ横に居るリナに詰問した。
「へっ? さっきオッケー貰ったじゃないですか⁉︎」
「それみんなと喧嘩する前の話しでしょ⁉︎ あんなわちゃわちゃあったんだからあなたも離れた方が良いよ?」
「別にわたし何か言われた訳じゃ無いんで?」
「でもあんた、後であっちに戻り辛くなるよ? 今戻っといた方が良いって!」
「わたし、メミさんの言った事、間違って無いと思います! だから……戻りたいなんて思って無いんですよねぇ。メミさん! お世話になります‼︎」
独立して速攻有能な人材手に入れたし! 幸先は悪く無いな。
「ってか私達は仲違いしちゃったけど、アヤト君とザリガニ達はまだチームなんだよねぇ」
「そうですね! なんなら、わたしは今マモルのパーティーですし、仲違いしてたとしても、目的は同じです! やる事はそんなに変わらないです!」
「……ってか私司令塔なってたよね⁉︎ ごちゃごちゃするからやっぱりあっち戻った方が良いんじゃない⁉︎」
「いいえ! わたしだって、付いて行きたい人に付いて行く権利があります!」
はぁぁぁぁぁ嬉しいぃぃぃっ‼︎ 一生大切に接するしこの子!
って喜んでる場合じゃない! 戦況は? あれ? 変わって無い。アヤト君は動けなさそうだし、ルナ達も四人で固まってる。そして、ルイも……いつまでも、ルイツーの亡骸を眺めていた。
ミオナさんが、こちらに近付いて来た。
「ヒィィィィッ‼︎ 絶対怒ってるよあの人!」
「そんな事無いと思いますよ? 心のある人だったら、さっきのメミさんの話しに、共感しない訳無いですもん!」
リナありがとぉぉぉぉお! きっと一人だったら、その重圧に心は押し潰されていたよ!
「メミ……?」
固唾を呑んだ。ミオナさんの見解は……
「かはっ……」
……えっ? なに? 急にミオナさんの腹部から血が噴き出した。
「リンク」
誰かに肩を掴まれた。
「はっ! 皆んなメミの後ろの奴に‼︎ ステイ‼︎」
「ステイ‼︎」
「ステイ‼︎」
「ステイ‼︎」
「キャンセル」
「キャンセル、チッ」
「へっ?」
な、何が起こった? 振り返ると、ステーションで私を殺そうとした男の精霊が、レイピアを私に向けて固まっていた。すると、また誰かに肩を掴まれた。
「リーン君」
「ステイ!」
「キャンセルン! バイバーイ!」
チイナが姿を現し、すぐに森の中へと消えて行った。ちょっと待って⁉︎ 頭が追いつかない。何が起こった⁉︎
「皆んな! メミの後ろに精霊居るから、リンクして行きな!」
ミオナさんは刺された腹部から大量の血を噴き出しながらも、ナキ達に指示を送った。
私は軽く腰を抜かしてしまって、リナに肩を借りてその場から離れた。その途端、ステイされたままの男の精霊が声を荒げた。
「大人しく殺されてりゃ良いもんをよぉ⁉︎ ステイが成功したからって、お前達に何が出来る⁉︎ オレ達を殺す事なんて出来ねぇんだろ? 諦めて全滅しろや‼︎」
口悪っ……始めて喋ったと思ったら、徳無精垂れ流しの言葉使いで煽って来た。取り敢えず、持っていたレイピアを回収した。
「ナ、うっ……ナキ? 例の物」
「ミオナさん⁉︎」
「大丈夫、死にはしないわ。それより、早くそいつを!」
「は、はい!」
ナキは、男の精霊を、事前に作っておいた縄で縛り付けた。
「精霊に縄なんて、って、んだコレ⁉︎ 締められてやがる⁉︎」
そう。本来精霊を縄で縛る事なんて出来ない。この世界の物とは極力関与出来ない様になっているからだ。受け渡すくらいは出来ると神は言っていたけど、基本はすり抜けてしまう。しかし、イレギュラーがある。それは、精霊の身に付けているもの。この縄は、精霊の衣服を少しずつ裂いて作った物だ。
「糞がッ‼︎ でもこんな縄、すぐにチイナが裂いてくれる」
そうかもしれない。そうさせない為に、私達はこの男の周りでチイナを警戒し続ける。
