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私たちが向かったのは、アーネンベルク辺境伯との境にある激戦地に建てられた複数の慰霊碑だった。慰霊碑には数多くの戦死者の名前が刻まれていた。いったいどれだけの人が命を落としたのか、想像もできない。慰霊碑の周りにはたくさんの花束が置かれていた。いまだに多くの人がここを訪れているのだろう。

(この花束を置いた人たちは、何を望むのだろうか。戦死者の仇を取ることか。もう二度と戦争を起こさないことか。どちらだろうか)

「ルーシェ、大丈夫かい? 辛くなったら言うんだよ」

「お父様、大丈夫ですわ。・・・・・・ここで多くの人が亡くなったと思うと、少し悲しくなっただけですわ」

「私もこの戦いには参加していた。正直言ってあまりいいものではなかったよ。多くの部下が、この石碑に名を連ねている。名ばかりの将軍だった私についてきてくれた素晴らしい兵士達だった。・・・・・・ゴウエンの奥方やご息女の名前もあるよ」

「え・・・・・・」

それは初めて聞く話だった。ゴウエンの家族は亡くなっているのか。

「奥方は素晴らしい兵士で、ご息女は軍師だった。その采配は素晴らしかったから、妊娠しているにもかかわらず、戦場に出てきてもらった」

私はとっさにゴウエンを捜してしまった。彼はラルムと共に、大きな花束を抱えて、私達が立っている慰霊碑とは別の慰霊碑の前に立っていた。ラルムは涙を一筋、流していた。

「・・・・・・」

その花束は3つあった。

(・・・・・・彼はまだ見ぬ孫も失ったのね)

「そして、ここはリスティル公爵家が先代国王陛下とエリーゼ様を失った場所でもある」

お父様の声はいつもとは違い、どこか元気がなかった。少し前に知ったことだが、もともとは現国王陛下の姉エリーゼ様が女王陛下になってもよいんじゃないかという話が出ていたらしい。だから、お父様は余計につらいのかもしれない。もしかしたらエリーゼ様の戦公爵だったかもしれないから。

「今思えば、エリーゼ様がいくら暴れても、王宮に閉じ込めておけばよかったと思いましたよ・・・・・・」

「父上から聞きましたよ。伯母上は信じられないくらいのおてんば王女だったと。そして、誰よりも槍が強かったと」

そう言うとお父様がげんなりした顔をした。

「おてんばなんてかわいい言葉では到底言い表せませんよ。今の国王陛下とは別の意味でとんでもない方だった・・・・・・」

しかしながら、その表情はとても懐かしそうだった。

「二人ともガルディア帝国が開発した兵器にやられたと父から聞きました」

「ええ。あの時の光景は忘れることができませんよ」

お父様の表情は険しくなった。

「お父様、兵器って?」

それが詳しく聞きたかったのだ。

「それが何なのかは分かっていないと聞きました。その兵器から放たれた黒い光が炎に代わり、すべてを焼き尽くしたとだけ・・・・・・」

ラスミア殿下は国王陛下からいろいろと聞いていたようだ。

「ええ。一瞬でした。一瞬で、あたりが消し炭になりました。何も言う暇も、動く暇もなかった。正直に言ってあの戦いを生き延びた人は運がよかった。ただ、それだけでしたね」

お父様がそのように言うだなんて、よほどの威力だったのだろう。

「あの光は、先王陛下やエリーゼ様がいた陣営にも降り注いだ。その時、エリーゼ様の傍にいたゴウエンのご息女も一緒に焼かれた」

焼かれるという強烈な言葉に、私は寒気を感じた。

「その兵器、今すぐに撃たれることはありませんの?」

「あれはガルディア帝国にとっても諸刃の剣だったらしい。起動するのに多くの魔力を必要としたらしいが、途中で暴走し、魔力を渡していたすべての魔術師の魔力を吸い取り、殺してしまったそうだ」

その時、私はガルディア皇帝の言葉を思い出した。そういえば彼は黒髪の子ども達が誘拐されたときに言っていた。

『もともと我が国はこの大陸で一番魔術師の数が多かったんだけど、いろいろあってねえ(、、、、、、、、、)。ま、うちの国の魔術師の数が減ったのは自業自得だし、僕はどうでもいいけど、それじゃダメって言う人が多くてね。仕方ないから、この国からもらってくることにした』

いろいろ(、、、、)とはこのことだったのか。確かに自業自得である。

「それで、一時休戦して、今に至りますのね」

「ああ。ただ、あとから問題が現れました」

「問題?」

ラスミア殿下が首をかしげていた。

「はい。よくご存知でしょう。・・・・・・ヨシュアのような黒髪の子ども達」

「あ・・・・・・」

(あのとき・・・・・・)

『むしろ、黒髪の子どもたちを生んだのは僕らの国なんだよ?』

ガルディア皇帝がそう言っていたのは、そういうことだったのか。

「兵器から発せられた黒い光はあたり一面に降り注ぎました。それを浴びたのか、何らかのものを吸い込んだのかはわかりませんが、あの時、あの地域にいた女性から生まれた子どもに黒髪の特徴が出ることがありました」

「昔からまれに黒い髪の子ども達は生まれていたと父上から聞きましたが?」

「ええ。ただ、あの時の比率はかなりのものでしたから、おそらくはあれが原因であると言われています」

「そんなことが・・・・・・」

初めて知る事実の多さに、言葉がなかなか出てこない。

「戦後に生まれた黒髪の子ども達の魔力保有量は、自然に生まれた黒髪の魔術師達のそれに比べ、圧倒的に多かった。だから、急いで補助の政策を打ち出すことになったのですがね」

「・・・・・・」

言い方が悪いが、この国の黒髪の子どものほとんどは、ガルディア帝国の兵器によって、被害を受けた女性たちから生まれている。しかし、その子たちは魔力が多くて、将来を嘱望されるほど……。

(物凄い矛盾だわ・・・・・・)

「お父様は、戦地にいたのよね」

「いたよ」

「怖くなかったの? お父様はまだ子どもだったんでしょう?」

「怖かったけど、先王陛下や部下たちを置いて逃げるわけにはいかなかったからね」

そう言って私の頭を撫でた。剣ダコができた手はお父様がどれだけ頑張ってきたかを物語っていた。

「多くの人を動かす将軍で、この国の剣であるリスティル公爵家の後継者として、一人でも生かすために、逃げるわけにはいかなかったんだよ」

「そう・・・・・・」

私はこの国を守るために、リスティル公爵家を出て行こうとしているけど。






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