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7.

新キャラ従者登場です。


グレンが生まれてから半年経ったある日、紺色の髪と切れ長な瞳の、燕尾服を着た少年が、父に連れられて、私の前に現れた。

「ルーシェ。今日からお前の従者になるルカだ」

皆さん、ごきげんよう。今日はニュースがありますの。私に従者が付けられるそうですわ。

「ルーシェ様。私はルカ・ガーデルと申します。今日からこの命に懸けてあなたにお仕えいたします」

そう言って私の前で優雅な礼を取った彼は、にこりともせず無表情のままだった。歳は10代前半くらいだろうか。まだ子どもらしい丸みはあるが、その容貌は整っていて、将来はいい男になりさぞモテるに違いない。

冷静に判断しつつも、一方で、(おう、まじか!)私は心の中で叫んだ。

従者って、あれだ。貴族のお嬢様に付きっきりになる執事みたいなものだよね。荷物持ちなさいよ、お茶入れなさいよって悪役貴族令嬢に命令されて、こき使われる存在のことだよね。まあ若干の妄想は置いておいても、私の生活にかなり近しくなる人物が、今ここにいる。ますます、家出がしにくくなる。

「そうだよ。ルーシェも六歳だしね。本当はもっと前に紹介しようと思っていたんだけど、うやむやになっていてね」

メイドに世話になることも頑張って慣れてきたというのに、ハードルが高いな。なにせ私の前世は庶民でしたから。

そんなことはおくびにも出さず、私はニコッと笑って自己紹介をした。

「ルカ、よろしくね。私はルーシェ・リナ・リスティルよ」

私が家出をする11歳まで、五年。短い付き合いでまことに申し訳ないが、それは彼には関係ないことだ。毎日顔を合わせるなら、彼とは仲良くしていたい。

なにより、私の家出の一番の邪魔になりそうだし。

「よろしくお願いいたします。お嬢さま」

満面の笑みで自己紹介した私とは対照的に、ルカの表情は変わらなかった。

うーん、怒っているのか、それとも私の従者が嫌とか?困ったわね。

「ルカは優秀だよ。剣術の心得もあるし、ルーシェの護衛ができる能力も兼ね備えているからね」

「まあ、それは頼もしいですわ」

お父様が褒めるということはかなり優秀なのだろう。眉唾の人間を連れてくるはずがない。しかし、心の中では、(まじかよ。いくら優秀でも子供でしょうに)と思っていた。

その後お父様は、「じゃあお父様は仕事があるから、ごめんね、ルーシェ」と言って部屋から退出した。

「・・・・・・」

沈黙がつらい。

「そういえばルカはいくつなの?」

とりあえず歳から聞いてみることにした。

「今年で12になります」

「そうなのね。ルカは家令の親戚なの?」

「いいえ。私は旦那様に拾っていただいたのです」

驚くべき新事実だ。まじか、拾ったのか、お父様。

「ひろった・・・・・・?」

「私は親に捨てられたのです」

ルカの表情は全く変化していない。

「そうだったのね。私、あなたにとてもつらいことを聞いてしまったわ。ごめんなさいね」

私は謝った。12歳の子どもに言わせることではなかった。

「とんでもないことでございます。旦那様に拾われ、リスティルの家の方には大変御恩を感じております。あなたが生まれた時、将来あなたに仕えるべく精進せよと旦那様から仰せつかり、今日まで励んでまいりました」

