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皆様、ごきげんよう。私はルーシェ・リナ・リスティルですわ。
私は今、のんびりとユアンお兄様とユーリ君に手紙を書いていますのよ。とは言いつつ、半分は別のことを考えているけど。
(今回、一応夢を変えられたのよね・・・・・・。ゴウエンがラルムの首を斬るということは防げたわけだし・・・・・・)
これは結構大きなことだ。未来が変わったのだから。
未来を変えられるのなら、アステリア王国が滅びるという未来も、変えることができる確証を得た。
(でも、もう一つ懸念が出てきたわ。ガルディア皇帝はアステリア王国に攻め入るかもしれない。私のせいで・・・・・・)
これは結構大問題だ。お父様はガルディア帝国の情勢を考えたらすぐにはあり得ないと言っていたけど。
(私がいることにより、この国は滅んでしまう。ならば、私がいなければきっとまた、違った未来が訪れる)
私は今まで出会ってきた多くの人たちの顔を思い出した。
「・・・・・・」
(私、みんなのこと大好きなのよね・・・・・・)
本当は、出て行きたくなんてない。ここに、居たい。
はたっと、手紙に水滴が落ちた。
「え?」
それが自分から出ていることに気が付く。
「あらら・・・・・・」
涙をぬぐうが、どんどん出てくる。少ししんみりとしていると、後ろから声を掛けられた。
「ルーシェ?」
「あら、お父様」
声の方向に振り返ると、お父様が立っていた。
「ルーシェ!? どうしたんだい!! 傷が痛むのか!? いや、くせ者!? おい、お前たち!!!! ルーシェを泣かせた奴をさがしだせえええ!!!」
お父様は後ろを振り返ると叫び始めた。
「お父様、落ち着いて。ユアンお兄様にお手紙を書いていますの。・・・・・・寂しくて泣いちゃっただけ。恥ずかしいから、叫ばないで」
「そうか・・・・・・。ケガの具合はどうだ?」
「大丈夫」
「よかった。なあ、ルーシェ」
「何?」
お父様は私の手をぎゅっと握った。
「お前は小さいね・・・・・・」
どこか悲しそうな声だった。
「どうしたの?」
「いいや。お前を、もっと安全な国で生んでやりたかったなあと思って・・・・・・」
「お父様?」
「戦うのは嫌いだろ?」
お父様は悲しそうに笑った。
「・・・・・・お父様」
「ん?」
私はお父様に抱き着いた。
「ルーシェ」
お父様がなぜそんなことを言ったのかわからない。でも、私は一つだけ言えることがある。
「私、お父様とお母様の娘でよかったと思っていますのよ?」
「そうか・・・・・・」
「だからそんなことを言わないでね」
私はとびっきりの笑顔で言ってやった。この幸せに、あと少しだけ浸っていよう。
(いずれ、別れはきっと来る)
その時に少しでも、後悔しないように。
「ルーシェ!! お久しぶり!」
「あらアイヒ。ごきげんよ・・・・・・」
本日はアイヒが来る予定だった、のだが・・・・・・。
「ラスミア殿下まで・・・・・・」
「すまない。勝手に来て悪かった」
ラスミア殿下は眉を下げて申し訳なさそうにしている。
「もう・・・・・・」
謝ってくるのだから仕方ない。
「護衛は僕だから大丈夫」
「そうですね、ちゃんとついているなら・・・・・・って!?」
(ちょっと待って、今、聞こえてはいけない声が聞こえた!)
ぎぎぎっと私は上を向いた。
「国王陛下・・・・・・」
そこには優しそうな微笑みを浮かべた国王陛下がいた。
私はお決まりのセリフを言った。
「お父様には?」
「今日は会ってないねえ」
そっぽを向かれた。周りの騎士達も目が死んでいる。
「もう・・・・・・」
「大丈夫ですわ、ルーシェ」
アイヒはふふっと笑った。
「ええ?」
「ちゃんとアドルフ様に伝えましたから」
「いつ!?」
国王陛下は驚いた顔をアイヒに向けた。
「お父様のことだもの、絶対に付いていくからってお母様がおっしゃってて。だから、来られるのではなくて?」
「なんてことだ・・・・・・」
まさかの王妃様に一本取られた形だ。
「やれやれ・・・・・・。子どものころからちっとも変わりがない」
「おばあ様!?」
突然会話に入ってきたのはおばあ様だった。
「エイダ様・・・・・・」
「困った国王陛下じゃな。・・・・・・アドルフが連絡してきたからな、しばらくは私が護衛じゃ、護衛。アデルとクラウスあたりが外で構えているから問題なしじゃ」
世界最強の護衛がここに誕生。ここに来た刺客たちが可哀そうだ。
「とりあえずお茶を用意しますわ。ルカ、お願い」
「かしこまりました」
やれやれと一息ついた。
「で? 領地はどうでしたか?」
「えーとね・・・・・・」
アイヒにとっては普通に問いかけただけだろうが・・・・・・。
「そうですわね。色々と楽しめましたわよ・・・・・・」
内容が濃くてとてもじゃないがアイヒに伝えきれそうにない。
「従弟君達とはいい交流ができたよな。今度、王宮に招待するか?」
それを感じ取ったのか、ラスミア殿下が助け船を出してくれた。
「ええ、そうですわね」
その時だった。
「あ、ヤバい」
私達とお茶を飲んでいた国王陛下がそう呟くと、立ち上がった。
「どうされました?」
「父上?」
「お父様?」
「みんな、今から任務を与える・・・・・・」
国王陛下は真剣な顔で私たちを見つめた。
「「「はい?」」」
「今から奴が来る!!」
そう言って、指さした先には・・・・・・。
「お父様・・・・・・」
お父様がスゴイ形相でこっちに向かってきているのが見えた。
「あいつから私を逃がしたものには私が何でも願いを叶えよう!!」
ドーンっと効果音が付きそうである。
(なんでよ・・・・・・)
「お父様、素直に捕まりましょう?」
アイヒはあきれ顔である。
「ほほほ。面白そうじゃの。何でも叶えてくださるのじゃな?」
おばあ様は面白そうににやりと笑った。
「かなえられることでお願いしますよ? エイダ様」
若干、国王陛下の表情が引きつった気がした。
「まあ、本当ならば参加したいが、私もアドルフから伝言を預かっていてな、国王陛下を捕まえたら、騎士達には休みとボーナス、他の者には欲しいものを与えると言っておったぞ」
それにはラスミア殿下たちの護衛もざわっとした。
「こら、騎士達! なんでアドルフの言葉に反応するわけ!?」
「そりゃ、アドルフ様の言葉の方が信ぴょう性があるに決まっているでしょう! 大体、逃げたのは国王陛下でしょう!」
はっきり騎士達は言った。休み欲しい! ボーナス欲しい! との声が上がる。どうやら、完全に国王陛下の敵に回ったようだ。
「ルーシェ姫」
「無理です。あきらめましょう」
「そうか・・・・・・」
あきらめた、と誰もがそう思った。
ひゅっ。
「え!?」
「消えた!?」
「お父様!?」
「父上!?」
国王陛下は瞬時に視界から消えた。
「あ、いた! 捕まえろ!!」
騎士の一人が指さす方向には国王陛下がいた。
「捕まえろ!!」
騎士達が動き出した。
「俺たちはどうする? ルーシェ」
「うーん、ここに居ようか? 走ったら疲れるわ」
「俺は行くぞ! 一度、父上とは戦ってみたかった!」
そう言うと走って行ってしまった。
「あらあら・・・・・・」
その姿はとても楽しそうで、私とアイヒは顔を見合わせて笑った。




