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皆様、ごきげんよう。私はルーシェ・リナ・リスティルですわ。私は今、とっても疲れていますのよ。

ラルムによると、帝国の貴族は帝国領内に戻ったらしい。この城に滞在させておくわけにもいかないし、仕方ない。

しかし、自分の中では、ガルディア皇帝との婚姻が、頭を離れなかった。お父様たちに何か言われると思ったが、何も言ってはこない。それが、さらにいろいろな想像を掻き立てた。

「ふう・・・・・・」

思わずため息が出た。婚姻やらで頭は痛いが、今はやはり・・・・・・。

「お嬢様?」

ルカが心配そうにのぞき込んできた。

「何かしら?」

「お疲れのご様子ですが、大丈夫ですか?」

「そうね・・・・・・。このギチギチに編まれた髪が痛いわね」

「それは仕方ありません」

ルカはスパッと言い放った。

「はっきり言うわね・・・・・・。ま、仕方ありませんわ」

私は今、パーティー会場にいる。私とグレンのお披露目を兼ねて、リスティル領の領主達や貴族たちを呼んだのだ。

今の私の格好は、まさにお姫様の格好だ。

髪は編みこまれ、右側には大きな薄ピンクの花が付けられている。そこから大粒の飾りが肩まで流れている。薄水色のドレスはいつもよりレースが多くついているし、扇まで持たされた。これだけゴテゴテしていても、品位は損なわれていないのだから、さすがはメイドたちだ。

グレンもお父様も私を見た瞬間、目を輝かせ、私を抱き上げた。

「きゃあ!!」

「ああ!! ルーシェ!! なんてきれいなんだ!! さすがは私の娘!!!!」

お父様、少し声を押さえてくださいませ。

「あねうえ様。大変きれいです!!」

「うん。ありがとう、グレン」

でも、お父様に抱きしめられたこの状況では非常に恥ずかしい。

「グレンもとてもすてきよ」

グレンは青を基調とした格好をしていて、本当に可愛らしい。

「旦那様、髪が崩れます」との言葉にようやく、お父様は私を下ろした。

「ごめんね、ルーシェ。綺麗だったからついね。さあ、二人とも行こうか」

お父様はそう言うと、私とグレンの手を引いて豪奢な扉をくぐった。

目の前には、きらびやかな衣装を着た人々と豪華な調度品。

私は圧倒された。

(うわ、綺麗・・・・・・)

もうそんな言葉しか出てこない。

そのまま、大きなホールの舞台に連れてこられた。

舞台に向かって右から私、お父様、グレンの順に立つ。

とりあえずお披露目なので、私とグレンはお父様の隣で、お貴族様達のご挨拶を延々と受ける羽目になるのだろうと想像できた。

とは言いつつも、お父様はだいぶ簡略化してくれたようだった。

何せ、最初の挨拶が。

「今宵はリスティル公爵家長女ルーシェ・リナ・リスティルと長男グレン・レオ・リスティルのお披露目にお越しくださり、まことに感謝する」

私は一斉に突き刺さる視線に一瞬怯みそうになるが、表情は変えずに微笑み返した。彼らの視線はさまざまだ。使えるのか、使えないのか、値踏みをされているのがよくわかる。

(よくもまあ、こんなにも子ども相手に値踏みできるわね・・・・・・)

心配になって、ちらりとグレンを見た。グレンは何が何だか分からないという顔だったが、しっかりと前を向いていた。

「これ以上は面倒だから、口上はもういいな? これ以上、俺がしゃべったところで大して面白くもないからな」

「いいな?」と疑問形なのに、すでに確定していた。

「構いませんよ!」とも声があちらこちらから聞こえた。その声は馬鹿にしているというより、信頼しているからこその言葉、そんな感じがした。

「可愛い娘と息子にあいさつしたいなら、とっとと並んでくれ」

そう言った瞬間わずかな笑みと共に貴族の列ができた。

終わった時、正直言って疲れた。

(貴族って大変ね)

