1話 「僕」が終わった日
僕の家系はまだ魔王と言うものが居た時代、その魔王を討伐した勇者の子孫らしい。
勇者の子孫は勇者と同等の能力は持てなくても、何かしら非常に優秀な力を覚醒し家を繁栄させて来た。
でも、極稀に何も力の覚醒しない子供が生まれる事があり、その子供は12歳の誕生日までに何も力を持つ事が出来なければ、
竜の胃袋と言う底の見えない洞穴の奈落へ突き落され、竜への生贄と言う名目で処分される。
僕は今、竜の胃袋の淵に立たされている。
今日は僕の12歳の誕生日……僕の処分される日。
穴の中を覗き込むと本当に底が見えない、こんなところに落ちたら間違いなく死んでしまう。
「さっさと飛べよクリス! こっちだって暇じゃねぇんだよ!」
「そうよ、私だってこんなむさ苦しい所に一秒だって居たくないの」
ルイン兄さんと、イザベラ姉さんが僕を促す。
二人は僕と違って非常に優秀だ、兄さんは王国の近衛騎士団に所属しているし、姉さんも既に内定している。
兄さんたちから逃げる様に父さんと母さんに視線を向ける。
駄目だ、いつもと同じまるでごみでも見るような瞳で僕を見ている。
同じ家族なのに、なぜこんなひどい事が出来るのだろう。
「ルイン兄さまも、イザベラ姉さまも落ち着いて下さいな。」
「ミリー、助けて……」
ゆっくりと僕の方へミリーが歩いて来る。
僕の双子の妹、僕と違い勇者の生まれ変わりと持て囃される力を持っている妹。
「クリス兄さま、これから私の誕生パーティーがありますの」
「え?」
「ですから、『私の』誕生パーティーですわ」
双子なんだから僕達のじゃ……そうか、もう僕は……
「お友達は勿論、父さまご友人等のご来賓もいらっしゃるの、ですからそろそろ準備に戻らないといけませんわ」
「あ、あの……」
「もし遅れてしまったら、私だけではなく父さまの顔にも泥を塗る事になりますわ」
「でも……僕はまだ死にたく……」
「クリス兄さま。 今まで散々迷惑をかけて来たのに、最後の最後まで迷惑を掛けるおつもりなのですか?」
そんな、僕はただ力が無いだけで誰にも迷惑なんて掛けた事なんて無い。
それなのに、なぜそんな事を!
「はぁ、ここまで言ってもまだ飛び込まないのですね。 もう良いです、『風よ!』」
「ひっ」
ミリーの手から放たれた風の魔法で一歩後ろによろける。
もうそこには足場は無い。
急に訪れた浮遊感に今までの思い出が走馬灯のようによぎる。
こんな時になっても何一つ良い思い出が出て来ない。
僕、何で生まれて来たんだろう。
そんな気持ちを抱えながら、僕の意識は闇に溶けて行った。