便乗するやつら
時間潰しにふらりと入ったパチンコ屋で大儲けをした。
友に奢ってもまだ余裕があったから、食料と、酒やつまみを買い込む。
これでしばらく安泰だと、ほくほく機嫌よく歩いていると、子どもが寄ってきた。
節分のような鬼の面をつけていた。
「とりっくおあとりぃと」
「? 何だ?」
よく聞き取れなくて聞き返すと、子どもは少し声を大きくした。
「とりっく おあ とりぃと!」
「ああ、trick or treat か」
そういえば今日はハロウィンだったと思い出す。
鬼の面とは子どもにしては渋いチョイスだ。
「ほら」
ご機嫌な俺は、ビニール袋からつまみに買ったチョコレートを取り出して子どもに渡した。
「とぅりっくおおりぃと!」
「とりっくおわとぅり!」
するとどこから出てきたのか、鬼やら狐の面をかぶった子どもたちがわらわら寄ってきて、俺に手を差し出した。
「よしよし、順番に並べ~」
大量のつまみを持っている俺に声をかけるとは、運のいいお子様たちだ。
気前よく菓子を配っていた俺は、子どもの一人と目が合って、はっとした。
面の奥の目がきろりと光り、細められる。
人間じゃないと、その瞬間に悟った。
面をつけた子どものような何かはどんどん増えていく。
菓子がなくなったらどうなるのか。
大袋を開けて数を稼ぎながら、一つ一つ配る。
怯える俺が面白いのか、菓子を手に持ったやつらが、俺を囲んでケタケタ笑う。
もう少しで菓子がなくなる。
ヤバいと思ったそのとき、最後のヤツに菓子が渡った。
「残念」
「ザンネン」
俺を囲んだやつらが口々に残念がる。
やつらは楽しそうに笑いながら徐々に形を崩し、やがて暗闇に溶けて消えた。
「助かった…」
俺はへなへなとその場に座り込んだ。
もしパチンコで大当りしていなかったらどうなっていたのだろう。
どうやら運が良かったのは俺の方だったらしい。




