32話 戦争の理由
母さんの巣に帰って来る頃には、既に空が白み始め夜が明けようとしていた。
僕はほぼ意識が飛び掛け、姉さんの口から吐き出された兄さんに至っては意識が飛んでおり、姉さんも眠いらしく頭が回っていないようで、まともに動けるのが母さんのみという事態に。
結局、意識の無い兄さんの周りに逃走防止用の結界を張り、一旦寝るという緊張感も何もない事になってしまった。
ひと眠りして太陽がしっかり昇った後、ご飯を食べたり、流石に飲まず食わずは不憫だと思いお団子と水を兄さんに差し入れたりした後、まだ寝ぼけているそぶりを取っている姉さんに話を聞いて見る。
「姉さん、勇者を連れて帰って来て何をするつもりなんですか?」
「んー? 今回の戦争って、なんか変なのよねー」
「変ですか」
「そっ、疑問を疑問のまま終わらせちゃうと、案外めんどい事になるから連れて帰って来たのよ。 さて、お仕事モード~」
そんな事を呟きつつ、結界の方へ姉さんが歩いて行く。
折角だし物陰に隠れて覗いてみよう。
あ、兄さんが差し入れたお団子食べてる。
「やぁ、勇者君。 おはよう」
「俺は、お前かもう一匹の女王に食われたんじゃないのか? なぜ生きている」
「別に食べた訳じゃないさ、聞きたい事があったから運ぶ為に咥えただけ。 ご覧の通り、あたしの脚じゃ踏みつぶすか爪で引き裂く事しか出来ないからね」
姉さんらしくない口調で話をしつつ、前脚をプラプラ見せている。
お仕事モードとか言う奴なのだろうか。
「聞きたい事? もう一匹は俺の話なんて聞く耳持たなかったのに、お前は人の世界に興味があるのか」
「まぁ、人にも色々いる様にあたし達にも色々いるのさ。 で、本題なんだけどさ勇者君」
一呼吸置いた後、ゆっくりと姉さんが言葉を続ける。
「この戦争、君達は勝つ気が無かったでしょ?」
「ドラゴンでも、戦争の流れと言うのが分かるのか」
「こう見えても長生きしてるからね、戦争なんて腐るほど見てきているさ。 突出し過ぎた中央、開きすぎた両翼、どれも各個撃破してくださいって言っているもんでしょ」
意味がよく解らないけど、兄さんの表情を見れば何か凄い事を言っているのだろう。
姉さんが、姉さんじゃないみたいだ。
「そこまで…… そうだ、俺達は今回の戦争何としてでも負けなくてはならなかった」
「その理由、教えてくれるかな?」
「理由か。 もう、隠す必要も無いか…… 簡単に言えば、勇者は特別な存在ではない、ただの人だと言う事を知らしめたかった」
「悪いんだけど、簡単に言い過ぎかな? 意味が全く分からない」
姉さんの尤もな意見に同意。
その言葉に、乾いた笑いを浮かべて差し入れた水を含み、兄さんが言葉を続ける。
「一応、俺にはこう見えても勇者の子孫である事への矜持がある。 再び魔王や、それに準ずるものが現れれば、この身を犠牲にしてでも世界や人々を救いたいと言う想いがある」
「だから、何を言っているのか意味が分からないんだけど」
どの口が……
思わず飛び出していきたいけど、姉さんの邪魔になりそうだから控えよう。
「だが、父上や妹達……そして国王陛下は違った。 魔王も居なければ世界も乱れていない、こんな平和な時代に使い道の無い強大な力を持つと言う意味…… あいつらは、世界を守る力を欲望を満たす為に使おうと動き始めた」
「ふーん、よくあるお話よね。 でも欲望の為に力を使いたくない君が、何で侵攻軍なんかに?」
「俺や、同じ志を持つ者達だけでは、動き始めた欲望を止める手段が無くてね……」
回りくどいです。
要点さえチャチャっと言ってしまえば、それで終わりの気がするんだけど。
そう言えば、勇者の立ち居振る舞いの勉強で長ったらしく物事を伝えるみたいな事を習ったけど、そんな事に何の意味があると言うのだろう。
「だーかーらー、何で戦争して、何で負けたがってるのよー。 あたしはそれを聞いてるのー」
尻尾をビッタンッビッタンッと地面に叩きつけながら姉さんがキレた。
どうやら、お仕事モードは長く続かないようだ。
何時も通りの姉さんにほっとする。
「要は止める事が出来ないのなら、壊してしまえば良い。 今回の戦争で国の力、勇者一族の権力、そして国王の座……それを奪う為に画策したんだ」
「国王の座って、クーデター? 勇者君が王のイスに座る気だったの?」
「いや、俺はこの戦争で死ぬ予定だった。 座るのはアレックス……と言っても分からないか、第一王子を座らせる予定だったんだ」
アレックスさんって、あの人は王子様だったの?
王族の名前何て気にしていなかったから気が付かなかった!
凄い失礼かもしれないけど、あんな猪みたいな性格の人、王様になんて絶対向いてないと思う。
「俺が父上と陛下をそそのかし戦争を始めさせ無様に負けた後、逃げ帰ったアレックスが二人を弾劾し……」
「そんなの上手く行く気がしないけど?」
「もし失敗しても、軍事力の低下と勇者への信頼は失墜する。 特に勇者は殺せる、恐れるべき神では無い、只の人間だと周りの国々に知らしめたかった」
だんだんと、演説の様に熱を帯びて来る兄さんの発言が怖くなって来た。
そんな事しなくても、もっと別の方法とかあるんじゃなかろうか。
「じゃあ、あたし達は盛大に邪魔しちゃったかしら?」
「どうなんだろうな。 人同士の争いに負けるのと、この大陸を統べる女王に敗れる…… どちらだろうとガルシュにとっては致命的だろう。 さて、多分お前が知りたい事は答えたと思う」
「まぁね。 んで、これからどうする?」
「これから……か。 そうだな、結局人同士の戦いで死ねなかった俺はどうすればいいのだろう」
お互いに、次の言葉が続かないのだろう。
しん……とした時間が少し経過した時、姉さん首が僕の隠れていた岩へ伸びて来て、襟を咥えて僕を持ち上げる。
母さんの時と違って、盛大に襟がビリッと大きな音を立てるけど、姉さんはお構いなしに勢い良く僕を結界の前まで運ぶ。
「クリス?」
「じゃあ、勇者君。 貴方のこれからを、この子に決めて貰いましょ」




