迎え
夜中にお袋から連絡が入った。
長いこと入院していた祖父さんが、いよいよ危ないらしい。
必要最低限のものだけを持って、車をとばす。
病院に着いたときには、空が白み始めていた。
病院の正面玄関は閉まっている。こんな時間に来るのは初めてで、どこから入ればよいか迷う。
しばらくうろうろしたあと、夜間出入口を見つけて中に入ると、正面にある待ち合いのソファーに祖父さんが腰かけていた。
「おお来たか。ご苦労さん」
俺が駆け寄ると、祖父さんはのんびり立ち上がった。
「どうしたんだ祖父さん」
「病室が東棟に変わってな。迷うといかんから待っていたんだ」
そう言って祖父さんは俺を先導しはじめた。
誰もいない廊下を歩き、エレベーターに乗る。
エレベーターはもともと窓がないから昼も夜も関係ないはずなのに、いつもより暗く感じた。
「たぶんもうすぐ逝くだろう。お前が来るまでもって良かった」
一人言のように祖父さんが呟く。
「そんなこと言うなよ」
俺が思わずそう言えば、祖父さんは笑った。
「この年なら大往生だ。よう生きたよ」
病室の扉を開くと、家族に囲まれて祖父さんが寝ていた。
まるで俺を待っていたように、息をひきとった。