「ミオナさん! 大丈夫、じゃ無いですよね……」
ミオナさんは座り込み項垂れ、頬は青白く痩けていた。
「大丈夫よメミ、あなたの策が活きたわね……」
「ミオナさん……」
「メミって言ったかオマエ? コレ全部、オマエの所為だぞ?」
「えっ?」
「メミ、耳を貸すな。あなたを揺れさせるのが狙いよ」
「でも……」
「オマエ、何か揉めてたよなぁ? チャンスだと思ったんだよ。今突っ込めば、皆殺しに出来るってなぁ」
「あの時、何があったっていうの?」
「無能だなぁオマエ? まずチイナがミオナにリンクした瞬間に刺した。警戒してた様だが、オマエに意識が向けられてたおかげで刺さった。急所は外されたがな。そしてオレがお前にリンクして殺そうとした。だが、ミオナの号令で一斉にオレにステイが向いて阻止された。ミオナが死んでりゃオマエも殺せたんだがなぁ」
チイナはその流れのまま私にリンクして逃げたのか。
「わ、私の所為で、ミオナさんは……」
「違うわよ」
「ハァッ⁉︎ 何が違う⁉︎ その出血量、どうせもう死ぬんだろ? 最後くらい正直になったらどうだぁ?」
「この臆病者達は、わたし達が隙を見せないと襲って来なかった。ルイやルイツーが死んでも姿を現さず、闇に紛れて精霊を殺し回ったでしょう」
「はぁっ⁉︎ パートナーが死のうとしてたら、流石に助けに入っただろうぜ」
「嘘ね。あなた達、パートナーが死んでも、精霊が生きている事実を知ってた筈よ。わたしが姿を現すまで、待ってたんでしょ?」
「チッ、察しの良いババアだな? そうだよ。でもその女、メミって言ったか? お前が場を混乱させたおかげで、オレ達はこの戦いに参戦しちまった! もう戻れねぇ‼︎ 殺し合いだよ⁉︎ メミ! 全部お前のせいだ‼︎」
「わ、私の所為でミオナさんが……あぁ、あああああああ‼︎」
「メミ‼︎ 聞きなさい‼︎」
ミオナさんが叫んだ瞬間、その腹部から血が噴き出した。
「あっ……喋らないで下さいミオナさん⁉︎」
「それなら! 動揺しないで、大人しくわたしの話しを聞いて? それなら、傷口も広がらないわ」
「させるかよ! アァァァァァァァァ‼︎ アァァァァァァァァァァァァッ‼︎」
コイツ⁉︎ 自分の叫び声で私達が大人しく会話出来ない様にして来やがる⁉︎ こんな低レベルな妨害行為、ちゃんとしたバトル漫画じゃなかなかお目に掛かれないよ!
「リナ? アイツの口塞いでて」
「合点承知です!」
合点承知? 取り敢えずスルーしとこ。リナは叫び続ける男の精霊の口を、指でつまんで閉じた。
「ふぅぐっ! ふぅぐっ‼︎」
言っときたいのだけれど、あんたそれで鼻つままれたら死ぬんだからね? 私達がそれを良しとしないから生き残れてるだけだからね⁉︎ まぁ、言っても聞く耳持たないでしょうけど。
「はぁ、はぁ、メミ?」
「はい。ミオナさん……」
私は、ミオナさんの言葉を聞きたいと思ったんだ。今聞けないと、きっと、ずっと後悔する。
「メミのおかげで、コイツを炙り出せた。このまま静観される方が、被害は莫大に広がっていた筈だよ。だから、本当にお手柄だよ。メミ」
「お手柄なんかじゃ、無いです‼︎ 私の所為で、ミオナさんは……」
「コイツらは、元々わたしを狙いに来てた。今か後だったかってだけだよ」
「でも……私が、きっかけを作って、私の所為で!」
「それなら! 戦いなさい。チイナも、あなたの手で封じて欲しい。とても重いだろうけど、メミ? あなたに託したいの」
「……重い」
「あなたなら出来るわ。誰かが止めないといけないの。わたしは……大好きなあなたに、呪いの様な言葉を掛けないといけない」
「呪い……?」
「チイナを、殺して」
「……ミオナさん?」
ミオナさんは、ゆっくりと目を閉じた。その姿は、ただ眠っているだけの様に見える程穏やかだった。