71話 そして一日目は潰れて行く
「介抱と言ってもどうする? 外傷なら手持ちの傷薬で何とかなるだろうが、そこの骸骨騎士の話じゃ恐らく内臓や耳の奥をやられちまってるんだろ? 上に運ぶ前に最低限の治療が必要になるが、外傷じゃねぇから傷薬じゃ無理だ回復魔法になっちまう」
「ふぇっ?」
「けどよ、回復魔法を使える奴なんてこの中に数える程も居るかどうか。 上から救護を呼ぶにも、説明だのなんだのしている内にかなりの時間が掛かっちまうぞっ」
ウルズさんに小声でした提案の返答は、目の前のウルズさんの更に先に居る冒険者の人から返って来た。思わぬ場所から返って来た返答に情けない声を挙げつつ、そちらに目を向けると既に武器を収め既に足元に倒れている人の様子を伺いながらもこちらに顔を向けつつ僕の返事を待っているようだ。よく見ると周りの人達も僕の方に目を向けつつ、僕に返答をして来た人と同じ様に行動を開始している。
「えっとウッ、ウルズさんっ!? どどどどうしましょ? と言うか、僕が指示とか出せる立場じゃない気がっみんながこっちを見てきますっ!」
「何を言っている小娘。 緊急時は指示が重なって混乱する事を避ける為に、一番余力と実力を持つ者がその場を仕切るのは当然だろう? この場で余力と実力があるのは小娘になるから当然の行動だ。 質が落ちたと思ったが、最低限の行動は一応出来るようだな」
「じゃあ、ウルズさんが一番でしょ? 余力と実力なんて僕にはありませんよっ。 それにこの騒ぎは元々勝手にこの場所に出て来たウルズさんの責任なんですし」
「吾輩、呼び出されただけの骨である。 召喚されただけの只の骨がそのような立場に立てる訳も無ければ、勿論責任などあると思うか?」
まだその設定続いているんです?ネクロマンサーなんて、その場凌ぎの嘘でしょ。さてはこの骨、めんどくさい事は僕に押し付けるなんて事は考えていないだろうか?
「まさか、責任……逃れ?」
「この場合は、逃れと言うより転嫁だな」
やっぱり確信犯ですね。あれですか、フルアーマーって付けずに名前を呼んでいる僕への当てつけ?それとも、復活した瞬間にブレスレットにしまい込んだ事への嫌がらせ?どちらにしろ、このままでは勝手にブレスレットから抜け出して、勝手に混乱を巻き起こしたウルズさんの責任を全て僕が負う羽目になってしまう。
「だが、安心しろ小娘。 何と、吾輩の鎧の中に隠し持っている道具袋の中に……ぬ、取り難いな肋骨に引っ掛かる……よし、取れた。 この袋の中に、母上殿からもしもキサマが大怪我を負ってしまった場合にと、回復魔法の込められた魔法石を渡されている。 こいつを使えば……小娘?」
きっと周りの人達もウルズさんを呼び出したのが僕だって感じで見ているのだろうし、違うと言っても信じてくれなさそうだし、倒れている人達の事を考えると言い訳している様な時間も無さそうだし、明日の事も考えるとこれ以上大事にしたくないし、どうせ負う事になる責任なら少しでも軽くしたいし、結局やれることはやろうとか思ったくせに何もやっていない自分が情けないし……
「ふふっ、母さんに我儘を言った天罰なのでしょうか。 問題なんて何も起きないと思っていたのに」
「急にどうした? それよりもさっさと片付けるぞ」
初日の、しかも今まで問題なんて無かった入り口でこんな事になるなんて。
「おい、吾輩の話を聞いているのか?」
「へ? あっごめんなさい、途中から全く聞いていませんでした。 とりあえず怪我をした人達を治しちゃいましょう」
倒れている人の中から目に付く怪我が重そうな人に回復魔法を掛ける。一人目を治療中に周りを見て思う、誰から順番に癒せばよいのかが分からない、多分近い順でやって行ったら間に合わない人が出て来てしまいそうだ。こういう時は経験がない僕ではどうにもならない、なら今この場で一番経験がある存在に聞くしかない。
「ウルズさん、治療すべき人の優先順位が分かりません。 ウルズさんが選定して下さい」
「使えたのだな、回復魔法……」
「はい?」
妙にガッカリしている様な声で呟いているウルズさんの方に目を向けると、どこから出したのか分からないけど袋を抱えて棒立ちしている。何かやろうとしていたのだろうか、考え事をして話を聞いていなかったせいでウルズさんの行動の意図が読み取れない。
「あの、ウルズさん? そろそろこの人の治療が終わります。 出来れば、急がないと危険な人を見繕ってくれませんか?」
