57話 焦がしたと思ったら燃えていた
想像していた以上の爆炎がロッドの先から放たれた事に、最初はあの骸骨に一矢報いた気がしてスッキリしていたけど、徐々に時間が経ち炎が収まるのに比例して頭に昇った血が引いて来ると少々を通り越して、かなりやりすぎてしまった気がしないでもない。
元から骨だったけど、骨も残らず灰になっていたらどうしよう。
そんな事を考えていると、炎は収まり目の前には若干煤けた骸骨が立って居た。
うん、灰になっている訳でも崩れ落ちている訳でも無いので大丈夫だろう、多分。
「ウ、ウルズさん。 どうでしょう、景気づけの一発でしたが魔力の補充になりました?」
相手のノリに合わせた感じて話しかけてみたけど、反応が無い。
もしかして、壊れた?
……カタッ! カタカタカタカタッ
「ひぃっ 気持ち悪いっ! え? あっあのっ」
「小娘よ、体調は問題無いか?」
「も、問題無いですけど、むしろその質問は僕がする側では?」
「そうか。 よし、小娘さっさと進むぞ」
「あれ?」
急に震え出したと思ったら、自身の体を確認するかのように体を見回したり捻って直ぐに階段を降りて行ってしまう。
あっさりしている、非常にあっさりしている。 どういうことだ、こんな事した後なら一言二言あると思ったのに。
兎にも角にも置いて行かれる前に付いて行こう。
「小娘、三層目のモンスターなのだが少々厄介でな、吾輩はキサマを護ってやる事が出来ないかもしれん」
「護れないってどういう事です?」
「三層目の地図の話をしたが覚えているか?」
「ええ、長方形でしたっけ?」
実際、言われた通り三層目の地図には縦長の四角しか書いていない。
百人が見たら百人が地図だと信じてくれないだろう、書いた僕だって信じたくないくらいだ。
「三層目は貯水池だ、いざと言う時に四層目の排水路を閉め三層に溜められるように作られている」
「貯水池って、お水を溜める奴ですよね?」
「ああ、水は抜いてあると思うがでかい水槽の底での戦いという事になる。 遮る物も、身を隠す物も何も無い」
「と、と言う事は、三層目に居るモンスターが一斉に僕たちに襲い掛かって来ると?」
「そうなるな」
そうですか……なら、やる事は一つですね。
骸骨と小娘で出来る事なんてたがか知れている。
「三層目ってやっぱり、上の二つの階層よりモンスターが強いんですよね?」
「二層目が楽園に感じられる程度にはな。 だが……」
ウルズさんがまだ言葉を続けているが知ったこっちゃない。
そもそも僕は母さんに、ここには戦闘訓練をする為に来た訳じゃないと言われているのに戦いばかりだ。
これはもう無理、母さんは僕の実力を過大評価し過ぎなんですよ。
さて、やれる事はやり切りました。
あとは、帰って母さんに謝ろう。 無理でしたってね。
「じゃ、帰りますか。 ウルズさんお疲れ様でした。 上に戻ったら受付の人にでもウルズさんの事尋ねてみますね、そう言えばどしましょう、ウルズさん出入り口から出て行くどころか、一層目の入り口付近に移動するだけでも大惨事になっちゃいますね、バラバラになる事って出来ませんか? 出来るなら何度かに分けて入れたくはないですがこのカバンに入れて運び出す事が出来ますけど、出来ないようでしたら僕が近くに居ない時にでも強行突破でもして頂けませんか? でもあれですよ、あくまでも僕とは無関係と感じられるように迅速に、速やかに、無言で、被害も最小限で街から出て下さいね、じゃないと僕がこの街でパンケーキを食べに来れれなくなって大変困りますので」
「……えらく饒舌だな。 戻る方に考えが向いた瞬間一気に気が楽になったのは分かるが、話は最後まで聞くように。 あと、速やかと迅速は同じ意味ではないのか?」
「ここを出てからの事ですね、先程もお話しましたが是非母さんを紹介させてくださいね」
そして、退治……いや、ここら辺は母さんに一任しよう。
ふぅ、色々と肩の荷が下りたら一気にお腹が空いて来た。
もうお昼も過ぎている頃だろうし、干し肉でも齧りながら帰ろう、外に出たらまずはご飯かな。
「さー、まわれ右していざ出発ー、ってあれ?」
階段を上がる為の第一歩を踏み出した瞬間に浮遊感が生まれて足が地面に付かない。
圧迫感があるお腹の辺りを見ると、骨の腕があり、上を向くと髑髏。
「あの、ウルズさん。 骸骨に抱きかかえられるのって非常に気持ちが悪いって知ってます?」
「勿論である。 吾輩この方法で何度も女冒険者共を泣かせて来た」
あ、いつものウルズさんが戻って来た。
「吾輩も不本意ではあるが、人の話を聞かないどこかの小娘のせいで力技を取らせてもらった」
ならこちらも力技で!
