15話 優しさだって、心に突き刺さる時もある
「俺らの獲物が逃げっから、そんな低く飛ぶな!」
獣人の人達の目を盗んでご飯を狩る必要が無くなったので、朝ご飯は森を自由に飛び回ってご飯を探してたらハースキーさん達に怒られた。
心配事が無くなって気が抜けてました、御免なさい。
と言う訳で、お詫びとしてハースキーさん達の狩りのお手伝いをする事に。
「西の方から俺達が待ち構えている方に向かって、わざとでかい音を立てて獲物を追い立ててくれ!」
「はい、でも大きな音って?」
「んなもん何でも構わん。 思いつかないなら、さっきみたいに低く飛びながら吠えてくれりゃあ、それで問題無い」
吠える……威嚇の事かな?
どうしよう、全く自身が無い。
「あのー。 僕、大きな声出すの自信無いんですけど……」
「は? お前ドラゴンだろ?」
「ドラゴンですけど、大きな声を出すのはちょっと苦手でして」
「そういや、お前が吠えた所を見たって奴が誰も居ねーな」
そりゃそうです。
基本的に、誰にもばれないようにご飯を狩ってたのに、大きな声を出したら「ここに居ますよー」って言っているようなもんですし。
「為にしちょっとやってみろ、見ててやるから」
「え?」
「だから、やれって。 自身ねーんなら俺らがアドバイスしてやっから。 ま、流石にどのくらいかは分からんから、最初は大人し目にな」
威嚇なんて母さんの巣で挫折して以来、練習なんてしてないよ。
人前でやるなんてとんでもない。
「その、本当に自信が無いんです。 ですから勘弁してもらえませんか?」
「お前……本当にドラゴンだよな? 俺はドラゴンじゃねぇから何とも言えないが、お前らにとっても威嚇って必要なんじゃねえの?」
「無駄な争いとか避けるには必要らしいのですが、まだまだ練習中と言うか、練習もしていないと言うか」
何とか威嚇以外で手伝う方法に話を変えないと。
別の大きな音が出る方法を……
「僕、雷の魔法使えます。 雷って大きな音が出るんですよ! それで、皆さんの狩の獲物を追い立てるってのはいかがでしょう?」
「場合に寄っちゃあ、俺らも感電するんじゃねえのそれ?」
「うっ……」
ほ、他に大きな音を出す方法は、何も思いつかない。
ボキャブラリーが乏しい自分が憎い。
「練習だと思って、一回吠えて見ろって。 俺ら獣人族は威嚇が得意だからダメな所を直してやっから」
「あの、本当に迫力が無いんです。 笑わないで下さいね」
いつかは練習をしなきゃいけないのは確かだし、誰かに手伝って貰えた方が上達も早い気がする。
恥ずかしいけど、やるだけやってみようかな。
それにこれで獣人の人とも、もっと仲良くなれるかもしれないし。
「それでしたら、やってみます」
「おう、さっきも言ったように初めは少し弱めにな。 自身が無いつってもドラゴンと俺らじゃ規模が違げーしよ」
「はい」
もしかしたら、ドラゴンの間ではまだまだなだけで、他の生き物には効くかもしれない。
なんて言ったって、僕だってドラゴンだし見た目も大きいし何とかなるかも?
よし、何か行けそうな気がしてきたぞ!
最初の一回目は弱めにと言う事なので、息は少しだけ吸って叫んでみよう。
「……がおー!」
あ、皆目を見開いて硬直している!
もしかして、もしかすると僕の威嚇はそこそこ威力があるのでは?
「もう一回、やってみて貰っていいか? 今度はさっきより強めに」
「良いんですか? 皆、腰が抜けちゃうかもしれませんよ?」
「ああ、構わねぇからやってみてくれ」
よーし、じゃあもっと強めに吠えて、皆をびっくりさせちゃおう。
さっきより大きな声で!
「がおーーー!」
どうです?
びっくりし過ぎて腰も抜かせないかな?
「なぁ、今の威嚇って10段階で行ったらどのくらいの強さで吠えた?」
「えっと、7か8くらいでしょうか」
「そうか…… 自信無いって言ってたもんな……」
あの、何で顔を反らすんですか?
目を見て話して下さい。
よく見るとハースキーさん以外の獣人の人達も、殆ど僕と目を合わせてくれない。
目を合わせてくれる人は、可哀そうな者を見る目で見てる。
「あの。 もしかして、僕の威嚇って怖くなかったですか?」
「暇な時は、練習手伝ってやるよ。 気長に頑張ろうぜ!」
「こ、答えになっていないですよ?」
「おし! お前、朝飯探してるんだよな? それじゃあ、お前の飯仕留めた後、俺らを呼んでくれねぇか? 食う前に俺らに毛皮を剝がせてくれ。」
「あれ、それじゃあ狩りのお手伝いにならないんじゃ?」
「話を変えた時点で、察してくれ。 俺の優しさを無駄にすんな」
あっそう言う事なんですね……
ハースキーさん、口調は乱暴ですが優しい人のようだ。 僕、少し感動しました。
でも、母さんみたいに直接言われるのも辛いけど、遠回しに言われるのも結構辛いです。
「つーわけで、朝飯狩るついでで良いからよ、食う前に俺ら呼んでくれ。 後、なるべく潰すのは頭だけにしてくれるとありがてぇ、そうすりゃ穴の開いてない質の良い毛皮が取れる」
「頭だけですね。 僕、空から静かに不意打ちで頭潰すのは得意なので、出来ると思います」
「不意打ちが得意で、威嚇が苦手…… お前、本当にドラゴンらしくねーな」
「あうっ」
「まぁ何でもいい、毛皮の質によっちゃあ礼もすっからよ、頑張ってくれや!」
ドラゴンらしさ……
ご飯食べてから考えよう……