42話 宝探し……ではないようだ
「母さん、僕たちはどこに向かっているんですか?」
目の前を飛んでいる母さんに質問を投げる。
流石に、どこに行くのか何をやらされるのか分からないのは不安で仕方ない。
「レイテンと言う街だが、知っているか?」
「確かそこって、勇者の休息地と言われた場所ですよね」
「そうだ」
本で読んだ知識しかないけど、確か勇者が未熟だった頃に一度魔王と戦いそして敗れ、命からがら逃げ伸び傷を癒した場所だったはず。
魔王を倒し世界が平和になった後も、足しげく通い続けて羽を伸ばした事もあって休息地なんて愛称が付いたとか何とか。
そんな場所に行って何を? と言うか今更ながら僕はとてつもない思い違いをしている気がしてきたぞ。
行く場所は分かり一つの不安が消えたと思った矢先に、新たに生まれた不安が生まれて来る。
どうして不安と言うものは一つ消える度に、消えた分だけ生まれて来るのだろう。
そんな事を考えながら飛んでいると、見える景色が徐々に変わり始め草原や森から、砂漠と言うより乾いた荒れ地と言う方がしっくりくる景色が目に飛び込んでくる。
そして、飛んでいる僕らには大した時間も掛からないだろうけど、実際に地面を歩くとなるとかなり辛そうな距離を移動すると見えて来たのは、荒れ地に似つかわしくないなみなみと水を湛えた大きな湖。
そしてその湖に轟々と水を流し込み続けている神殿と、人の営みをしっかりと感じる都市と言うには小さく村と言うには大きい、小さめの街。
レイテンと言う街の場所までは知らなかったけど、進行方向に有るって事はあそこがレイテンなのだろう。
徐々に高度も落ちて来たし、間違いないんだろうな。
勇者に関わる場所……レイテンと言う”街”…………迂闊だった。
ちょっと考えれば簡単に想像出来る事だった。
多分、久しぶりに母さんに会った事や、これから始まる鍛錬の事で気持ちが浮かれていたのかもしれない。
人になる事なんてそんなに無いと思って覚悟を決めて着たあの服を、その日の内に人前に晒す事になるなんて。
「はぁ……」
「この先に水の神殿と呼ばれる場所がある」
「そうですか……」
「さて、ここでやる事だが…… どうした、服がきついか?」
「いえ、服もブーツもぴったりです。 きついのは自分の考えの足りなさでしょうか」
「?」
こちらを向きながら首を傾げている母さんに向かって、苦笑いを浮かべる。
勇者に関わる場所で鍛錬って言われてたもんなぁ。
人の姿になるも当然か。
「それで、僕はここで何をすれば?」
「うむ。 まずはあの神殿に向かうぞ」
神殿へ向かう参道を見るとお店が多いけど、武器や防具などを扱う冒険者向けのお店が多い。
普通は神殿なんだし、祀っている神様の像とか絵とか売るお店の方が繁盛するのではないのだろうか?
飛んで来ちゃったから分からないけど、この荒れた土地を移動する為には恐ろしいモンスターと戦わなくてはならないとか?
そう言えば、周りを見渡すと冒険者が多い、如何にも神殿に仕えていますって感じの服装の人が殆ど見当たらない、むしろこの周りで一番それに近い恰好をしているのは僕の気がする……
「人、多いですね。 てっきり人っ子一人居ない人外魔境とかで何かをやらされるのかと思っていたのですが」
「そんな場所で出来る事なんて、魔獣かその上の幻獣相手に戦闘訓練位しかないだろう? そん鍛錬なぞ姉とじゃれていた方が何倍も効率が良い」
何か今、サラッと凄い事を言われた気がするけど聞き間違いとして受け取ろう。
それにしても、こんな場所でやる鍛錬とは一体?
神殿に向かうという事は、瞑想かな?
「この神殿は地下に階層があってな、地下4階層目に我らの巣にある水場と同じ、水を出す魔法石が安置されている」
「へぇ、あの神殿から流れ出ている水ってもしかしてその魔法石から?」
「そうだ。 だが、もうそろそろ枯れる」
「え?」
「そう遠くない未来、魔法石の魔力が尽きてこの湖も無くなるだろう」
建物の間から見える湖に目を向けると、船が浮かんでおり魚を獲っている人が見える。
きっとこの町に住んで居る人達にとっては生活の要なのだろう。
それが無くなるという事は、この街自体が消えてしまうという事か。
「母としては、あいつの愛した場所がこのまま消えていくのが忍びなくてな。 そこでだ、鍛錬の一環として地下4層に行って水の魔法を撃ちこんで魔力の枯渇を防いで来て貰おうと思う」
「それだけですか?」
「それだけとは?」
「あっ、変な質問をして御免なさい。 その地下にある魔法石に魔法を込めるだけじゃ、鍛錬になんてならないのではと思いまして」
「あぁ、そう言う事か。 丁度神殿に付いたし中に入って説明しよう」
大きな神殿の入り口を通過すると中はこれぞ神殿と言う様な荘厳な感じ。
でもそこら中に冒険者と呼ばれるような格好の人達が居るけど、ここは冒険者の神様でも祀っているのだろうか?
それとも、ここでお祈りすると冒険中に水不足にならないとか?
「先ほどから思っていたのですが、冒険者の人達が非常に目に付きますね」
「この街は勇者が何度も通い続けたせいでな、勇者の宝が眠っているのではないかと言う根も葉もない噂が囁かれるようになってな」
「よくありそうなお話ですね」
「そのせいで宝を手に入れようと、あいつの死後に大勢の欲に目が眩んだ輩がこの街に訪れた」
「益々、よくありそうな……って、まさかその宝の話が今も残っているせいでこの人達は集まって来て居るとか?」
冒険者を見た後に母さんに目を向けると。
ゆっくり頷かれた。
それにしては、街中で宝探しをするにしては物々しい格好な気がするけどどう言う事なのだろう。
「そして町中を隈なく探しても宝が見つからなかった輩どもは神殿に目を付け、それを危惧した神殿の者達は、街の生命線である水の魔法石を守る為に神殿の各層に盗賊除けの為にと、モンスターや魔導人形を呼び出す魔法陣を設置してな」
「うわぁ……ってまさか!? その魔法陣ってまだ現役で動いていたり?」
「そのまさかだ」
これから僕たちはそこに行くんですよね?
モンスターや魔導人形が闊歩している場所に。
「あれ? ちょっと待って下さい。 勇者様が亡くなってとてつもない年月が流れているのにまだこの街に冒険者が沢山いるって事は」
「おそらく誰も地下4層目までたどり着けた者おらず、神殿の者達もこの地下に何があるのか伝えられていない、と言ったところか」
「き、危険すぎませんかココ? そのっ姉さんとじゃれていた方が、僕の鍛錬には丁度良いかなーなんて思っちゃったり?」
「人間の尺度で物事を図るならば危険かもしれないな。 それに先ほども言っただろう? 戦闘訓練をさせる為にここに来たのではない」
戦闘訓練じゃないなら、一体こんな恐ろしい場所が何の鍛錬になろうのだろうか?