足をバタつかせてみたけど拘束が緩む気配がない。
お腹に回されている腕を掴んで折ってみようと頑張っても折れないし、踵で膝だか脛だかを蹴り上げてもびくともしない。
これは、手も足も出ないって奴じゃ……
「急にしおらしくなってどうした? 一層目で吾輩に殴りかかって来た時のバカ力はどこへ消えた?」
「しおらしくなんてそんなつもりは毛頭ないんですけどね。 さっきからどうやって骨を砕くか思案しているのですが、なかなか難しくて」
この間のアレックスさんの時もそうだったけど、なぜこうも抱えられるだけで僕は力が入らなくなってしまうのだろう。
考えても分からないし今はそれどころではない、今はこの気持ち悪い骸骨からどうやって逃げるかだ。
「理由は分からないが抵抗が出来ないなら好都合、先程の話の続きさせてもらうぞ。 吾輩の今の目標は、吾輩を作った者を探す事である」
「それなら、もうここに留まる必要なんてないじゃないですか。 出ましょうよ」
「うむ。 だがな、ここに長く居過ぎたせいかこの場所に愛着がある。 なるべくなら、この街を守りたい」
「はぁ」
「魔法石の魔力が尽きたらこの街は崩壊するだろう、なにせ生きる為の水が尽きるのだからな」
まぁ、魔法で出した水が無ければあっと言う間に干上がってしまうでしょうね。
周りは見渡す限り荒れ地ですし、どこかから川でも引かない限りお水の確保は厳しいかな。
でも、こんな荒れ地の真ん中まで川を引くにしても、どれだけの時間とお金が掛かるのか見当もつかない。
「だから魔法石に魔力を注ぎに来たと言うキサマをここまで案内をした。 三層目を突破出来る程の実力があるかを確かめつつな」
「無理です、以上。 さぁ、離して下さいなっ」
「吾輩も先程までそう思っていた。 三層目で少しモンスターを小突いてやれるだけの事はやったと言い聞かせて逃げるつもりだった。 吾輩と小娘だけでは突破は無理だと思っていたからな」
先程まで思っていた、逃げるつもりだった、無理だと思っていた、全部過去形ですね。
もう嫌ですよ、めんどくさい事するのは。
したくは無いけど想像が出来てしまう、この先の展開が。
ああ、やっぱり向きを変えた。
ウルズさん違いますよ、僕たちの進むべき階段は目の前にある下り階段じゃありません、先程まで向いていた昇り階段です。
お願いです進まないで、もう一回まわれ右です。
「吾輩を焼いたロッドから噴き出たあの炎、あれは見事であった。 しかもあれほどの魔法を使用しても体調に影響がない程の魔力、正直これ程の実力があるとは想像外である。 それだけの力と吾輩がいれば……とにかく一度三層目を見てくれ、それでだめだと言うなら吾輩とて無理強いをするつもりは無い」
どうやら、僕が放った爆炎はウルズさんに物理的に火を付けた以外に、闘争心にまで火を付けてしまったようだ。




