60話 到着!! やる事やってさっさと帰ろう
ウルズさんに先駆け一足先に四層目に降りる。
印象としては三層目より天井が低く全体的にも狭いけど、同じような吹き抜け。
違うところは中央から先は大きな水溜まりが有り、奥の方の壁に空いた大きな穴は排水溝なのだろう、水が流れ込んでいる。
空から見たレイテンの街に隣接していた湖の大きさに感動したのを覚えているけど、建物の中で視界一杯に広がる水溜まりも、普段見慣れない環境のせいかとても神秘的でこちらもなかなかだと思う。
でも、それ以上に視線が向いてしまうのは水溜まりの中心に四角を作るように立っている四本の柱、そしてその柱から伸びている鎖に繋がっている水がドバドバと流れ出ているとても大きな石。
「石から水が湧き出てる」
「あれは石ではない。 もう魔力が残っていないせいで輝きが鈍く……違うな、輝きを失ってしまった魔法石だ。 どうやら吾輩が思っていた以上に深刻な状況であったか」
どう見てもでっかい石にしか見えない。
魔法石ってもっと宝石みたいにキラキラしていたと思うけど、そう言えばアレックスさんが移転の魔法石を使った後、あんな感じに石みたくなっていたっけ?
後ろから追いついて来たウルズさんの説明を聞いて、改めて石を見て見る。
「これに魔力を込めれば良いんですよね?」
「うむ、所でこれからどうするのだ?」
「これからですか? 勿論、外に出て受付の人にウルズさんを始めモンスターを設置した人の事を尋ねて、一旦母さんの所に行こうかと」
「すまない、聞き方を間違えた。 幾らドラゴンとは言えたった一匹の魔力などたかが知れいている、その場凌ぎの魔力の補充をしたところで、そう遠くない未来にまたこの魔法石の魔力は枯渇するぞ。 定期的に通うのか?」
通う? 僕が? ここに?
あり得ない、今回はウルズさんが居たからここまで来れたのに次から一人でここまで来るなんて無理。
きっと一回ここに来れば母さんからの課題は合格だと思う、思いたい、思わせて。
「まさか、何も考えていないなんて事は…… おい、何故吾輩から目を背ける?」
「ウルズさん。 未来の事なんて誰にも分からないんですよ? ですからきっとどうにかなりますって」
「誰も未来予知をしろなんて言っておらん、これからの計画を聞いているのだぞ」
計画かぁ、これまで目の前にある事を片付けるのが精いっぱいだったからなぁ……
母さんか姉さんの後ろに付いていただけだし、あの二人の言う通りにしていれば大体の事が上手く行っちゃってたから、自分でそう言うの考えていなかった。
駄目なのは分かっているけど、今回も一番確実な方法を取らして貰おう。
「母さんに聞いて見ます。 僕にここに来るように指示をしてくれたのも母さんでしたので、きっとそう言う事も考えていると思います」
「時々話に出て来るが、キサマの母上と言うのは何者なのだ?」
「母さんですか? そんなの決まっているじゃないですか僕と同じ竜です」
「そう言う話をしているのでは……いや、もう良い。 ここでグダグダと話し合っていても埒が明かない。 今すべき事をしてさっさと外に出よう」
「それが一番ですね」
目の前にある魔法石に魔力を注ぎ込んで母さんからの課題終了のはず、最初は絶対に無理そうだったけど、どうにかなった。
まだ注ぎ込んでいないからどうにかなっていないけど、もう怖い事も無いし終わりと考えても問題無いだろう。
「じゃあ、始めますね」
「うむ」
確か水の魔法を撃てば勝手に吸ってくれるんだっけ?
あの大きな石がキラキラ光るまで魔法を撃ち続ければもう一回ここに来る確率も無くなるだろうから、全力で頑張ろう。
水溜まりの端まで歩いて覗き込んでみると大分浅い、排水溝の方は水の色が濃いから深いような気もするけど石の近くまでは目の前と同じ色だから僕でも歩いて行けそう。
後で乾かせばいいだけだし、遠くから撃つより近い方が命中しやすいし水溜まりの中に入るか。
「小娘?」
「ちょっと遠いので、近くでやってきます」
「そうか、なら吾輩も付いて行こう」
思っていたより冷たくない水に膝まで浸かりながら石まで近づき、お試しでちょっとだけ魔法を撃ってみると、ロッドの先から出た水が流れ落ちる事無く浮き上がり、石の中に飲み込まれて行く。
なるほど、こうやって魔力を吸うのか!