「グレン、眠いなら、もう下がってもいいわよ?」

「いる・・・・・・」

と言いつつ、半分瞼が下がっている。

「あらあら・・・・・・。お休み」

そう言ってグレンの頭を優しくなでると、グレンは本当に寝入ってしまった。

「運んであげてね」

「かしこまりました」

近くにいたメイドさんにグレンを託した。ちゃんと寝ているので、泣き叫ぶことはない。

こんな小娘に頭を下げなければならないなんて。

私はお色直しとばかりにいったん前室に下がった。

「お嬢様、挨拶はひと通り終わりましたから、もう部屋に下がっても問題ないです。旦那様も無理はしなくてよいとおっしゃっておりましたよ」

ルカは私の髪を直しながらそう言った。

お父様は個人的に挨拶をする人がいると言って、私とグレンの頭をなでると傍から離れて行ったのだ。

「グレンが下がってしまったし、私はもう少しいるわ」

「お嬢様、髪が整いました」

「うん、ありがとう」

「では私はここに・・・・・・」

そう言うとルカは壁際に下がっていった。

私は、前室からまた広間に戻った。人々の視線が一斉に突き刺さる。

「疲れているね、ルーシェ」

「まあ、お兄様」

視線に怯みそうになった私に声をかけてくれたのは、ユアンお兄様だった。

ユアンお兄様は柔和にほほ笑んでみながら、ジュースを差し出す。赤を基調としたスーツがよく似合っている、

「お疲れ様。疲れたんじゃない?」

「す、少し・・・・・・」

「だろうね。値踏みされるし、あんな同じような口上の挨拶を延々と受けてさ・・・・・・。でもさ、面白いよね」

「え?」

「僕たちみたいな子どもにご立派な紳士淑女が頭を下げてニコニコニコニコしてさ。見ていると笑っちゃうよ」

「はあ・・・・・・」

ユアンお兄様、ちょっと言葉がよくないのではないだろうかと、私は顔が引きつりそうになった。

「でも、ゴマをすってくる分、それだけ期待されているってことだ。僕たちも応えてあげないとね」

「え?」

とんでもない毒を吐いたと思ったら、最後の言葉は意外だった。

「リスティル公爵家はこの国の剣で盾なんだよ。国軍もいるけど、国民が見ているのは僕たちだ。僕たちの動きが、王家の動きになる。だから、僕たちが彼らを守るんだよ」

「守る・・・・・・」

ユアンお兄様は私と一つしか違わないのに、立派に決意ができているのだ。

(案外、ユアンお兄様がリスティル公爵に向いているかもしれないわ)

「と、言ってみたものの。まだまだ半人前だけどね。ゴウエンにはコテンパンにされるし」

「私もクラウス師匠にいつも負けていますわね」

「あはは、今度僕と戦ってみようか?」

「ええ!? さすがに勝てませんわ」

「腕は確かと聞いているよ?」

ユアンお兄様は面白そうに笑った。

「まあ、どこからですか?」

誰がそんな情報流しやがった。

「ラスミア殿下に勝ったと聞いたけど?」

「あれはたまたまですわ。ラスミア殿下の腕力が強くなったら、きっと負けてしまいますわ」

「どうだろう。先王陛下はおばあ様に負けた回数の方が、勝った回数より多いって聞いたけど」

それは初耳である。おばあ様はどうしてこう偉業が多いのだろうか。

「おばあ様は別格だと思いますわ」

「ああ。それは言えているかも」

二人して顔を合わせて笑いあった。

すると、どこからともなく、オーケストラの音楽が聞こえてきた。紳士淑女が手に手を取って、どんどんと中央に集まってくる。

「ああ、ダンスが始まりましたわね」

ダンスの稽古は前からしていたので正直言って不安はないのだけど、誰と踊ろうか不安だったのよね。

「うーん、叔父上には悪いけど・・・・・・。ルーシェ姫、僕と踊ってくれますか? やっぱり、最初は親族同士で踊った方が、角が立たないと思うんだよね」

「そうですわね」

そう答えつつ、良かった、と内心では思っていた。私がうきうきとユアンお兄様の手に手を重ねると、近くでこそこそと声が聞こえた。

『まあ、可愛らしいペアがいらっしゃいますわ。よくお似合い』

『いとこ同士だしな。リスティル家で、仲が良いのはいいことだ』

周りの評価も悪くない。

「足踏んだらごめんなさいね」

ダンスは不得意ではないのだが、一応謝っておく。

「僕の足さばきの見せ所だね」

お兄様は本当によく私をリードしてくれた。

「うまいじゃないか」

「練習しましたもの」


***


「ルーシェ!! 次はお父様とだよ!!」

お父様が目を輝かせて私に腕を広げてくる。

(仕方ないわね・・・・・・)

ユアンお兄様の後はお父様と踊ることにした。しかしながら、リーチが違いすぎるので、ステップとかは完全に無視して、好き勝手に踊った。

「ルーシェはダンスが上手だねえ・・・・・・」

「練習しましたもの!」

最後はお父様が私を抱き上げて、ダンスは終わった。

ユーリ君とはくるくると子どものようにはしゃぎまわった。途中で目が回ったが。

「姫様!! 次は俺とだよ!!」

騎士の格好をしたラルムが私の前に膝をつくと手を差し出した。その様はまさに絵画に出てくる騎士なのだが、私は思わず胡乱げな表情をした。

「胡散臭いわね」

「ひどくない!?」

「どうしてかしら、見た目は騎士なのだけど・・・・・・。こう怪しいのよね」

「今日はおしゃれしてきたのに~」

確かに今日のラルムの格好はイケてる。癖のある蒼の髪は軽くくくられて、騎士の格好が細身の体によく似合う。よく見れば周りのお嬢さん達が頬を染めていた。

「仕方ないから踊ってあげるわ」

私はラルムの手を取った。

「やった!」

ラルムは嬉しそうに笑った。最初は普通だったが、途中から私を抱き上げて、くるくると踊りはじめた。

(何かあると思ったけど、こう来るとは予想外だわ!! 目が回る~)

「ちょっと!」

「こら、ラルム!!」

聞き覚えのある野太い声。ゴウエンである。

ゴウエンは私たちのところまでやってくると、ラルムの頭をスパーンと叩いた。

「痛い!」

「当たり前だ!」

そのゴウエンに手を差し伸べると、恥ずかしそうに私と踊ってくれた。私が抱っこを求めると素直に抱っこしてくれたし。それを見た叔父様が私をお姫様抱っこし、お父様と取り合いをする事案まで勃発した。

「あー楽しい・・・・・・」

少し踊り疲れた私は庭に逃げた。

夜風がとても気持ち良い。

塀の外からも、どんちゃん騒ぐ声が聞こえた。

姫様ばんざーいとか、公子様ばんざーいと声が聞こえる。

「今日は城下でもお祭り騒ぎのようですよ」

「え?」

突然後ろから声を掛けられてバッと振り向いた。

(誰?)

そこにいたのは、金髪、緑色の瞳の髪の長い美しい少年だった。



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