90
皆様、ごきげんよう。私はルーシェ・リナ・リスティルですわ。
早いもので、私の体調もだいぶ良くなった。
本当は、もっと早く帰る予定だったけど仕方がない。私もついに王都に帰る日がやってきました。
メイドたちは昨日から大慌てで、荷物を片付けていた。
「皆様、お世話になりましたわ」
私は目の前にいる叔父一家に深々と頭を下げた。
「もう行ってしまうなんて、寂しすぎるよ!! もっと居て!!」
「無理だ」
泣きそうになっている叔父様をお父様が一刀両断した。
「また、おいで。ルーシェ」
「今度は僕たちが遊びに行くね」
ユアンお兄様やユーリ君は割とあっさりしていた。まあ、男の子なんてこんなもんよね。
「グレンはもっと強くなるんだよ」
「うん」
グレンはユーリ君にかなり鍛えられたようだ。どことなく、しっかりしたような気がする。
「今度はお母様も連れてきなさいな」
エヴァ様は微笑んでそう言った。
「お手紙を書きますわ」
「うん。あ、そんなに頻度多くなくていいよ。書くのが大変だ」
ユアンお兄様は相変わらずマイペースだった。
「はーい。では、また。ごきげんよう」
私は叔父一家に優雅に一礼をして見せた。
リスティル公爵領から出る際は領民総出での見送りとなった。
***
――――数日後。
私達は無事に王都のリスティル公爵邸に帰ってきた。玄関口ではなんと、おばあ様達が出迎えてくれたのだ。
「おばあ様、おじい様も・・・・・・。お出迎えありがとうございます」
私はグレンと共に頭を下げる。次の瞬間にはおじい様に二人そろって抱き上げられた。
「お、おじい様」
「お帰り、ルーシェ、グレン。従兄弟たちとは仲良くできたかな?」
「ええ、とっても。ねえ、グレン?」
「はい、楽しかったです」
なぜだがとっても棒読みである。表情もどことなく頑張っています感が出ている。
「ルーシェ」
私はおばあ様に抱き直された。
「おばあ様」
「ほほほ、アレクの方は相変わらず、おかしな格好をしておったか?」
おばあ様はとても楽しそうな顔をしていた。
「最初だけですよ・・・・・・」
私はあはははと、乾いた笑みを浮かべた。
「色々、大変だったようだな。ケガは良いのか?」
「ええ、まあ。でも、大丈夫でしたわ」
おばあ様が言っているのは、ガルディア帝国とのあれこれや、ゴウエン、ラルムのことだろう。
「そうか」
おばあ様は私の頭を撫でた。
「お前は強いな」
「そうですかね?」
「ああ。だからゴウエンもラルムも許せたのだろう?」
「・・・・・・」
今までの優し気な雰囲気から一変して、恐ろしいほど張り詰めた空気になった。
「どうして許した?」
答えを間違えたら、首が飛ぶ、そんな雰囲気だった。
「・・・・・・だって、使えると思いましたもの」
「使える?」
「ゴウエンはおばあ様の部下だったのでしょう? そして、リスティル公爵領でも高い地位を持っている。それなら、死んでもらうより、この国を守ってもらえる方がずっと役に立つもの。ラルムもそう。使えそうだったの。私のこと主人って言っていましたの。こちら側に付くなら問題ありませんわ」
私がそう言うとおばあ様は今までの恐怖の雰囲気から一変して、とても楽しそうな顔をした。
「ふふふ。ルーシェは本当に面白いな」
「そうですか?」
面白い要素がどこにあったのか全く分からない。
「そうだとも」
そう言っておばあ様は私の頭を撫でた。




