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更新が遅くなり本当に申し訳ありません。


確かお披露目のとき、グレンを抱えていたゴウエン隊長の部下だ。

「いや、失礼した。なかなかにおもしろかったので・・・・・・。ちゃんとお会いするのは初めてですね、ルーシェ様。ラルムと申します」

突然ビビらせる無礼をしたくせに、悪びれもなくきれいな敬礼をした。蒼の瞳と少し長めのくせのある青い髪、またとんでもなく美青年だな、おい。年のころは一八歳くらいか。片耳だけの耳飾りがまあ、素敵。きっともてるなこいつ。

「ラルム様」

「様なんて、必要ありませんよ」

ニッとネコ目の蒼い瞳をほそめた。

「それで? どうされたの?」

何しに来たんだこの人は? この人と私に直接のつながりは今のところない。

「姫君が暇そうにしているのが見えたので、お話に」

あなたも暇なのよね? と心の中で突っ込んだ。

「そうですか。なら、せっかくですし、話しやすい言葉で構いませんわよ?」

「さすがにそれは・・・・・・」

「気にしませんわ。ばれなければよいの。そこにお座りになって」

とりあえず、席を勧めた。すると、彼は少し考えると、面白そうに笑った。

「じゃあ、遠慮しないぜ? あと、せっかくだから・・・・・・」

ひょい。突然視界が上がった。ちょっ、紅茶! 私紅茶持っているから!!

「ちょっ」

しかし、私のカップは手元から消えていた。え? きょろきょろと探すと、なぜかメイドさんが持っていた。さっきからアルカイックスマイルが変わっていませんね。仕事人、素敵です。

「せっかくだし、木に登ろう」

「ええ?」

「登りたそうにしていただろう? まあ、彼らの登らせたくない気持ちもわかるがな・・・・・・。でも、こんなことができるのはレディになりきる前の間だけだぜ」

そう言ってすたすたとお姫様抱っこのまま歩き出す。

メイドさんはアルカイックスマイルのまま何も言わずに手を振った。私は振り返すが、え、よいの?

そうこうしているうちに、私たちは先ほどグレンたちが登った木の根元まできた。

「姫様、俺の首に掴まって。あと、目をつぶってな。怖いから」

物凄くいい笑顔だ。

とりあえず私は、言うとおりにすることにした。目を閉じて、唇をかみしめた。奇声をあげたらヤバい。

ふわっ。

一瞬浮いた、気がする。

「はい、目を開けて」

「は?」

私は目を開けた。

「ええええ!?」

いつの間にか、地上うんメートル上にいる!!!? こわっ、怖いって!!

「はは、姫様は魔法でここまで来るのは初めてか? 前を見な。きれいだぞ」

「わあ・・・・・・」

圧巻である。リスティルの邸宅を取り囲む城下町。わずかに見える田畑の色。上には青と白が広がる。

「姫様の町だぜ?」

「私の・・・・・・」

捨てていくところ。

「すごいよな、リスティル公爵家は・・・・・・。姫様は、どんな戦公爵様になってくれるかなあ」

「どうかしら?」

私は返す言葉が浮かばなくて苦笑した。

「楽しみだなあ」

ラルムは色々なことを話してくれた。あのクマのゴウエンが、家に子猫を飼っているとか(雨の日に捨てられていたらしく、放っておけなかったらしい)、実は小さな子どもが好きだとか。叔父叔母のケンカ録とか。

そうしてのんびりと木の幹に座って話していたときだ。

「こらああああ!!!!!! 何をしてんだあああ!! ラルムゥゥゥゥゥ!!!」

地響きかと思うほどの声が響いた。

「きゃああああ!!」

「うおおお!?」

あまりに突然だったため、二人して悲鳴を上げた。

グラッ。

「キャッ!!」

(落ちる!!)

「姫様!!」

とっさにラルムが腕を掴んでくれた。

「あぶね――――」

私が上を向くと、やれやれと言った様なラルムの顔があった。

「何をしている!! ラルム!!」

「いや、隊長のせいだから!突然あんな声出すからだよ!!」

ごもっともだ。引き上げられた私はため息を吐いた。

「ルーシェ様をそんな危険な場所に連れて行くな!!! 早く、降ろせ!!」


ゴッ!!

「うごっ!!」

その音に私は反射的に目を閉じた。いたそー。ちらっと見ると、ラルムが頭を押さえて悶絶していた。

「痛い!!」

「痛くなかったらもう一回だったな」

と、ゴウエン様はこぶしを突き出した。

「ルーシェ様、怪我はありませんかな?」

「私は全く。ラルムがつかんでくれていたので」

「それはよかった。御身に何かありましたら、アドルフ様やエイダ様に叱られてしまいますから」

「おばあ様からも? もしかして、おばあ様の部下だったり?」

「はい、お世話になりました。本当に」

その瞬間目が死んだ気がしたが、私は何も見ていないことにした。

(何をしたのですか、おばあ様)

「隊長、ひどいじゃないですか。姫様に町を見せていただけなのに」

ラルムは今も痛いのか、頭を撫でている。

「なんで木に登る必要があるんだ。塔に行って来ればよかろうが」

「面白くないじゃないですか」

「なんで面白くする必要があるんだ」

「ふふっ」

やべっ、あまりにもテンポ良い会話とその内容に吹き出してしまった。

「ご、ごめんなさい。あまりにも仲がよろしいものだから」

上司と部下というよりかは、親子のようだ。

「仲がいいんだぜ、俺たち」

と、ラルムはゴウエンと肩を組んだ。

「ちゃんと敬語を使わんか!!」

ゴウエンはまた拳骨を食らわせようとしたが、ラルムはさっと避けた。

「うわっ、いいじゃないですか! 姫様は気にしないって言ったんですよ! アドルフ様の前ではちゃんとしますって。姫様の前では堅苦しいところより、仲のいいところを見せないと。俺ら信頼してもらわなきゃならないんですよ?」

