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ぬらりひょん
正月に親戚一同集まって宴会しているときだった。
「兄ちゃん、兄ちゃん」
小学生の従兄弟が声を潜めて俺を呼んだ。
「あれ誰だっけ?」
見ると、一人の身形のいい爺さんが、部屋の隅に陣取って酒を飲んでいた。
「ああなんだ、お前あの爺さんが見えるのか」
俺がそう言うと、従兄弟は「やっぱり」というような顔をした。
あれが見えるのなら大方のことは察していたに違いない。
「酒さえ飲ませておけば害はない。放っておけ」
俺は子どもの頃叔父から言われた言葉をそのまま従兄弟に言った。
おそらく親戚の誰に聞いても俺と同じことを言うだろう。
誰もあの爺さんのことを知らないのだ。
従兄弟は不満そうな顔をしたが、それ以上何も言わなかった。
この従兄弟も子どもの頃の俺と同じように、家系図やら古いアルバムやら引っ張り出して、爺さんの素性を調べようとするだろうか。
なんだか懐かしい気持ちになりながら、俺はグラスの酒を一口飲んだ。




