94話 設置作業
「じゃ、ちょっと石柱から離れた場所に出しましょ。 転がって石柱を倒しちゃったら大変ですし」
「そうだな」
ウルズさんと石柱から少し離れた所まで移動し、ブレスレッドをはめている腕を前に突き出す。なんか、ちょっと格好良いかもこのポーズ。
「水の魔法石……でてこーい。 なんちゃってっ!」
格好良いポーズに決め台詞。ちょっと恥ずかしいけど、一度やってみたかったのでその場の勢いで強行してみた。横の骸骨へチラリと目を向けると、その空洞の眼からは何時ぞやも浴びせかけて来た痛い子を見る視線が飛んで来たけど無視しよう。
顔を赤らめつつ待っているとブレスレッドにはめ込まれていた魔法石が淡く光り出す。そこから空中に何かを投影するかの様な光が立ち昇り光が頂点に達した頃、光の中から魔法石が浮かび上がって来た。
「光が消えたらすぐに後ろに下がりますよ、どっちに転がって来るか分かりません!」
「うむっ」
浮かび上がってきた魔法石をじっくり確認すると、僕が壊してしまった元からここに安置してあった物より結構大きいかも。きっと魔力もそれだけ大きいのだろう、使い処なんて無いだろうけど何時かこんなのを自分でも作ってみたいな。
「小娘っ、そろそろ光が消えるぞっ」
「はいっ、急いで逃げましょう」
徐々に光が収まり、そして……
「あ、あれ?」
「ぬんっ」
「ぐえっ」
完全に光が消え去った後、急いでその場を引こうと思ったけど違和感に足が止まる。ウルズさんに足が竦んで動けなくなったのかと勘違いでもされたのだろう、襟首を思い切り引っ張られて宙ぶらりんにされてしまった。有難いのですが、もうちょっと優しく。
「浮いているな……」
「浮いていますね……」
僕を振り回しつつ数歩下がったウルズさんも動きを止め、二人で魔法石の方へ目を向けると。魔法石は転がって来る事も無く、数秒前に現れた場所に音も無く浮いていた。
「どう言う事だ?」
「僕に言われましても。 あっ!!」
そうだ、母さんがこの魔法石を作った時も浮いていたような?
「浮いてました」
「ぬ?」
「僕が母さんにこれを渡された時も、浮いてました」
「……」
無言のウルズさんが、そっと僕を振りかぶり……
「ちょっ、ちょっと待って。 投げないで、投げないで下さいっ! あの時は僕も結構大変だったんですっ。 魔法石が壊れちゃったのを怒られると思ってましたし、ウルズさんは動かなくなっちゃうし、母さんに痛い子だって心配されたり、お腹いっぱいで気絶しちゃったり、いつの間にやらウルズさんがまた動いたり、制限時間を設けられたりと生まれて初めて何がなんやらのてんやわんやだったんですっ」
心からの説得が響いたのだろうか、振りかぶられた体はそのまま投擲に入る事は無く、そっと地面に降ろされた。
「まぁ、その中に押し込まれてからの事は粗方聞いていたが、そう言う事は忘れるな」
「ど、努力だけはしてみます」
前の階層に引き続き乱れた服を整えつつ、魔法石を見上げる。一つの問題が解決すると新しい問題が生まれて来るのはどうにかならない物だろうか。穴でも掘って落としておけば良いやと思ったとたん、早速これだ。
「はぁ……」
「急に溜息なんてどうした?」
「この魔法石、どうやって石柱に括り付けましょう。 鎖なんて直せる自信ないです。 ちょっと前に魔法でダガーを作った事があるんですけど、僕の作った奴なんて全力で岩に投げつけるだけで折れちゃう程度の物しか…… そもそも強度うんぬんより、綺麗に輪っかを作ること自体が無理な気がします」
「ふむ、そうか」
「何か気の無い返事ですけど、僕の話を聞いてます?」
「キサマのバカ力では、大概は砕けるだろう。 鎖よりも何より、こんな場所に浮かばせた魔法石をどう石柱まで運ぶかの方が悩みどころだな。 なにせこのデカさだ、動かすだけでもかなりの手間になるのではないか?」
言われてみれば確かに、巻き込まない様にと用心して取り出した魔法石と石柱との間はそこそこ距離がある。これは動かせるのだろうか、ちょっとロッドでつついて見よう。
「重そうですよね。 浮いているから、案外何とかなっちゃったりとかするんでしょうか」
「おい小娘っ、むやみに触るな。 重い以前にこれだけの魔力の塊だ、下手に扱ったら暴走するかもしれんぞっ」
「え? あー……」
ごめんなさい、その忠告は遅すぎました。既にロッドの先端は魔法石に当たってます。そして大した抵抗も無く魔法石が動いちゃってます。
「動いた!」
「ぬぅ……」
「と、特に暴走しているっぽい感じはしない様な? えっと、とりあえず石柱まで運んじゃいます?」
「気を付けろよ押すだけだからな、変に魔法など使って石に吸わせようものならどうなるか分からん。 ほれ、もっと右だ右っ!」
「そ、そうですね。 って、ウルズさんは手伝ってくれないんですか?」
僕だけ働かせようとしている骸骨に疑念の目を向けてみる。そりゃ、僕がやる仕事なので手伝う義理は無いだろうけどここまで来たんだし一緒にやって欲しいんだけどなー
「小娘、吾輩がどんな存在か分かっててその発言をしているのか?」
「ウルズさんの存在? ゴーレm……あっ、ごめんなさい嘘です、魔法生物です。 手伝ってくれない腹いせに、ちょっと調子に乗りました。 だからそんな怖い目で見ないで」
くそぅ。何故、眼の中が空洞なのに色々と表情を変えられるのだ、あの骸骨は。
「それで、ウルズさんが働いてくれない理由って?」
「キサマ、ここまで条件が出揃ってる状態でまだその質問を続けるのか。 魔法生物の吾輩が、魔法を吸収する魔法石に下手に触ろう物なら……どうなっても知らんぞ? ほれ、理解したらっさっさと動け」
そっか、めんどくさいのは性格だけでなくて存在もだったか。いっそ、叩きつけて吸わせるだけ吸わせたら大人しくなってくれるのだろうか。無理だろうなぁ……