「そういう問題じゃない」

「おかげさまで、仲が良いことは分かりましたわ」

「ほらほら、姫様もこうおっしゃっていますよ」

「全くお前は・・・・・」

「ふふ。ゴウエン、あなたが子猫を飼っていることも聞きましたわ。今度連れてきてくださいね」

そう言うと、ゴウエンは顔を少し赤くして、ラルムをにらんでいた。

「まあまあ、お二人とも落ち着いて・・・・・・」

そう言って二人をなだめた。






おまけ


「失礼、兄上」

「うおっ!?お前アレクか!?」

嫁のエヴァがあまりにも普通の格好をしろとうるさいから、普通の格好をしたら逆にビビられた。なんでだ。

「普通の格好をしてなんでビビられなきゃなんないんだ」

このような普通の格好をすると言葉も元に戻ってしまう。

「あー、悪い悪い。で、どうかしたか?」

まあ、座れとソファーを指さされた。

「いや、王都の様子でも聞いておこうと思ってな。帝国に喧嘩売られたって?」

「売られたな」

アドルフはあの出来事を思い出す。第一王女アイヒは生きているとはいえ、死にかけ、ルーシェもひどい目にあった。本当に心臓が止まる思いをした。

「別に義姉上に遠慮しているわけじゃあるまいに、なんで陛下はつぶしに行かないんだ?戦争が嫌いな腰抜けなのか?」

「その言い方はやめろ」

下手をすれば不敬罪になる。自分も現王には聞いた、帝国に戦争を仕掛けないのかと。

でも、答えは否だった。

「陛下は、先王陛下や王太子だった姉君に比べると覇気にかける」

それは口さがない貴族からよく言われる言葉だった。

確かに先王陛下や亡き王太子、彼の姉君に比べると彼は雰囲気が穏やかに見える。それはアドルフも認めていた。しかし、アドルフから見れば誰より怖いのは現王だった。穏やかに見えるからこそ、人は油断し、本性を見せる。そしてそれを利用する狡猾なところをアドルフはだれより知っていた。その性格の悪さに何度苦しめられたか・・・・・・。それこそ子供の時から自分は巻き込まれてきたのだ。


ただ、彼はただ性格の悪い人間だけではないことを知っている。

「私の夢はね、影の国王になることだ」

姉上は少々戦闘狂のところがあって、戦略がおろそかになることがあるもの。だからアドルフ、表では姉上をよろしくね。そう言って穏やかに笑ったのを今でも覚えている。その笑みが無になった時のことも。

「兄上?」

「ああ、悪い悪い」

少々昔を思い出してぼおっとしていた。

「自分の娘が傷つけられたのに何もしないなんて」

「アレク。それ以上我々が口に出すべきではない。陛下にも考えがある。それに、我々が先王陛下と王太子を守れなかったんだぞ」

それを不問に処すといったのは現王だった。

「しかし・・・・・・」

「王にも様々なタイプがある。現王は先代とはちがうだけだ。それに、ただの穏やかな王に私たちリスティルが従うわけないだろう」

その声のあまりの冷たさにアレクの背筋が凍った。しかし、すぐにやわらかい声が続いた。

「結局のところルーシェの心配をしてくれているんだろう?」

「それは・・・・・・」

図星を刺されたようで弟はそっぽをむいた。アレクはルーシェをかわいがっているからなあ、と兄は呟いた。



「現王は何かを待っているんだ」

アドルフはそう考えていた。別にそう言われたわけではないが、なんとなくそんな気がするのだ。そもそもあいつがやられてやり返さないなんてありえない。

「待っている?」

「多分な。だから心配するな。・・・・・・そのうち決着をつける。とりあえず、王都の話はここまでだ。それ以外は大したことなかったからな」

今度はリスティル領の情報をよこせ。また、きな臭いことになっているらしいからな。


アドルフは今でも忘れない。

彼の、ただの王子だった彼の地位が一気に跳ね上がった日のことを。

その顔を。

「アドルフ、私の夢は叶わなくなったね」

彼は怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもないように見えた。

でも、いつもと違って、そこには何もなかった。

「すまない」

それしか言えない。

「いいんだ、それで。戦争とはそんなものだよ」

帝国もあの力を扱いきれずに、勝手に自滅したんだろう?

「ああ」

「君が生きていてよかった。盾がないと、僕の戦公爵がいないと、私が死んでしまう」

「そうか」

そんな、単調な返事しかできない。自分の無力さにどうにかなりそうだ。

「ああ、そうだ。きれいなお嫁さん見つけたって?君は見つけたお嫁さんと幸せになりな。許可するよ」

まさか、もう知られているとは。彼が強い力を持っていることは知っているが、はやい。

「いや、あの子とは」

連れて帰ってしまった彼女とは、一緒になれないと思っていた。

それでも、連れてきてしまったけど。

「気にすることはないよ。あの姫様は何もしらなかったんだ」

それに、リスティルの結婚相手は何でもありだからね。気にはしないよ。彼はそう言って部屋に戻ろうとする。

アドルフは彼が心底そう思っているとわかっていた。でも、あまりにも。

「待て、おまえは・・・」

一歩踏み出そうとした。

「止まって」

静止をかけられ、止まる。・・・・・・その声は、震えていた。

「まさか、僕が表に出てくるとは思わなかったなあ」

そう言って空を見上げる第一王子の顔には一筋の線があった。




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