よし、じゃんじゃんやって行こう。
両手を前に出ししっかりと掴んだロッドの先端を石に向け、先程よりも強く魔法を放つ。
水の魔法、巣の水場を作った以来使っていなかったけどなかなかどうしてしっかりと発動する。
一分、二分……結構な時間ロッドの先からどんどん溢れて来る水が、面白いように石に吸収されて行くけど、目の前の石は石のまま、淡い光すら放たない。
「ウルズさん、これって魔力を吸収しているんですか? 全く反応が無くて、これが本当に正しい行動なのか疑問に思って来たのですが」
「魔法で放たれた水が吸収されているのだから問題ないであろう。 反応が無いのは、それだけこの魔法石が枯れていた証拠だ」
「なら、まだまだ吸うんですねこの石」
これは思っている以上に長期戦になりそうな。
三層目は牛が食べ放題だし、喉が渇いたら幾らでも水が目の前にあるし、またここに来る事になるのは嫌だし、少しここに泊まり込んでしまおうか。
「ウルズさん、これからもっと強く魔法を使ってみようと思います。 それで暫く経っても何も変わらなかったら、二、三日くらい泊まり込もうかなと」
「何もそこまでやらんでも良いのではないか? 今でもかなりの量は吸わせたと思うぞ。 そもそも小娘自身の魔力も厳しいのではないか、一層目から主に吾輩に向かってだが、かなりの魔法を放っているだろう?」
僕の魔力が厳しい?
正直な所、母さんの後ろに放されない様に付いて飛んでいる方がよっぽど魔力を使っているので、このくらいならどうって事ない。
むしろ心配なのは、もっと強く魔力を消費して水を勢いよく出せるかどうかの方が問題だ。
何しろやった事が無い、それをこれからやろうとしているのだし。
少しずつ魔力を強く込めて、そう思った矢先……
パァンッ!!
水音すら掻き消すようなとても大きな音が部屋に響き、慌てて視線をウルズさんから音のした方へ向けると、石に絡みついていた鎖の一本が千切れて垂れ下がっていた。
「小娘!! なにをしたっ!?」
「これからしようと思っただけで、まだ何もしてないです。 ひっ!!」
突然の事で混乱する頭でウルズさんに答えていると、もう一本大きな音を響かせ鎖が吹き飛んだ。
よく見ると石にヒビが入りそこから水が噴き出てる。
「ウ、ウルズさん。 僕、今だけなら未来予知が出来そうな気がします」
「偶然だな、吾輩も出来るぞ」
お互いに顔を見合わせ、今の現状なら誰でも出来そうな未来予知に頭を巡らせ、どちらからでもなくほぼ同時にこの先に訪れるであろう未来への対策を叫んだ。
「逃げるぞ!!」
「逃げましょう!!」
回れ右をして、スカートの裾を持ち上げとりあえず全力で階段へ!
一足先に走り出したウルズさんの後ろに付いて数歩駆け出したところで、三度目の破裂音。
後ろを振り向く余裕なんて無いので音だけしか聞けなかったけど、大きくゴトンと重い物が落ちる音と衝撃。
「ウルズさん待って、スカートが……スカートが足にまとわりついて上手く走れない」
「ええい、緊急事態と言う時に」
「わっ」
一瞬立ち止まってくれたウルズさんに抱え上げられたおかげで、後ろを確認する余裕が生まれ振り返ってみると、振り返らなければよかったと後悔した。
枯れ掛けていたとは言え、まだ水が出ていた石が地面に落ちた衝撃なのだろうか真っ二つに割れ、多分これから時間を掛けて湧き出るであろう水が一気に噴き出て、こちらに向かって来る。
「ウルズさん、大変です。 未来予知が当たってしまいました!」
「そんなもの、この状況なら誰でも当たる。 それよりも先程キサマが発した言葉、覚えているか!?」
「ど、どんな事言ってましたっけ僕?」
「未来など、どうにかなるっ!」
あー、そう言えばそんな事言った様な気がするけど、今それがどうしたと言うのだろう?
迫り来る水から、進行方向へ目を向けると……なるほど、そう言う事か。
階段までまだまだ距離があるし、階段に辿り着いたところで水から逃げれたわけでもない。
「ウルズさん!」
「どうしだっ!?」
「何とかなるんじゃないんでしょうか、僕は竜ですし、ウルズさんはゴーレムですし」
「前に言ったが吾輩は、魔法生物である! ゴーレムなどと一緒にするなっ! 下らんことを言っているならそろそろ覚悟と悪あがきをしろ、一気に流されるぞ」
まだ遠い階段、後ろから迫って来る水音、このまま流されても何とかなってしまいそうな気もする。
けど、何とかなる為にもやれるだけの事はやってみよう。




