12話 食べ物探しとご近所さん、あと挫折
巣の中で少しゴロゴロした後、洞穴を出て大きく伸びをする。
空を見上げるといつもより太陽が高い位置にある。
昨日は人間の躰にお別れに行った帰りに、のんびり夜ご飯を食べてしまったせいで、帰るのが凄い遅い時間になってしまったので寝坊した上にまだ眠い。
眠いけど、お腹が空いたから朝ご飯にしよう。
僕の巣には保存しているご飯が無いから狩りに行かなきゃ。
巣の淵に立ち、麓の森を千里眼の魔法を使って朝ご飯を探すと少し眠気が冷めた。
ご飯は居る、でも森の中で狩りをしている人間も居る。
人間と言うより、頭に獣の耳が生えてお尻に尻尾があるので獣人族かな?
同じ場所で狩りをする以上、どうしても出会っちゃいそうだなぁ。
少しでも周りに人が居ない場所を探して、ご飯を探そう。
回りを気にしながら食べる食事はお腹が満ちるだけで、食事をしたと言う満足感が得られないね。
近くに生えている木の中から、咥えたまま巣まで持ち帰れそうな太さの木を見繕って持って帰ろう。
流石に建物は作る事が出来ないけど、イスやテーブル位だったら僕でも木を触媒にすれば作れるはず。
丁度良さそうな木を見つけて巣に戻ろうとすると、木に視界が邪魔されて目で見る事は出来ないけれど、凄い勢いでこちらに迫って来る幾つもの足音がする。
多分、獣人の人達だろう。
もしかして僕って、狩りの獲物になってないよね?
とにかく今は逃げなきゃ。
飛び上がってみると想定外な事に気が付く。
木を咥えて飛ぶというのは想像以上に難しい。
とても柔らかく簡単にかみ砕いてしまいそうな上に、無駄に長いのでバランスを取るの至難の業だ。
大分前に、母さんへのお土産と言って魚を咥えて飛んでいた姉さんの凄さを、身をもって体験。
翼を動かす度に口の中でミシミシなる音にヒヤヒヤしつつ何とか巣まで到着。
下を覗くと案の定、さっきまで居た場所に獣人の人達が集まってる。
困った、あの人たちの目を盗んでご飯を狩るのは難しい。
森でご飯を取り難い時は、海や人の街に出る事も選択肢の一つとして考えておかないと。
困ったことは後回しにして、気を取り直して家具を作ろう。
まずはイスとテーブル、その次は棚かな、そうだベットも欲しい。
あまり人として生活する気はないけど、建物の中に置く家具一式は作りたいな。
運んで来た木を複数に嚙み分けてから、まずは一個作ってみよう。
頭の中でイスをイメージして魔力を込めると、木の形が徐々に変わり始め、四本の木の棒に、板切れが付いている歪な形のイスっぽい物が出来た。
初めて作ったのだし、それなりな形が出来たので良しとしよう。
後は何度も作って行けば精度が上がって最終的にイスになるはず。
家具くらい簡単に作れるなんて、どうして楽観的に考えていたのだろうかと後悔を始めたのは、最初の一個目のイス?を作ってから三日後。
何度作り直しても、焚き木にしか出来なさそうな木の塊しか出来ないので、心がポッキリと折れて妥協策を模索した結果が輪切りの丸太。
座る事が出来ればそれはイスであり、物を置く事が出来ればテーブル、足が四本ある必要なんてどこにもないんだ。
と言う訳で、建物の中には輪切りにした丸太と、丸太が並べられる事になった。
やっぱり構造が分からないと、上手く作れないのだろうか。
流石にオリハルコンを使うのは気が引けるし、人になって作ろうとしても木を綺麗に切り分けるなんて事も出来ない。
イスとテーブル(丸太)は出来たし、今度街に出て家具屋さんでお手本を見るまで、家具作りは保留としよう。
流石に、丸太を棚やベッドと言い張るだけの心の強さは僕には無い。
家具作りが中断となると、やる事が……無い?
このままでは日向ぼっこと、水浴びだけの毎日を過ごす事になってしまう。
何かやる事を探さなくては。
今、僕がやらなくてはならない事はご飯の確保かな、足元の森以外にも何ヶ所か狩場を見つけないと。
そうだ、海に行ってご飯が取れるか調べて来よう。
同じ海でも、場所によっては全然取れない場所もあるらしいし、取れる場所でも船が多ければ人を巻き込みかねない。
善は急げだ、早速行って見よう。
森を超えて狭い平原を過ぎれば直ぐに海。
大きな港町を通り過ぎ沖まで出て周りを確認すると、漁をしている船が殆ど居ない。
ちょっと船が少ない気がするけど、ここら辺ってもしや魚が居ないのかな?
まぁ、とにかく雷を落としてご飯を取ってみよう。
口を広げて雷を放つ。
魚が居ないかもしれないので、深く広範囲に感電させる様に強めに!
雷特有の海面を走る稲光と、大きな音が静まると海面近くに居た小魚が最初に浮かび上がって来た。
小さいのは魚を食べているのか、海水を呑んでいるのか分からないので論外です。
もっと大きいの浮かんで来ないかな。
暫く経つと、水面に向かって来る大きな影が見える。
おお、遂にお腹が満たせそうな大物が……イカ?
初めに人間の子供くらいの大きさのイカが浮かんできた後、そこら中に同じサイズのイカ、イカ、イカ。
結果としては大漁でお腹が膨らむけど、イカしか居ない。
ここはイカの海なのだろうか。
食べきれない分は、近くの船の人達へのおすそ分けとして、イカを食べてしまおう。
見た目はアレだけど味は美味しいからいいけど、イカばかりは飽きちゃう。
明日は街にでも行って見ようかな?