14話 ご近所付き合い・後
朝、洞穴に太陽の光が入ってきて目が覚めたので、這う様に水場に行ってそのまま水に飛び込む。
あぁ、水が気持ち良い、昨日は獣人の人のせいであまり眠れなかったので少し頭がすっきりする。
眠くて体がだるいけど、族長さんが来る前に急いでご飯を狩って食べて来よう。
こういう時の為に何か、食べれるものを保存しておきたい。
獣人族の人達が襲って来ないだろうから、朝ご飯が麓の森で焼いたお肉を食べれるのは嬉しい。
水浴びして少しはすっきりしたし、狩りに行こ……うそだ、何でもう居るの?
ご飯を探す為に千里眼の魔法を使うと麓に、ポメラさんとハースキーさん、それに何人か獣人の人が見える。
朝に来るって言ってたけど、早すぎでしょ。
だって、まだ日が出たばかりだよ?
お腹は空いてるけど、ご飯を先にしたら失礼にあたるだろうし、仕方ない麓に降りて族長さんと話すのを先にしよう。
こうなるなら日向ぼっこと水浴びしてた時間で、ご飯を貯めて置けば良かった。
麓へ下りて行くと、そこら中から視線が突き刺さる。
木陰に潜んでいる人達もいっぱい居るし、とにかく直ぐに逃げる準備だけしておこう。
着地するとポメラさんが手を振って迎えてくれたけど、返事を返す余裕が沸かない。
「おはよう! ドラゴンさん」
「うん、おはよう……」
「元気が無いけど、どこか具合が悪いの? もし、今日がダメなら別の日にしましょうか?」
この人、こんな朝早いのに元気だなぁ。
昨日の夜、ハースキーさんを抱えて帰ったのに、全然くたびれている様に見えない。
「いえ、思っている以上に獣人の人達が多くて、怖いなーって」
「あー……ごめんね。 族長が動くとなると、警護がどうしても付き添う事になっちゃってて」
それにしても多い気がするんですけど。
これだけの人が襲ってきたら、怪我をさせずに逃げられる自信無いよ。
「そろそろ、儂が話に入っても良いかの?」
「あ、族長。 すみません、昨日報告した通りまだ子供みたいなので、優しく話して下さいね」
「分っておる」
僕とポメラさんの所に歩いて来るお婆さん、この人が族長さんなのだろう。
僕がお婆さんに顔を向けた瞬間、周りの人達が一気に構えるのが見えた。
木陰に隠れている人なんて、弓とか構えちゃってるし。
「ポメラ、周り奴らを下がらせとくれ。 怯えさせてはまともな話が出来んぞ」
「しかし、それでは万が一の時に…… 畏まりました」
お婆さんが一睨みしてポメラさんに指示を出すと、ポメラさんがあっと言う間に周りの人達を遠ざけて行く。
一部言う事を聞かない人達は、昨日のハースキーさんの様になっていった。
結局僕の周りには、お婆さんとポメラさんとハースキーさんの三人。
「さて、人払いは済んだ。 どうだい、これでゆっくり話が出来ると思うんじゃが、大丈夫かい?」
「はい」
「まずは自己紹介じゃな、儂の名前はトサ。 この森に住んで居るガルルン族の長をしておる」
自己紹介どうしよう、僕は何て名乗った方が良いのやら。
まぁ、隠す必要も無いし人の名前を言っちゃっても良いかな。
「えっと、僕たちドラゴンは決まった名前を付けないんです。
ただ、それだと誰が誰なのかわからなくなってしまいますので、クリスって呼んで下さい。」
「ふむ、じゃあ遠慮なくクリスって呼ばせて貰おうかね」
このお婆さんとしっかり話す事が出来れば、朝だろうと昼だろうと大手を振ってご飯を狩る事が出来るはず。
そう言えば朝ご飯まだだった、お腹空いたなぁ。
「早速だが、いくつか質問しても良いかい?」
「はい、良いですよ」
「まずは、お前さんはこの森でモンスターを食料としているが、鳥やウサギ等の小動物は食わないのかい?」
「食べようと思えば食べれますけど、あんな小さい物ではお腹が膨らむまでに日が暮れちゃいます」
「……だろうねぇ。 儂らの狩は鳥や小動物が獲物だからそれも食われちまうと、こっちとしても困った事になるところだから、そこら辺は問題はなさそうだね」
その後も、山の上に住んで居るのかとか、ずっと住み着くつもりなのか等の質問が続いてそれに答えて行く。
特に怪訝な顔をされなかったので、悪い印象を与えている訳ではないと信じたい。
「ふむ、長々と質問して悪かったね」
「いえ、皆さんが住んで居る処に僕が入って来たので、不安になるのは当然だと思います」
「じゃあ、儂からの質問は以上だ。 お前さんからの質問はあるかい?」
「あの、僕はこの森でご飯を取っても良いですか?」
「ああ、お互い狩りの対象が異なっているんだ。 問題無いさ」
おお! 狩りをしても良いってお墨付きを貰えた!
これで三食、お肉を焼いて食べれる。
「有難うございます!」
「礼なんか要らんさ、むしろこっちが礼を言わんといかん」
「へ?」
「モンスターは儂等にとって脅威以外の何物でもない、それを食ってくれるなんて感謝しかない。
その上、お前さんの住み着いた山の上から水が流れる様になって水の確保できる場所が増えたしのう」
水?
あ、上の水場から溢れたのが岩肌を伝って下まで流れて来て居るのか。
という事は、僕が水浴びして汚してしまった水とかも流れるって事だよね……
「ん? 急に黙りこくってどうしたんだい?」
「い、いえ…… 特に何でもないデスヨ」
言えない、口が裂けてもその水は僕の水浴びした水も含まれてるなんて言えない。
湧き水をそのまま飲むなんて事は無いはず、きっと一度沸かしているよね?
むしろ必ず沸かして下さい、お願いします。
「他に何か聞きたい事があるかい?」
「えーっと、特にないと思います」
「そうかい、それじゃあ何かあったらここらで狩りをしている者か、集落まで来な。
場所は……上から見れは儂らの集落が見えるだろうから言わんでも問題ないね?」
「はい、狩りの時に何度か見た事があるので大丈夫なはずです」
どうやら獣人の人達と喧嘩する事は避けられたかな?
これで、三食お肉を堪能出来る。
暫くはイカが主食になると落ち込んでいたけど、まさかこんな早くお肉生活に戻れるなんて。
「そうだ、挨拶代わりに渡すもんがあったんだ」
「?」
トサさんが手を叩くと木陰に隠れていた人達が樽と麻袋を持って来た。
貰えるらしいけど何だろう?
「これは?」
「昔からの習わしでな、友好の証としてうちの集落で作ったもんを送ってんだよ。
お前さんの躰じゃ腹の足しにもならんだろうが、受け取っとくれ」
何が入っているのかは分からないけど確かに竜の躰じゃ一口で食べる事が出来てしまいそう、でも人なら何日も持つ量だ。
兎にも角にも、食べ物を貰えるのはとても有難いです。
「有難う御座います。 大切に食べますね」
「そう言って貰うと、こっちも持って来た甲斐が有るってもんだ」
その後、トサさん達は少し話した後に帰って行った。
貰った物を巣まで運んで早速中身を確認すると、麻袋の中には乾燥させた肉と果物。
思わぬ形で保存食が手に入った。
樽の中はお酒、僕はお酒なんて飲めないからこれは母さんか姉さんが来た時にでも、飲んで貰えばいいかな。
これは一旦建物の中に置いて、朝ご飯を狩りに行こう。