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39話 母と師匠

「……娘が、世話になっている様だな」

「いえっ 俺ら……じゃない、僕らの方が世話になってますです」


実にぎこちない。

ハースキーさんが、まるで借りて来た猫の様だ。



事の始まりは十分程前……


「クリス、世の中には付いて良い冗談と駄目な冗談がある。 お前ははまだ子供だから区別がつかないだろうが、今のは絶対に付いてはいけない冗談だ」

「そう言われましても、実際に僕の母さんですし。 色も形もそっくりだと思うんですけどねぇ」


ハースキーさんの注意に反論すると、再びの沈黙。

先程とは異なる、じっくりと観察されるような視線が突き刺さる。

……何かこう、じっくり見られるのって恥ずかしい。


「百歩譲って、見た目だけは確かに白の女王を小さくした感じだな」

「譲らなくっても良いでしょっ、そこは!」

「でもよ、お前が白の女王の子供だと言うのが、どうしても結びつかないんだよな」

「うーん、そうだ! じゃあ母さんを呼んで来ましょう!」


信じられないなら、当の本人を呼んで来て説明をしてもらおう。

それが一番早いし、確実だ。


「お、おい待て。 それだけはやめ……」


ハースキーさんの制止を振り切って飛び上がり、先に巣に行っていた母さんを説明の為に皆の前に連れて来た。

若干、ポメラさんを含め気を失っている人達が居るけど、流石に気が付くまで待つのもあれなので母さんに挨拶をしてもらうようにお願い。


そして今に至る。



「まだ、世間を知らぬ故、迷惑を掛ける事もあるかもしれないが、その時は厳しく叱ってやってくれ」

「し、叱るなんてとんでも御座いませんですます」

「よろしく頼む」


母さんが首を下げると、ハースキーさんを始め集落の皆が地面に頭を押し付ける様に腹ばいになった。

最初はいつもと違う独特な口調が面白かったけど、目の前の皆を見ていると思いの他迷惑を掛けてしまった様な罪悪感が沸いて来た。

後でしっかり謝ろう。

あと、休憩場所設営のお手伝いをもっと頑張ろう。


「ふむ、挨拶はこれくらいで良いか?」

「えっと、はい」

「ならば、先に上にあがっている。 この場をしっかり収めてから戻って来るように」


巣へ戻っていく母さんを見送った後、ハースキーさん達の方へ目を向けるとまだ腹ばいになっていた。

どうしよう、本当に迷惑を掛けてしまった気がする。


「あの、ハースキーさん?」

「……」

「ハースキーさー……ん」


返事がない。

でも、プルプルしているから気絶はしてないよね?


「あのー、もしもーし。 もしもー……」

「うがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

「ひぃぃぃぃ、すみません」

「クリスッ、おまっ、あれだ。 まず、そこ座れぇ!」

「す、座ってますっ」


これ絶対怒ってる。

どどど、どうすればぁ。


「お前、さっき説明したよな? ぽややんと、ひれ伏すような恐怖の差を」

「は、はいぃぃ」

「そっそれを、俺が止めるのを振り切って連れて来るたぁ……どう言うこったぁっ?」

「御免なさいぃぃぃ」


兎に角、頭を下げよう。

そうだ、さっきみんながやってた腹ばいにもなろう。

お腹をビターンと地面にくっつけよう。

あ、芝生がすっごい気持ち良い……違う、今そんな事考えている場合じゃない。


「……まぁ、何だ。 俺も突然の事だったから怒鳴っちまってすまなかった」

「……」

「何時までもそうしてねぇで、ポメラとかを起こす手伝いをしてくれ」

「……」

「おい、びっくりしただけでそこまで怒ってねぇから、いい加減頭を上げろって」

「……zzz」


モンスター対策で持っていたらしい、胡椒玉を鼻に突っ込まれました。

くしゃみが止まらずのたうち回ったせいで、気絶した皆が起きたのは起こす手伝いになったのだろうか。

そんなこんなで、皆が起き上がって僕のくしゃみが収まってきて一息ついたところで、改めて説明。

今度こそ信じてもらえるだろう。


「ズビッ……と言う訳でですね、ズズッ……鼻水が止まりませんが改めて紹介させて頂きますね、ズビッ……先程ここで挨拶したのが僕の母さんです」


周りを見ても誰もあり得ない物を見る目をしていない、今度こそ理解して貰えた様だ。

よかった。


「はい、質問!」

「ポメラさん? クシュッ、そんな畏まらなくてもいつも、通りお話してもらえると有り難いのですが」

「そ、そうね。 んじゃ、質問なんだけど、気絶してて直接聞いてなかったんだけど、白の女王が娘が世話になっているって挨拶をしたらしいじゃない?」

「そうですね」

「クリス、貴方……メスだったの? 自分の事、僕って呼ぶからてっきりオスかと思ってたんだけど」


この状況で、一番最初の質問ってそこ?

何かもっとこう、女王ってどんな感じなのとかそんな事聞くんじゃないの?

周りを見ても、頷いてる人が多いし。


「ええ、一応メスですよ」

「一応?」

「まぁ、色々ありましてメスです」

「???」


申し訳ないけど、こればかりは説明するわけにはいかない。

説明したところで、理解して貰える気もしない。

その後も、何でここに営巣したのかとか、竜の威厳はどこ行ったのかとか僕関連の質問しかしてくれない。

母さんの質問って無いのか僕から逆に質問した返答は、


「恐れ多くて、聞ける訳がない」


と、全員一致で返答された……僕は畏れ多くないのね。

怖がられるのは嫌だけど、威厳みたいなものが欲しいな。

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