「そうなのね・・・・・・。すごく頑張ったのね」

そんな前から屋敷にいたのか、ルカよ。私は知らなかったぞ。

お父様は天然なところも多々あるが、意外と規律や指導には厳しい。というかお父様、私が生まれたときってルカは六歳だよね。六歳児になんていうこと言ってんだよ。

「お嬢様がお庭を歩いているのを見かけるたびに、いつかお嬢様の後ろに控える日を想像しながら日々鍛錬してまいりました」

しかし、私の従者になるために頑張ってきてくれたなら、嫌われているわけではなさそうだが。

ええい、まどろっこしい。

私は勇気を出して聞くことにした。聞いた方が早い。

「ルカ、あなた先ほどから無表情だけど、もしかして私、あなたに何かしてしまったのかしら」

すると、ルカは首を傾げて、少しだけはっとなった。

今日一番のリアクションだ。

私が微妙に驚いていると

「いえそんなことはありません申し訳ありません私は表情を顔に出すことが苦手なだけでお嬢様のことを嫌いになることは決してありません」

そう一息で言い放ったのだ。表情は一切変化しないが、あまりにも真剣な声色だったので信じる以外ない。

「あ、そ、そうなの。よかったわ」

なるほど、嫌なわけではなくて表情を出すのが苦手なわけだ。

「私の従者になってくれてありがとうね、ルカ」

ここまで私のために頑張ってくれていたなら、お礼は言うべきだろう。

「・・・・・・・」

するとルカは瞬きもせず動かなくなった。目の前で手を振っても一切の反応がない。

「ルカ?ルーカ!!」

仕方なく彼のしわのない燕尾服を引っ張った。

「え!・・・・・・はっ、申し訳ございません、お嬢さま私は美しく聡明なあなた様に仕えることができて心の底からうれしくそして幸せです」

うん、ありがとうルカ。

でもちょっと恥ずかしいからあまり言わないでくれるとうれしいよ。

顔がいい子に言われるとお世辞にしても照れる。

「そうだ、ルカ。私といいところに行きましょう」

「はい?」

私はルカと仲良くなるべく、グレンの部屋に案内した。

「ふふ、かわいーでしょ、ルカ」

ベビーベッドに寝かせられたグレンはすやすやと眠っていた。

グレンはすくすくと大きくなって、より一層愛らしくなった。いろいろ思うところもあって、すべてを消化できていないけど、それでも姉として弟を精いっぱい愛そうと決めたのだ。

弟を見たら、ルカもちょっとは表情が変わるかもしれない。私はグレンの頭をそっと撫でて、起こさないように抱き上げた。しっかりとした重みを感じる。

「はい・・・・・・」

同意したものの、ルカの表情は変わらない。この可愛さを目の当たりにしても表情すら変わらないとは・・・・・・。

恐るべしだ。

「ルカも抱いてみましょうよ」

私はグレンをルカに差し出した。

「いいえ、遠慮しておきます。恐れ多いです」

すると即答で拒否された。

しかも、わずかに困り顔をして額を押さえ、一歩下がられた。

「大丈夫よ。よく寝ているし、泣いたりしないわ」

グレンはすやすや眠っている。なんでも普段はとってもぐずるのだとか。メイドが言っていた。

「泣いたって怒らないわ。大丈夫よ」

「それはお嬢様だからです。赤ん坊は気配に敏感なんですよ。知らない人が触ったらびっくりしてしまいます」

そういうものか?ルカを見ると表情は変わらないが、なんだかそわそわしてる気がする。目線も安定しない。

「ルカ・・・・・・。もしかして、赤ちゃん苦手?」

「そんなことございません」

またもや即答である。あやしい。

しかしあまりにもルカが嫌がるのでやめた。まあ、もし抱いて泣かれたらルカもショックを受けるだろうしね。

私は目線をグレンに戻した。

「ふふふ・・・・・・」

ヤバい、変な声でた。柔らかい頬をつんつんつつく。何度でも言おう。かわいい。

「お嬢様は、グレン様が本当に大好きなのですね」

ルカがいつの間にかグレンを覗き込んできた。

「だってかわいいもの。天使みたいでしょ」

ルカに向けてグレンの顔を見せた。

「・・・・・・そうですね。でもお嬢様も赤ん坊のころは天使のようでしたよ。可愛くて、柔らかくて」

さらっと言われたので最初は何と言われたかわからなかった。

「え?」

「今はお綺麗になられて、うれしいです」

ルカの無表情は変わらなかった。そうか、私が生まれたときに従者になるようにお父様に言われたわけだから会っているのは当然か。しかし・・・・・・。

「・・・・・・」

なんだか急激に恥ずかしくなった。顔が赤くなっていくのがわかる。なんだってこの子は先ほどから、天使とか、綺麗とか恥ずかしいことをさらっと言うかな。

しかも無表情だから、なおさらだ。

当のルカといえばさっぱりわからないという顔をしている。ああ、もう。

これはかなり困る。

「ルカ。そういう恥ずかしい言葉は言わないでちょうだい」

「でも本当のことですよ。お嬢様」

だから、真顔で言うな!首かしげんな!!

私はルカの言葉を矯正をすることを誓った。こんなこと言われたら身がもたない。

でも、関係は今のところ悪くないと思う。



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