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79.

「お・・・・・・じょう・・・・ま、おじょ・・・・・・ま・・・・・・」

(ん~。眠い・・・・・・だ、れ・・・・・・)

「ん・・・・・・」

誰かに体をゆすられて、私は眠たいと訴える頭を覚醒させた。

「お嬢様・・・・・・」

「ルカ・・・・・・?」

ルカが私の体を揺らしていたのだ。

「お嬢様」

「ルカ?」

ルカの表情の変わらない顔はいつものこととして、どうにも雰囲気がよろしくない。おどろおどろしたものが後ろから見える気がする。

「ど、どうしたの?」

わけもわからずに、そう伝えるとルカは珍しく眉間にしわを寄せた。

「お嬢様、昨夜、何があったのです?」

「え?」

その時、廊下が騒がしくなった。

「姫様、助けてくれ!!!」

「ラ、ラルム?」

扉をふっとばさんばかりの勢いで転がり込んできたのはラルムだった。

「姫様!!」

ラルムが私に駆け寄ろうとした時だ。

ガシッとラルムの首根っこをひっつかんだ手があった。

「ラルム!!!!」

悪魔のような声と共に私の部屋に入ってきたのは、なんとお父様だった。

「お、お父様・・・・・・」

お父様の背後にもどろどろとした何かが見えた。

「ルーシェ、おはよう」

ニコリ。

笑顔を向けられたが、とんでもなく恐ろしい。

「お、おはようございます。いったいどうされたのです。ラルムをひっつかんで・・・・・・」

「ルーシェ」

「は、はい」

お父様があまりにも真剣な顔で私の名前を呼ぶので、私は思わず背筋をただした。

「この男に何をされたんだい。言いなさい」

「ええ?」

(一体どういうことかしら)

「お、お父様? どうされたの?」

「ルーシェ、なんでこの男がルーシェの部屋にいたんだああああああ!!」

お父様が突然涙目になって、雄たけびを上げ始めた。

「しかも、手まで握ってたあああああ!!! ああああああああ!!!!」

そして、私のところに震えながらやってきて、私を抱きしめた。

私はわけがわからず、ラルムを見返した。

「・・・・・・」

ラルムは顔をひきつらせて笑っていた。

私はなんとなく話が読めてきた。

「お父様、私が昨夜悪夢を見ましたの。ラルムはそれで、ずっと一緒にいてくれたのですわ。それだけよ」

「ほ、本当かい!?」

お父様はその整った顔を残念になるくらいにぐちゃぐちゃにしている。

「だから言ったじゃないですか! 誰も信じてくれないし!!」

ラルムが心底心外であるといったふうに叫んだ。

「やかましい!」

ただの子どものケンカである。

「もう。お父様ったら・・・・・・」

私は頭が痛くなりそうだった。

「では、もうよろしいわね?」

「ああ。ラルムはこっちに来い。ルーシェ、また後でね」

そう言うと、お父様はラルムを引きずって、部屋を出て行った。

「なんで俺は引きずられているんだああああ!!!!」と、断末魔が聞こえたが、なんでだろうね。頑張ってね。

「お嬢様・・・・・・」

「なあに?」

ルカの無表情が少しばかり、沈んでいるように見える。

「・・・・・・どうして私を呼んでくれないのです?」

「・・・・・・ルカ、あなた、拗ねているの?」

そう言うとルカは、少しだけ顔を反らした。

(これは拗ねているわね・・・・・・)

「ごめんね、ルカ。ちょうどいいところにラルムがいたものだから。今度からあなたを呼ぶから・・・・・・。機嫌を直してちょうだい」

「・・・・・・絶対ですよ」

「ええ。もちろんよ」

私はそう言うと、ルカの手を握った。ルカはそれで満足したようなので、とりあえずよかった。


***


その夜、全員が寝静まった中、ルカは厨房に行くと、ケーキを作り始めた。

「・・・・・・」

無言でボウルに入った生地をかき混ぜる。

(あの男・・・・・・)

生地をかき混ぜる手が早くなった。

(お嬢様に触れて・・・・・・)

お嬢様を起こしに部屋に入った瞬間、本気で殺してやろうかと思ったが、旦那様の部下であるということで何とか踏みとどまったのだ。

お嬢様は、リスティル公爵領に入られて、少し雰囲気が変わられた。何がどうと言うわけではないが、大人びたような気がする。

(顔色が悪い・・・・・・)

最近、透けるような白い肌に暗い影が落ちていた。ガルディア帝国からの求婚の件からだ。慰霊に行ってからは、さらに思い悩むことも増えているようだ。

(何かできることがあればよいのだが・・・・・・)

昔から、聡明な方だった。お嬢様と同じ年ごろの子どもが、普通はどのように振る舞うものなのかわからないが、グレン公子を見ている限り、お嬢様はかなり落ち着いてらっしゃる。それでも、子どもらしいところもあるから、油断できないときもあるが。

自分とは違い優しいお嬢様だ。血塗られた道など歩んでほしくない、綺麗なお姫様。でも、リスティル公爵家長子である限りそれは許されない。アステリア王国防衛のことはきっとこれから先、お嬢様の心に影を落とし続ける。代わって差し上げることはできない。

ただ、ガルディア皇帝の求婚の件は別だ。

あの夜会の時に出会った、ガルディア皇帝には殺意しかない。いくら奥様の弟であったとしても、ガルディア皇帝である時点で敵だ。

お嬢様はあいつのせいで、ヨシュアの件で一時意識不明になった。あの時の感覚はもう思い出したくない。失うかと思ったあの時の感覚は、もう二度とご免である。

ルカはぎゅっと拳を握りしめた。

(殺せばよかった・・・・・・)

あれがガルディア皇帝本人だとはじめからわかっていたら、お嬢様に触れた瞬間、すぐにでも殺したというのに。

挙句の果てに、お嬢様にキスするなど・・・・・・。

(お嬢様がいつか 手の届かないところに行ってしまうのは分かっていた。でもそれは、あのようなものに渡すためじゃない!!)

いつか、お嬢様のことを一番に考えてくれる人に出会って、それで・・・・・・。そしたら、自分は役目を終える。影に戻る。

(それで構わない。それまでは絶対に守ってみせる・・・・・・)

ルカはボールの生地を型に入れると、そのままいい温度になった窯に突っ込んだ。






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