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傍から見守り導く生活  作者: 藤沢凪
プロローグ
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プロローグ

 プロローグ

 

 

 ヒトの精神は、上から下まで限り無い。

 

 人助けに生涯を注いだ者も居れば、終始悪知恵だけで生き永らえた者も居る。

 

 過去の歴史を辿れば分かる事だが、現世は、狂っている。

 

 それを見兼ねた創造神が、魂が転生する前に、未熟な心、つまり徳を積んでいない魂を集めて、鍛え上げる場を設けたのであった。

 

 其処は死後の世界。

 

 現世で、徳の積めなかった者が集まる場所。

 

 マグマの様な熱に晒されても、南極で氷漬けにされても、生き永らえる身体を与えられる。しかし、痛みを和らげる術は無い。

 人間という生物は、元々、耐え難い痛みを与えられると、脳が痛みを伝える事を遮断し、気絶、もしくは死へと導く様に出来ている。

 しかし、この世界ではそれを採用していない。その未熟な精神が改心されたと見做されるまで、拷問の様な修行が続くのだった。

 

 まさに地獄と呼ばれるその世界で、改心が成されたと認められた者は、輪廻を転生して、もう一度命を受け賜る。しかし、それが人間であるとは限らない。虫の類いや、動物に生まれ変わる事例もちらほらと見受けられる。

 最も、家畜へと転生させられた者は悲惨だ。産まれてから死ぬまで、狭く、己や周りの糞尿の匂いの篭る畜舎で太らされ、仕舞いには、一番脂の乗っている歳に殺され、食肉とされるのだから。

 

 その為に、現世で徳を積んだ者達が犠牲になった。

 

 死者の中で、徳を積んだランキング年間一位だった者は、神という役職を与えられ、二位から十位までは、精霊、という厄介事を請け負う役人にされた。その中には、例外も居たようだが……

 

 精霊の仕事は、徳を積めなかった者、この世界では徳不精と呼ばれている。徳不精に問答無用の修行という名の拷問を敢行して、現世で徳を積める心に成ったのかを判断する役目が課されていた。

 神は、その者達の転生先を決める、重要なポジションに位置していた。

 

 しかし、とある管轄を任されていた神の業績は、芳しくなかった。

 

 人間に転生させた者の中に、✖️✖️✖️事件を起こした者や、✖️✖️✖️問題で吊るし上げられた者、✖️✖️✖️を見る会を企てた者が居て、その神の立場は、覚束なくなっていた。

 

 ただその神は、他者に責任を転嫁する事を嫌った。中途半端な徳不精を、世に転生させる様に推奨した精霊を恨んだりはしなかった。

 神は、今のシステムに限界を感じていた。痛みでは、ヒトは改心しない。

 

 そんな時に、部屋の中のある物に、神は釘付けになった。

 

「そうじゃ、これじゃ!」

 

 神は、部屋の中央まで這って、コントローラーを手に取って、一人言を吐いた。

 

「ワシはやるぞい。新しい世界を創るのじゃ」

 

 それから構想に一年、実用に二年を費やした期間、神は業務が疎かになっていて、徳不精排出ワースト一位にまで陥落した。

 

「やっと、出来たぞい……我が側近よ! 準備は出来ておるな? 精霊を集え!」

 

 仰せのままに、側近は、嫌がる者達を掻き集めた。神は、百人程の精霊を、わざわざ休みの日に呼び出した。

 

 公民館程のキャパの演説場に集まったのだが、予定の時刻を過ぎても神が姿を現さない。

 

 一人の精霊が野次を飛ばした。

 

「早く出てこーい」

 

 それを皮切りに、次から次へと野次が飛び交った。

 

「いつまで待たせんだ!」

 

「休みを返上して来てるのよ!」

 

「私今日予定あったのにー」

 

 神は、実は野次が飛び始めるのを待っていたのだ。自分の意見を通す為の術を、神は弁えていた。

 予定の時間から十分程遅れて、神は姿を現した。

 ノロノロと威厳を感じさせる歩き方を意識しながら卓上へ足を運び、しっかりと正面を向き、言葉を放った。

 

「えぇーい! 何を喚いておる! そんなに休みが惜しいか?」

 

 その言葉を皮切りに、怒号の様な非難が相次いだ。

 

「ふざけんな!」

 

「いつも対価に見合わない労働させてる癖に!」

 

「こっちまで病んで徳無精になるわ!」

 

 神の思惑通り、場は荒れに荒れた。神は良きタイミングで、「分かった。聞くがよい」と言ったのだが、全く以って、その怒号が鳴り止む気配は無かった。神は慌てて、「し、鎮まれ、鎮まれい!」と、ジェスチャーも交えて叫んだのだが、最早、野次は怒号を経て、暴動に変わりつつあった。

 

 そこで、大きなドラの音が鳴った。集まった者達は虚を突かれ、静まり返った。

 

