87.
(とりあえず、終わった?)
ガルディア皇帝の気配が完全に消え去り、ほっとした。
「ラスミア殿下・・・・・・」
「どうした?」
ラスミア殿下の雰囲気はまだ殺伐としていた。
「大丈夫ですか。その・・・・・・いろいろと」
ラスミア殿下は自分の手を見て、顔をしかめた。
「問題はない。しかし、あいつを見た瞬間に思ったが、絶対にそりが合わないな。存在が気に入らない」
「そうですか」
(あのガルディア皇帝とそりが合う人っているのだろうか)
「一年前に会った時も、あんな感じだったのか・・・・・・」
「そうですね。ひどい、の一言では表すことができませんわ・・・・・・」
「そうか。話には聞いていたが、あそこまでとはな・・・・・・」
「ラスミア殿下・・・・・・」
「なんだ?」
「もしかしたら、戦争になるかもしれませんわね・・・・・・」
最後の言葉、間違いなく彼は戦争を仕掛けてくるのだろう。
「・・・・・・気にするなと言っても無理なんだろうな」
そう言って、ラスミア殿下は私の頭を撫でた。
「あんなふうに、あっさりと『戦争をおこす』と口に出せるのは恐ろしいな・・・・・・。俺があいつみたいにならないようにちゃんと見ていてくれ」
「ラスミア殿下・・・・・・」
「本当にとんでもないものに目を付けられたな・・・・・・。それよりルーシェ」
「何ですか?」
ラスミア殿下はジトっと私の方を見た。さっきとのギャップに、ちょっと驚く。
「あいつに求婚されたこと、なんで言わなかったんだよ」
「え、今、それを言いますの!?」
あまりにも今更過ぎである。
「当たり前だろ! ガルディア皇帝からだぞ!? 教えろよ!」
「お父様が国王陛下にお伝えしていましたし、自分からは言いにくいじゃないですか!」
「この人に求婚されちゃいました~」なんてなかなか言えない。
「ルーシェが一人で行ったと知った時、受けるつもりなのかと思った」
「・・・・・・少し、迷っていたのは事実です。そうすれば何かが、変わるのかもしれないとは、思いました。ただ、正直言ってみんなを殺されてはたまらないと思ったからで、実のところ、心は決まっていませんでした。すみません、ラスミア殿下」
「そうか。謝らなくていい。・・・・・・俺たちは立場上、どうやっても自分の心に沿わないことをしなければならない。多くのものを守るために、小さな命を見捨てなければならない。自分が関われば関わるほど、冷静な判断ができなくなる。正解がわからなくなる」
「今回は、正解でしょうか」
結局、ガルディア皇帝は『戦争』をするかもしれない。
「多分正解だろ・・・・・・。正直言って蓋を開けてみないとわからない。確かめられるものでもない。お前が嫁いだら、何か変わったかもしれんし、変わらなかったかもしれん。今回は、お前自身のことやガルディア皇帝の異常性を考えたら、正解だとは思う。その結果が『戦争』に繋がってしまったとしてもだ」
「そうですか・・・・・・」
(ラスミア殿下って・・・・・・こんなに頼もしかったかしら)
かなり失礼なことを思っているが、実際ここまで大人びている。




