9 分岐点の村人
9 分岐点の村人
「お、おぬし! そんな冗談は、止めろ!」
「冗談とかじゃ無くて、神なら、精霊を殺す手段くらい知ってるんでしょ?」
「諦めたのかおぬし!」
「諦める? そういう事じゃ無くて、覚悟なんだよ。神が殺してくれないなら、他の人に頼むだけだから」
「い、いや、何故死を選ぶ⁉︎」
「中途半端に管理される、徳無精の気持ち考えた事あるの⁉︎ ちゃんとやれる精霊はいいよ。でも、私みたいに、本をちゃんと読め無かったり、細かい事に気付いてあげられない奴が居るんだよ。そいつらは、傍で見守っていた筈なのに、何も出来ませんでした。パートナーの徳無精は死んでしまいましたで、お咎め無しでいいのかよ! 良い訳無いじゃん。私は、ある日決めたんだよ。アヤト君が死んだら、私も死ぬって、その誓いさえ無下にしたら、いつまでも自分を後悔する生活が始まってしまう」
「じゃあもう、諦めるのじゃな?」
「諦めた? 違う、神にも分かって欲しい。ってか、神は本当は分かってると思う。徳無精だとしても、同じ、人間だったんだ」
「うーむ……それなら、最後まで足掻いてみて欲しいのじゃが……」
「足掻くって、なに?」
「例え低い確率でも、パートナーを死なせない為に動くおぬしが見たかったな」
「はっ? 何言ってるの?」
「じゃから、可能性は低くても、まだ生きてるパートナーを見捨て無いで欲しかったという事じゃ」
「生きてる? 誰が?」
「おぬしのパートナーじゃ、場所は分からんが、死んだらすぐに分かるようになっておる」
「アァァァァア⁉︎」
「オゥッ⁉︎ どうした? 何かあったか?」
「えっ? アヤト君生きてんの⁉︎」
「えっ? 生きておるよ? 何で?」
「神が、反応無いって言わなかった?」
「反応無い? 言って無いよ?」
「そうだっけ⁉︎ もういいや! アヤト君何処居るの?」
「それは、分からないと言うたじゃろ」
「えっ! 分からないの⁉︎ 神の実在する世界って、そんな適当な所なの?」
「前にも言われたわそれ! おぬし! 神をなんじゃとお——」
分からないのであれば、神に用は無い。電話を切って、走り出した!
MPの減りがさっきよりも緩やかになってる! 確かに、アヤト君は生きてるんだ! アヤト君に近付いている確信が持てた。携帯でマップを見てみると、この道の少し先に、別れ道があった。また二択か……
分岐点に着くと、そこには人が立っていた。
「あっ、あのっ! あ、アヤト君、黒髪で、目が青くて、少し地味な男の子通りませんでした?」
地味って失礼だけどゴメンね。なりふり構ってられないんだよ!
「この先の道、左に行けば、小川の流れる穏やかな道。右へ行くと、険しい山道。アナタは、どちらを選ぶかな?」
へっ? 気持ち悪い……私の質問何処行ったの?
「あっ、あのっ、アヤト君……」
「この先の道、左に行けば、小川の流れる穏やかな道。右へ行くと、険しい山道。アナタは、どちらを選ぶかな?」
お、同じ事言ってる……怖っ……ってか精霊って見え無いんだった! 何なのこの人? 私の事見えてるの?
「この先の道、左に行けば、小川の流れる穏やかな道。右へ行くと、険しい山道。アナタは、どちらを選ぶかな?」
……あそっか。どこかの精霊が創り出した村人なのか。だから同じ事しか言わない。あと創った精霊が、ずっと同じ事言い続ける設定にしてるんだろうな。喋り掛け無くてもずっと同じ事言ってる。RPGのその設定を実際にやると、ホラーに近いな。
それじゃあアヤト君もこの人に話し聞いてるよね? アヤト君は外に出るのも嫌がるくらい臆病な性格だ。きっと左だ!
私は左の道を走り出したのだが、何か、胸に引っ掛かる。
何が、引っ掛かってるんだろう?
アヤト君は、左に進む……穏やかな道に進む……なんで? なんでアヤト君は外に出たんだろう? 外の空気を吸いたかったから? 違う。誰かとお話ししたくなって? 絶対に違う。
メールの相手、私を、見返してやりたくて
私は、またもや踵を返し、来た道へ帰って行った。別れ道を越える時、村人さんに小さな会釈をして、山道を掛け上がった!
しばらく走って、ってか結構走った。坂道は、心臓に堪える。少しだけ立ち止まって、携帯を見た。MPの減りが少ない。やっぱり、こっちの道を選んだんだ。
バカ! 私もさっき知ったのだけれど、一人じゃ、魔獣を討伐出来無いんだよ? 傍に居る精霊が補助魔法を使わないと倒せ無いのに、一人で、何処行ったんだよ!
「ウガァァァァァァァァァァァァァァァッ‼︎」
獣の声⁉︎ その声の響く方へ近寄ってみると、私の創った魔獣と、アヤト君が見つめ合っていた。