 そのドラの音は、側近の独断であった。

 この講演会で伝える事、それに持っていくまでの過程を聞いた側近が、「神、お言葉ですが、そこからの野次は止まりませんよ?」と、神に釘を刺していた。しかし神は、「何を言うておる? 神の一言で治まるじゃろ?」と楽観視していた。

 不安を抱えていた側近は、怒号が治まらなかった時を考慮して、神には内緒でドラを用意していたのであった。

 

 神がその側近を一瞥すると、「ほらね?」と言わんばかりの悦顔で、神にほくそ笑んで見せた。

 

 神は多少のストレスを感じたものの、心の奥では、優秀な部下に支えられて、今自分はこの立ち位置で居られるのだという事を再確認した。

 

「えー、皆さん。聞いて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 同じ轍を踏まない様に、神は己の慢心から来る言葉使いを改めて話した。何故なら、またあの様な暴動にもなりかねない状況に陥ったら、側近にまたドラを鳴らされて、悦顔で笑われるのだと思うと、胸糞が悪かったのだ。

 

「皆さんは、今の仕事にやり甲斐を感じていますか?」

 

 ドラの音のおかげなのか、神の普段よりも優しい言葉使いを不気味に感じてか、ホールは静寂に包まれた。

 

「やり甲斐なんて、感じる訳無いだろ!」

 

 一人の精霊が声を荒げた。

 

「それは、何故?」

 

「俺達は毎日、同じ、ヒトだった魂に拷問を続けている。生きていた時は、拷問は人道に外れた行為だって教わって、俺達だってそう思って生きて来たんだ。毎日、毎日。悲痛に呻く声を聞き続けて、それで、俺達が苦しく無い訳無いだろ!」

 

 実はこの精霊は、神に雇われた精霊だった。神の都合の良い話しへ持っていく為に雇い、現存の制度を非難するという役割を任されていた。

 

「そうか、お主の考えを聞こう」 

 

「俺達は、現世で徳を積んだから、この世界の使用人になったんだろ? とんだ、貧乏クジだよな?」

 

 一人立ち上がり、叫ぶ様に話すその演説を、皆が固唾を呑んで見守っていた。

 

「続けるがよい」

 

「でも、でもさ! 現世で、お前達、豚や、牛を解体する場面を見た事あるか?」

 

 神は、オブジェとなった。何故かというと、そんなセリフは台本に無かったから、単純に、びっくりしたのである。そこからどんな話しが始まるのか、神ですら知らない。

 

「ここに来てから分かっただろ? 虫とかじゃなく、家畜に転生するのが一番辛いって。俺達だって、何に転生させられるか分からない。この魂は大丈夫ですよと言ったのに、牛や豚に転生させられてしまった事があった。あれだけ、あれだけアイツ頑張ったのに、家畜かよって、思うじゃん? 俺達のやって来た事って何だったんだよ。でも、そんな、牛や豚を解体してくれる人が居たから、俺達は、美味しいお肉を食べて生きて来れた。牛や豚が居なければ、美味しいお肉を食べれ無かった。辛い事を、引き受けてくれる人が居ないと、世界は成り立たないんだ!」

 

 その場に居る精霊達は、その演説に惹かれていた。神も、自ら雇ったにも関わらず、その涙腺は緩んでいた。

 

「俺達は、辛い役目を背負わされ続ける立場だと思ってたけど、今までのその制度をさ、変えてくれるんだってよ! 神が、俺達を救ってくれるんだってよ!」

 

 その精霊は、段取りを無視してぶっちゃけてしまった。そして、世論を掴んだ。

 

 集まった精霊達から、歓喜の声が鳴り響いた。

 

 神は、美味しい所を持っていかれたエキストラへ、本来ならば憎悪を抱くべき場面だろう。しかし、泣きながら訴えるその姿を見て、小細工などはどうでもよくなってしまった。

 

「皆の者よく聞け!」

 

 集まった精霊は、「ウォォォォォォォォオ!」と、声を揃えた。

 

「拷問で魂を鍛えるのはもうやめじゃ! お前達の心も、もう限界だったのだな? 変わるのじゃ世界は! 変わるべき時だったのじゃ!」

 

 神の目から見ても、その場に居る七割が泣いているのに気付いた。それだけで、今回の企画を通す事が出来て良かったと思った。

 

「ここの本来の目的は、心を鍛える事じゃ! それであれば、うってつけの物があったのじゃ!」

 

 皆の衆は、静かに次の言葉を待った。

 

「ロールプレイングゲームじゃ! そこで、仲間や、恋人と出逢い、心を育んでいくのじゃ!」

 

 神の予測していた湧き上がる様な歓声、は無かった。

 

「……取り敢えず! 一人ずつ説明していくとするわ!」

 

 神は意外と親切だった。

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