13話 ご近所付き合い・前
麓の森でご飯の狩をして二週間目、遂に恐れていた事が起こった。
「……」
「……」
ご飯に向かって急降下で降りて行って押さえつけた所、目の前に獣人の人。
きっと狩りの為に潜んでいたのだろう。
周りを気にしながら狩りをしていたけど、流石に物陰に潜まれていたら見つけられないよ。
お互い見つめ合ったまま、固まった状態が暫く続いている。
どうしよう。
僕としては争いは勘弁して欲しいけど、どうやったら穏便にこの状態から抜け出せるか。
と、とにかく驚かせないように、急いで足元のご飯を食べて逃げてしまおう。
襲い掛かられては困るので獣人の人を観察しながらのご飯は、今まで一番ゆっくり出来ないご飯でした。
夜、なるべく物音を立てないように巣から飛び立ち、森の上をなるべく羽音を立てずに旋回する。
初めての遭遇以降、注意を重ねて獣人の人達を観察すると、夜は獣人の人達も家に帰っている様なので、森の狩は夜の闇に紛れて行う事にしている。
朝昼は海でイカ漁に精を出してます。
でも、周りに誰も居ないのでご飯を焼いて食べる事が出来る。
ここ最近、竜の躰では生肉と生イカしか食べていないので、火の通った食べ物が食べれると言うのはとても幸せ。
さて、今日のご飯~
一気に頭を踏みつぶしてから、周りの木々を燃やさない様に火力を抑えめで吐きつつ、じっくり火を通す。
お肉の焼ける匂いって良い匂いだなぁ。
イカも焼きたいけど、木よりも柔らかいイカなんて絶対に咥えて飛ぶ事が出来ない。
海の上に浮いているイカに火を吹いても焼いていると言うより、周りの海水が沸騰するだけで焼けずに茹っちゃうんだよね。
そんな事を考えていると良い感じにお肉が焼けたので、齧り付くと口の中に肉汁があふれ出し、最高の気分になっていたのに、後ろに足音。
しかも凄い誓い、もしかして待ち伏せしていたの?
「おい! ドラゴン。 お前、俺の話している言葉の意味が分かるか?」
関わりたくない。
乱暴な口調だし、絶対に面倒な事になりそうだけど、いきなり襲い掛かって来なかったと言う事は、話し合いがしたいのかな?
知らない大人の男の人と話すのは怖いけど、勇気を出そう。
「うん、分かるよ」
「うおっ、本当に喋った!」
後ろにいる獣人の人に首を向けて応えたら、驚かれた。
喋れるかって聞いて来たくせに、喋ったら驚くなんて失礼な人だ。
「おじさんは誰?」
「おじ…… 俺の名前はハースキー、この森に住んでいるガルルン族の者だ」
「ハースキーさんは僕に何の用なの?」
「お前、この山の上に住み着いたドラゴンだよな? 一度、俺らの族長と会って貰いたい」
会いたくないです。
会いたくないですが、どうせ会うまで待ち伏せされそうだなぁ。
争いになるよりは、話し合いの方がまだ良いのかな。
「族長さんと話すの?」
「明日の朝、お前の山の麓にある開けた場所に行く」
「その、乱暴な事ってしないよね?」
「それは保証出来ねぇ。 族長とお前の話次第では俺らが滅ぶか、お前が死ぬまでの争いになるかもしんねぇ」
「そんなぁ……」
何でそんな乱暴な事をしたがるのだろう。
言葉を交わせるのだから、仲良くしようよ。
「ちょっと! 何でそんなつっけんどんな答え方するの!
ドラゴンが怖がってるじゃない!」
ハースキーさんの後ろの木陰から女の人が出て来たけど、この人も耳が頭に生えているので獣人の人なのだろう。
只でさえ、一対一でも怖くてたまらないのに更に増えた。
耐えられない、もう逃げよう、今逃げよう、直ぐ逃げよう。
「ねぇ、ドラゴンさん。
後ずさらないで、ちょっとだけお話させて、ねっ」
嫌です。
もう巣に帰ります。
洞穴に篭って寝ます。
これから毎日イカ食べますから近寄らないで下さい。
「お願いだから首を横に振らないで、本当に少しだけだからお話を聞いて欲しいの」
「ち……近づかないで…… 火を……吹きますよ」
「分ったわ! もうこれ以上近づかない。 だから、話を聞いて! お願いだから」
これ以上近づいたら火を吹こう。
獣人の人に届かないくらいの小さな火でも、飛び上がりながら吹けばきっと逃げられるはず。
「じゃあ、これ以上こっちに来ないなら聞きます」
「めんどくせー、こんなビビってんならちょっと威嚇すりゃ、ブベッ!」
あ、ハースキーさんが吹き飛んだ。
「あのバカの事は気にしないで。 まずは自己紹介させて、私の名前はポメラ。
驚かせてしまってごめんなさいね」
「いえ……」
「族長のお話はね、争う事じゃないの。
貴方はこの森でご飯を取ってわよね? そして私達もこの森に住んで、ご飯を取っている」
「うん」
「暫く見ていたのだけど、貴方は私達を襲わずにモンスターを食べているでしょう。
だからお互いの事を知って、助け合って生活しましょうってお話がしたかったのよ」
獣人の人が居ない場所で狩りをしていたつもりだけど、どこかから見られていたのか。
何処にどうやって隠れていたんだろう、全く気が付かなかった。
それよりも、助け合って生活する為の話し合いなら、上手くいけば狩りがずっと楽になるはず。
「どう? 一度、族長とお話をする時間を作って貰えないかな?」
「うん、僕も周りを気にせずに狩りが出来るなら、会ってみたいかな」
「ありがとう! それならいつ頃会って貰えるかしら?」
「えっと、ハースキーさんが言ってた明日の朝でも問題ないですよ」
日向ぼっこと水浴びしかしてないので、時間ならいっぱいありますので……
何かやる事探さないといけないって分かってるんだけどねぇ、やりたい事が見つからない。
「明日の朝ね、了解したわ。 じゃあ、また明日会いましょう!」
「あ、ポメラさん待って下さい」
「ん? やっぱり時間変える?」
「いえ、時間は問題ありません。 そこの木に引っ掛かっているハースキーさんはどうしましょうか?」
「あ、すっかり忘れてた。 流石にこのまま放置してたら明日の朝には骨になってたわね。
よっこいしょ! それじゃあ、改めてまた明日、宜しくね」
二人とも帰ったし、僕も帰ろう。
族長さんと会うのは怖いけど、ご飯の為だし明日は頑張ろう。