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『ゴウエン隊長』
ラルムがとても悲しそうな、泣きそうな表情で、ゴウエンを見ている。
ゴウエンは何も言わずに、刀を振り上げた。ラルムはあきらめたかのように、目を閉じた。
『やめて!!』
私はとっさに叫んだ。
しかし何かがトンと転がり、後に広がるのは、血だまりだった。
***
バッ。
私はベッドの上で飛び起きた。
「・・・・・・久しぶりに夢を見たわね」
しかも、あまりよろしくない夢だわ。
外を見ると、まだ星がキラキラ輝いていて、完全に真夜中である。
「寝よう・・・・・・」
再びベッドの中に舞い戻ったが、完全に目が冴えてしまった。
(今の夢、なんなのかしら。完全にゴウエンがラルムを斬ろうとしていたわ。どうして・・・・・・)
内容があまりにもひどいものだったため、頭がついてこない。
(しかたないわ、外の景色でも見よう)
私はベッドから起き上がると、バルコニーに続くドアを開けた。
真夜中のため、月明かりだけが頼りだ。
「・・・・・・さっきの夢」
あれは間違いなく先視だ。となればあの状況が起こることは決定事項。
でも、ゴウエンもラルムもとても仲が良い。そもそも、ラルムはもともと親を亡くした子どもで、それをゴウエンが見つけて養ったと聞いている。絆はきっと強いだろう。
それがどうして ゴウエンがラルムを殺すことになっているのか・・・・・・。
「はあ・・・・・・」
「あれ、姫様?」
突然かけられた声に私は体をすくめた。
「ラ、ラルム?」
私の前にラルムが上から降ってきた。
「どうしたの、姫様。こんな夜更けに・・・・・・」
「ええ、まあ・・・・・・」
(あなたが殺される夢を見ました、なんて言えないわね)
私は顔が引きつりそうになったが、何とか我慢した。
「ああ、わかった。怖い夢を見たんでしょ」
「・・・・・・そ、そうね」
(怖い夢、ある意味で当たっているわね)
「へえ~」
まじまじと顔を覗かれた。
「な、なんですか」
「大人びているなあ、と思ったけど、まだまだ子どもだねえ」
その顔に少しばかりむっとした。
「私は子どもですもの。あなたこそ、上で何をしていますの」
「見張りだよ。やっぱり上からじゃないとわからないからねえ」
意外とまともな理由に言葉に詰まった。
「・・・・・・そう、落ちないように気を付けなさい。ゴウエンが悲しむわよ」
私はさりげなくゴウエンの名前を出してみた。
「ゴウエン隊長かあ・・・・・・」
「?」
どことなく歯切れが悪い。
(え? もう何か起こっているの!?)
「何かあったの?」
「いや、何もないよ」
「嘘おっしゃい、そんな顔をして。いいから言いなさいな」
私はラルムに詰めよっていく。私の剣幕に押されたのか、ラルムが一歩引いた。
「・・・・・・最近、色々考えてしまうんだよね。ちゃんと役に立っているのかなあって」
ラルムはバルコニーに座り込むと、話し始めた。
「役に立つ・・・・・・」
「前に拾われたって言ったよね。俺は恩返しをしたいんだ。あの人の役に立ちたいんだよ。・・・・・・なのに、迷ってばっかだ」
「ラルム・・・・・・」
「俺は何なのかなあ・・・・・・」
「そう思うことが、何かあったのね」
「まあね」
「・・・・・・」
私は考え込んだ。こういう時は、下手に励ましても、きっと意味がない。ならば・・・・・・。
私はラルムの前に立つと。
「ひ、ひめひゃま!?」
その頬を両手でぎゅーと挟み込んだ。整った顔が変形して何だか笑えてきてしまう。
「ぷ。面白い顔ね」
「ひ、ひどいよ・・・・・・」
ラルムを解放すると、「ひーっ」と言って、頬を押さえている。
「あなたが納得するようなことは言えないわ。でもね、ラルム。あなたがゴウエンの役に立とうとしているなら、それはきっと届いている」
「・・・・・・姫様」
「私は子どもだもの。難しいことは分からないけど、迷っていいじゃない。迷ったら助けてもらっていいじゃない。ゴウエンは別に役に立ってほしいから、あなたを養ったわけじゃないわよ」
(うーん。全然うまく言えないわ)
「姫様ってさ・・・・・・」
「なによ」
「やさしいよね」
「何それ・・・・・・」
どういう意味? とばかりにもう一回頬を挟み込もうとしたら、避けられた。
「いやいや。・・・・・・姫様のもとにいられたら、毎日が、とても楽しそうだなあと思ってね」
「ちょっとそれ・・・・・・」
「馬鹿にしてない?」と言おうとしたが、ラルムのあまりにもうれしそうな笑みに固まってしまった。
「そんなに言うなら、私の・・・・・・」
部下になればいいじゃない、なんて言いかけてしまってやめた。この国を出て行く私が、そんな無責任なことを言えない。
「何?」
「何でもないわ。あなたが好きなようにしたらいいわ。どうするかは本人の自由よ」
(でも、この感じじゃ、まだ何か起こっているわけではなさそうね。いったいなんで、あんな夢をみたのかしら?)
「ラルム、あなたそれ以外に・・・・・・」
「姫様、話を聞いてもらっていてなんだけど、さすがにもう寝なよ。明日話そうよ」
「・・・・・・そ、それもそうね」
よく考えたら、まだ夜中なのだ。明日話しても遅くないだろう。
「でも、眠くないのよね・・・・・・」
「布団に入ったらすぐ眠くなるよ。まだ、子どもだもん。さあ、お部屋に戻ろう」
そう促されて、私は部屋に入った。
「姫様が寝るまで傍にいるからさあ。怖い夢はもう見ないよ」
「そう、ありがとう・・・・・・」
(寝られるのかしら・・・・・・)
布団に入ったものの、目はやはり冴えている。
「姫様」
「ラルム? 何?」
突然、ラルムが私の視界を手で覆ったのだ。視界が闇に包まれる。ラルムの手はほのかに温かく、じんわりと伝わる。
(眠い・・・・・・)
そのまま意識が遠のいた。




