77.
「今日はありがとうございました」
私とラスミア殿下はアーネンブルク伯爵にお礼を言うと、病室を後にした。
(なんだか、急に疲れがきたわ)
なんだかんだ言いつつ、重たい会話をしたのだ。体も頭もこわばっていたのだろう。
「二人とも疲れたろう。早く屋敷に戻ろうか」
「そうしましょう、お父様」
「はい」
病院の玄関に向かっていた時だ。
「あ、ルーシェ様だ!!」
元気な子どもの声が聞こえた。
「はい?」
声がした方を見るとたくさんの子ども達がわらわらと私たちを囲った。私より年上や、小さな子どももいる。
(ええ!?)
「ルーシェ様だ!」
「アドルフ様だ!」
子どもたちのあまりの素早さに周りにいた護衛たちもあたふたしている。
「きゃあ! 金髪の王子様みたいな人もいる!」
女の子たちから可愛らしい悲鳴が聞こえる。さすがラスミア殿下、その容姿でばっちりと女の子たちの心をつかんでいる。
(王子様みたいじゃなくて、本物の王子様ですけどね)
「ルーシェ様、花飾りをあげる!!」
一人の女の子がそう言うと、私の頭に花飾りをのせた。
「あ、ありがとう」
その他にも、ルーシェ様、これ作ったの、と次から次にいろいろなものを渡されていく。
(あわあわあわ)
お父様やラスミア殿下に助けを求めようとしたが、二人も二人でいろいろと対応に追われていた。
「綺麗なお姫様はどこから来たの?」
「王都から来たのよ」
「ねえねえ、王都にはおいしいものがいっぱいあるの!?」
ポチャッとした男の子が、聞いてきた。
「そうねえ・・・・・・」
「こら! お姫様にそんなこと聞かない!」
「まあまあ・・・・・・」
ラスミア殿下に至っては、女の子たちから、「どこから来たの? どこの家の子?」と聞かれて、返答に困っていた。
「も、申し訳ありません。公爵様!」
顔を真っ青にして、眼鏡をかけた壮年の男性が謝ってくる。子どもたちは先生たちの心をつゆ知らず、「バイバーイ」とのんきに手を振って帰っていった。
「いや。元気な子どもたちで何よりだ」
私達はとにかくもみくちゃにされた。なんでも、近くにある養護施設の子ども達で、私達が来るということを知って、見に来たらしい。私たちのボロボロ具合に他の先生たちも顔を青ざめさせている。
「ルーシェ様も、貴族のお坊ちゃまも、お怪我はありませんか!?」
「ありませんわ。大丈夫です」
「問題ない。気にしないでくれ」
(そうそう、元気な証拠だわ)
「なんだか、色々ともらったけど、良いのかしら?」
「ええ。皆自分が今あげられるものを持ってきたんですよ」
「ええ!? なら、なおさらだめじゃない」
「よいのですよ」
「じゃあ、もらいますけど」
そこまで言われるともうどうしようもない。
「みんな、養護施設を造ってくれたリスティル公爵家が大好きなのですよ」
「あの子たちは・・・・・・」
「ガルディア帝国との戦争で親を亡くしたり、他の戦争で、親元で暮らすことができなくなった子ども達です」
「戦争で」
あんなにもみんな笑顔なのに、とても悲しい思いをして、今ここにいるのだ。
「あのような子どもたちがこれ以上増えないことを望みますよ・・・・・・。おっと、申し訳ない。命がけで戦ってくれているリスティル公爵家には、私達はもちろん、国民すべてが感謝しておりますよ」
「わかっているよ。このような子どもたちをこれ以上出さないために、あらゆる手を尽くしている」
お父様はそう答えた。
戦争をしたくないのに、戦争を仕掛けられたら国を守るために戦わなくてはならない。その結果死者が出て、子どもたちが路頭に迷う。とても悪循環だ。
(すべてを解決する魔法のようなものは存在しないわね。戦争をしないために、できること・・・・・・)
少し考えてみよう、そう思った。




