37話 まずは自分で出来る事から
あの戦争と呼んで良いのかよく解らない戦いが終わり、昔の僕に誇れるものを持とうと決意した日から一か月が経過した。
特訓の様なものが直ぐ始まるかと思ったら、戦争後のガルシュの様子見をするという事で、特に何もしないまま2日程家族三人で母さんの巣でごろごろしてからお開き。
自分の巣に帰る前に、襟を破かれた服と投げて真っ二つになってしまったダガーは何故か身に付けている物一式と杖まで回収され、頑丈に補修すると姉さんに持って行かれた。
「今風にアレンジしておくから楽しみにね!」と呟いた一言は、不安以外の何物でもないけど、もう預けてしまった以上今更返してとは言えない。
そして今現在も、残念な事に母さんの特訓はまだ始まっていなかった。
とは言え、流石にこの一か月間は僕なりに何かをしようと思い色々と行動はしたつもりではある。
一つ目は、巣の麓に拡張した水場の周りに集落とは別に休憩場所を作りたいと言う、ガルルン族の人達のお手伝い。
木々をなぎ倒し、岩を噛み砕き……頑張って整地作業を手伝った。
二つ目は、運搬用の網づくり。
貰った網をお手本に魔法で、オリハルコンを触媒に非常に丈夫な網を作る事が出来、今では海からイカを持ち帰り、焼いて食べる事が出来ると今まで以上に食生活の充実に一役買う事に成功。
三つ目は、巣の景観の向上。
ポメラさんから貰った種入りの土嚢を、モンスターの毛皮と交換でもう少しもらって水場の間一角に敷き詰め、今では最初に貰った土嚢から立派に草が生え、赤い花が咲いた。
でも、その事をポメラさんに伝えたらそんな速く育たないし、咲く花は紫のはずと言われ首を傾げられた。
……こちらは要経過観察かな?
ここまでだけなら、只のご近所付き合いと生活の向上だけだけど、今の僕は一味違う。
あの戦争では何もできず、役に立たなかった。
それをかいつまんでハースキーさんに相談したら、休憩所設営のお礼としてとっておきの必殺技を教えてくれると言うので喜んで師事する事に。
ハースキーさん曰く僕にはその必殺技を使う素質が有るらしく、ガルルン族の中でもここまで上手く扱える者はそうそう居ないと言う域まで上達出来た。
そして今日、時間はお昼前、必殺技のお披露目の日、設営中の休憩所の資材を置くための広場に僕たちは居る。
目の前には腕を組み、仁王立ちをしているハースキーさんが僕を厳しい目で見ている。
思わず、その眼差しの鋭さにたじろぎかけたけどぐっと堪える。
「クリス! 今日は俺が教えてやった事の集大成を見せる日だ。 失敗したところで何かある訳でもねぇが、自分を変えたいんだろ? なら、ぜってー失敗すんじゃねぇぞ!」
「はっはい!」
「どもるんじゃねぇ! しっかり返事をしろっ!」
「はいっ!!」
「おっし、良い返事だ。 いいか、俺が教えてやった通りにやれば何の問題もねぇ、気負い過ぎるな! よしっ、やれ!!」
ハースキーさんの号令に返事をせず、呼吸を整え高ぶった精神を落ち着かせる。
目を閉じ、周りの木々や草のざわめきを聞き、鱗に受ける風を感じ自然と一体になる。
深く息を吐き、全身の力を抜く。
そして目を開け、ハースキーさんと目が合うと満足している様に頷いてくれた。
どうやら上手く行っているみたいだ。
ハースキーさんが少し離れた場所に歩いて行きこちらを振り返り、胸をトントンと叩くジェスチャーを取る。
平常心を保てと言うメッセージだろう。
大丈夫だ、僕は僕なりにしっかりできているはずだ。
お互いに頷きあった時、広場に誰かが来る足音が聞こえる。
その方向に目を向けると、土嚢を担いだポメラさんが居た。
「クリスー、今日の分の土嚢持って来たわよー。 って、あれ? ハースキーあんただけ? さっきクリスと資材置き場に行くとか言ってなかった?」
「ん? あ、ああ…… ちょっと用事があったらしくてな、今は居ねーよ」
「そっか。 でもあの子も変わったドラゴンよねー、巣に花を植えたがるなんて」
「まぁ、ドラゴンつったって色々いるだろ」
「色々いるだろうけど、こないだなんてお裾分けとか言って大きなイカを持ってこられた時にはびっくりしたわー。 滅茶苦茶美味しかったけど」
そんなたわいない世間話をしながら、ポメラさんが僕の目の前を通り過ぎてハースキーさんの方へ歩いて行く。
やった!
「ん? 今何か?」
しまった、上手く行きすぎて気持ちが高ぶってしまった。
ポメラさんが僕の方へ視線を向けて来る。
でも、視線が定まっていない様に見えると言う事は僕を認識していない……はず。
平常心っ平常心を!
あっだめだ、ばれるって思ったら平常心なんて保てない。
「ん? んんっ? あれ、クリ……ス? えっあれ?」
「あぁ、ばれちゃいました。 ポメラさん驚かしてしまって御免なさい」
状況が分からず呆けているポメラさんにとりあえず謝りつつ、ハースキーさんの方に顔を向けると、満足そうに頷いている。
ばれちゃったのに、何でそんなに満足そうなの?
「クリス、よくやった!」
「でも、ばれちゃいましたよ?」
「ポメラは俺たちの集落の中じゃ1,2を争う気配探知の達人だ、それをおめーみたいなでかい躰の奴が、目の前を通過させるまで気配を殺したんだ。 十分合格だっ」
「ほっ本当ですか!」
「ああ、だが忘れるなよ。 こう言う技って言うのは定期的に使ってないと錆び付いて行くからな」
「はい! 有難う御座いますハースキーさん、いえ師匠!」
「ふっよせやい」
目頭に熱い物が込み上げて来るのを堪えながら頭を下げると、ハースキーさんは鼻をかきながら答えてくれた。
必殺技を伝授する師匠と弟子……
こう言うの一回やってみたかったけど、まさか竜に生まれ変わってから実際に出来る機会が訪れるなんて。
「なにこれ?」
至極当然な質問をしてきたポメラさんにどう説明すべきか悩みつつ、久しぶりに味わう充実感に胸を躍らせる。
僕が初めて覚えた必殺技『気配殺し』、今はまだ完全じゃないけど必ず自由自在に使いこなして見せる!
「ねぇ、わけ分からないんだけど?」
感極まっている僕と照れくさそうにしているハースキーさん、そして完全に置いてきぼりなポメラさん……
混沌とした資材置き場に、お昼ごはんの炊き出しの匂いが漂ってきた。