「あ、あぁ……すまん。 そうだな……そこの、先程キサマに話しかけてきた男の足元の奴だ」
「分かりました。 多分ですが、この位の傷ならそんなに時間が掛からないような気がします。 ですので何人か先までの順番を決めて指示を下さい」
きっと、初めてこれだけの怪我の人を診ていたら躰が竦んで動けなかったかもしれないけど、傷の程度で言えばちょっと前に治療したアレックスさんのパックリ割れたお腹の方がもっと酷かった。まさか、あの時の治療の経験がこんな所で役に立つとは。って、そんな事思い出しているより今はウルズさんの指示をしてくれた人の治療に注力しなくては。
「嬢ちゃん、あんたネクロマンサーなのに回復魔法も使えるのか」
「へ? ネクロ? あぁ、そう言う設定でしたっけ。 ……そうだ、おじさんお願いがあります」
二人目の治療の目処が付いたところで、順番違いになっちゃっうけど話し掛けて来た二人目の容態を見ていたおじさんに手をかざし癒す。
「設定ってなんだ? って、おおっ! 傷が治った? それと俺はまだ29だ、まだおじさんじゃない。 ギリギリお兄さんだ」
「……じゃあ、お兄さん。 躰が痛くないようでしたら上に行って応援の人を呼んで来て頂けませんか?」
「了解した、行って来る」
「お願いしますっ」
階段の方へ走っていくおじ……お兄さんの背中を見て思う、こんな状況でも呼び方を訂正して来ようと言う事はよっぽど譲れない物だったのだろう。
結局、ウルズさんの指示通りに怪我の酷い人から順に回復して行きひと段落。その頃には上から神殿の人達を含む応援が到着したので、その後は神殿の人の指示に従う事に。意識の無い人を地上に運び終わってから僕を含む数人の軽傷だった冒険者が呼び出されて事情聴取中だけど、恐らくそろそろ終わるかもしれない。
「……なるほど、皆さんの仰る事は分かりました。 では、お話を聞いた結果としては、幾つか注意をして解散としましょう」
「へ? 注意って、それだけですか?」
すっかり窓の外は夜の帳が下る頃、全員の話を聞いた神殿の偉そうな人の口から出た纏めの言葉に疑問が沸き思わず口走ってしまった。
「何か?」
「てっきり、怪我した人の治療費とか、壊れた装備の弁償とか言われるのかと……」
「話を聞いた限りでは今回の騒動は犯罪行為ではありません。 言わばお互の不注意から起きた事でしょう」
お互いの不注意と言うより完全にウルズさんのせいだ、と断言したいけど当の骨が『どうやら魔力が切れそうだな。 では、吾輩は戻る事にしよう』とか何とかワザとらしく言って、僕の意思すら押しのけて勝手にブレスレッドの中に入って行ってしまったので改めてこの場で出して新しく問題も起こす訳にもいかない。それ以前に、いくら自由に出れるとは言え、まさか自由に入る事も出来たとは……このままでは僕のブレスレッドの一角があの骨のお部屋になってしまいそうで怖い。
「規模の大小はあれど、不注意から発生するトラブルなど日常茶飯事です。 死人が出てしまった場合は流石に何かしら考えねばなりませんが幸い貴方の魔法で怪我人は全て回復していますし、我々はギルドではありません。 我が神殿ではそのような事に罰則を設ける気はありません」
「そう……ですか……」
折角悪くない方向で纏まりかけた話をぶりっ返す気も無いので黙っておこう。
「では、お互いへの注意ですが……クリスさん、貴方は使役する骸骨騎士を無詠唱や無告知で呼び出す行為は、今後周りに冒険者が居る場合は禁止とします。 ですので、次から骸骨騎士を呼び出す際には緊急時を除き必ず周りに分かるように行動して下さい」
「……はい」
勝手に出て来るあれを、僕が制御できる自信なんてこれっぽっちも無いけど返事はしっかりしておく。問題をこれ以上増やしたくない。
「では次に……」
その後は、冒険者の人達に状況確認は徹底する様にと注意がされて解散する事に。正直、誰一人納得しないと思っていたけど皆二つ返事で了解したことに驚いた。それどころが今度機会が有ったら一緒に冒険をしようなんてお誘いまで貰ってもっと驚いたりもしたけど、流石にこれは社交辞令かな。もっと大事になって、自分じゃどうにも出来なくなって逃げ帰る未来しか想像してなかった身としては、あっさりと事が片付いてしまってホッとしたと共に気が抜けてしまった。
「とりあえず、ご飯でも食べて……それからどうしよう」
今日がこんな事になってしまった以上、明日に全てを掛けよう。その為にも、今一番の問題と話し合わなくては。




