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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
第一章 『魔獣を討伐せよ』
11/200

10  魔獣

 10  魔獣

 

 

「アヤト君‼︎」

 

 聞こえ無いのに、私は、思わず叫んでしまった。

 

「あっ、あぁぁぁぁあ……」

 

 アヤト君は、怯えている様な声を上げた。

 

「なんで、何でこんな所まで来ちゃったの! やる事が突飛過ぎるんだよ! 逃げて!」

 

 私の創った魔獣は、ライオンの様ななりで、大きな牙を見せつけ、唸り、古傷を身体中に刻み込んでいて、アヤト君には、いや、誰もが恐れて近付く事の出来無いオーラを纏っていた。

 

「何っ⁉︎ 足が竦んでるの? 逃げなよ早く!」

 

 勿論私の声は届かない。ってか、アヤト君、魔獣に近付いてない?

 

「ちょっと何してんの! 逃げてよ!」

 

 魔獣は、右の前足で地面を掻き、今にも襲い掛かる素振りを見せた。

 

「まだ、自分は死んでも良いとか思ってんの?」

 

 アヤト君は、一歩ずつ、ゆっくりと魔獣に近付いて行っていた。

 

「アナタの命に、命を賭けたんだよ!」

 

 魔獣も、同じ速度で距離を詰めて行く。

 

「バカヤロォーーー‼︎ お前が死んだら、悲しむ人が居るんだぞ!」

 

 届かない。私の声は、届かないんだよ。

 携帯のディスプレイを見た。残りのMPは十六しか無かった。

 

 魔獣が前足で土を蹴り、アヤト君に襲い掛かった。

 

 アァァ……違う! 考えろ! 私がしなければいけない事は、怯える事じゃない! 神が、何か言ってたじゃないか! 補助魔法とか……ダメだ。神の言葉とかいつも聞き流してるんだから、覚えて無いよ。

 

 いや、覚えてたじゃん? なんなら一言一句覚えてたじゃん! あの時は何で思い出せたんだろ? 部屋のソファーでゴロゴロしてただけなのに。

 

 きっと記憶のポケットに、入れたままにして忘れてるんだ。思い出せ! 補助魔法! た、確か……そうだ! 八MPで、ちょっと眠らせる!

 

 私は右手を魔獣に向け、魔法を掛けた。

 

「ねむれぇぇぇぇえ!」

 

 アヤト君に齧り付く直前だった。魔獣は、アヤト君の頭をいきたかった様だが、目標は逸れ、アヤト君の右腕を齧り付いた。そのまま、魔獣は眠ってしまった。

 

「うっ、うぅ、うぅぅぅ……」

 

 あ、アヤト君! 痛そう……あっ! 神、言ってた!

 

 私は、六MPを使って、アヤト君の傷みを和らげた。

 

「は、はぁっ、やっと、喋れる様になった」

 

 アヤト君が、傷みから解放された様だ。もう、その魔獣のせいで死に至る様な事は無いだろう。

 

「落ち着いた、のかな?」

 

 んっ? 誰に話し掛けてんの?

 

「何だ? 眠っているのかな? おーい!」

 

 はっ⁉︎ 止めて! 起きたら死ぬんだよ!

 

「ウ、ウ、ウガァァァァァァァァァア! アッ! アッ!」

 

 魔獣が覚醒しちゃった……もう無理だよ。MP、無いもん。

 

「ゴメンなさい! 本当に、ゴメンなさい。君に、こんな傷を付けたのは、僕と、同じ人間なんだ。そんな大きな傷痕、痛かったよね? 怖かったよね? 僕には、想像出来無いから、だから、力いっぱい、僕の腕を噛むといいよ」

 

 えっ! 魔獣にめっちゃ喋ってる。私が創った魔獣なんだし、傷痕も私が作ったヤツだし、理性無いと思うんだけどな……

 

「い、イッ! う、うん。いいよ。落ち着いて。落ち着いて。大丈夫だよ。落ち着いて。大丈夫だから」

 

 アヤト君は、魔獣を撫でながら、ずっと声を掛け続けていた。いつしか、その魔獣は、アヤト君とじゃれてる様にさえ見えた。

 

「ウゥ、ウゥゥ、ウゥゥ、ウゥゥ」

 

 魔獣が、か細い声を上げ、アヤト君の右腕の傷を舐め始めた。

 

「くすぐったいだろ? やめろよ」

 

 私の創った魔獣は、今、私のパートナーに懐いて、じゃれてしまってる。

 

「アハハハハ! やめろよ!」

 

 アヤト君、めっちゃ楽しそう……

 

 私は、運営にメールを送った。

 

『クエスト、攻略不可能です』

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