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64.

皆様、ごきげんよう。私はルーシェ・リナ・リスティルですわ。

「お嬢様、大丈夫ですか」

「さすがにそろそろ飽きましたわね」

もう、疲れた。前の世界では新幹線とか飛行機など、目的地に短時間で着けるものがあったし、基本的に揺れないから本を読んだり音楽を聴けたりできたけど、馬車の中はやることがない。町から町に行くのは暇である。

初めは見慣れない景色とか、建物とかいろいろ観光気分でよかったけど、見慣れたよ。

町に着いたら笑顔で手を振ったりするものの、基本的に暇。

「ルカは何もしなくて平気なの?」

私は斜め前にいるルカに問いかけた。ルカは出発時にはお茶を入れなかったが、だんだん慣れてきたのか、揺れる馬車内で素晴らしい手つきでこぼすこともなく、お茶を入れお菓子を出してくれる。むしろもらった私がこぼしそうである。

「ええ。お嬢様を見ているだけで幸せです」

「そう、さすが・・・・・・。ルカ!?」


今、とんでもないことを言われた気がするわ。恥ずかしい。私はルカの顔を見たが、いつもの無表情である。なんなんだ、この子。

「ルカ、そんなことをさらっと言うのはやめてちょうだい」

私は君が将来女性関係でもめるかもと、とても心配です。

(将来、刺されるんじゃないかしら)

「本当のことですので・・・・・・」

「ルカ・・・・・・」

「お嬢様。そろそろ見えてくるかと、リスティル公邸が」

「本当に!?」

やっとこの暇な時間から解放される!! と、窓から外をのぞいた。

ぱちっ

馬に乗っているゴウエンと目があった。彼はニカッと笑った。顔が怖いが、案外優しいのかも。

「ゴウエンって、ずっとリスティルに仕えているの?」

「そう聞いておりますよ。彼の一族は代々この領を守る役目を担っています。・・・・・・どうかされましたか?」

「そうなのね。とても大きな人だったから、最初は山賊かと思ってしまったのよ」

なるほど・・・・・・、代々リスティルに仕えてくれているわけか。

「それはそれは・・・・・・」

ルカは苦笑した。

「ああ、お嬢様もう見えますよ」

ルカが窓の外を指さした。

「あれが・・・・・・」

大きな城門とそこから見える大きな白亜の城。

「大きい・・・・・・」

そんな子どもじみた感想しか出てこない。

(すごい)

思わず立ち上がろうとしたが、あ、グレンが膝にいた。

「う・・・・・・ん・・・・・・あねうえ様・・・・・・?」

あちゃー、顔を揺らしたから起きちゃったらしい。

「ごめんね、グレン。でも起きて、窓の外を見てごらん。すごいわよ。」

グレンは目をこすると、窓に顔を向けた。

「すごいよ!! あれが僕たちのもう一つの家?」

「そうよ、あなたの家よ」

白の塀が見えてきた。しかし、塀が高い。侵入者なんて絶対いないと思うわ。

「開門!!」

馬上にいるお父様が叫んだ。

衛兵たちが一斉に敬礼? のような形をとった。

うわ、映画のワンシーンみたいだわ。

私の隣でグレンがじーっとその光景を窓から見つめる。やっぱり男の子はあのような姿にあこがれるようだ。

「お父様、かっこいいわね」

「うん。でも、あねうえ様がやっても、とてもきれいだよ」

へにゃっと笑った。

「ッ――――――」

本当に天使過ぎる。私は声にならなかった。

何とか呼吸を整え、冷静になる。なんで私の周りにいる男たちはこんなにもたらしになりそうなのだろう。

いけない、考えるな。よし、外を見よう。

衛兵たちの間を通りぬけ、馬車は城の中に入った。

「まさしく貴族の屋敷・・・・・・」

思わず、つぶやいてしまった。リスティル邸で見慣れているつもりだったが、それ以上に美しい庭だった。

「はい?」

やべ、ルカに聞かれてしまった。

「なんでもなくてよ」

笑顔でごまかした。そして馬車は玄関前で停車した。

玄関の前には一組の男女と子ども二人がいた。

「あの方が、叔父様と叔母様?」

「・・・・・・ええ。そうです」

ルカの顔が若干引きつっている気がした。

「どうしたの」

「いえ、何も。さあ、降りましょう、お嬢様」

ルカは私より先に降りると手を差し伸べてくれた。私はその手をつかみ久しぶりの地面に足を下した。やっぱ大地って大事だわ。母なる大地、サイコ―。

「グレン」

私はグレンに手を伸ばして、降りさせてやった。


***


「お久しぶりね、兄様」

蒼の瞳に金の混じった茶色の髪を持つ美女の方が、お父様に声をかけた。

あれ、確かお父様は弟君をお持ちだったと聞いたけど、もしかして妹君もいたのかしら。私はルカに聞こうとしたが、ルカの二人を見つめる無表情が冷め切っている気がしたので何も聞けなくなった。

「お前、本気でアイツだろうな」

「いやだわー、当たり前じゃなーい」

一体何の話だろうか。

「奥方にまでこんな恰好をさせて、何をやっているんだ・・・・・・。お前のせいで、アイヒ様はますますお遊びが過ぎるようになったんだぞ」

なんでそこでアイヒ様が出てくるのだ、お父様。ん? 奥方? え?

私は何となくだが、違和感を覚え始めた。奥方、とはお父様の前の美女のこと? それにしてはどうも会話がかみ合わない気がする。それに女性にしては少し声が低め?

私がそう思って、美人の顔を見ていると、目があった。

「あら! その母上そっくりのお顔は、もしかしてルーシェちゃんかしら」

美人の顔が目の前に迫る。

「は、はい」

反射的に答えた。グレンが私の後ろに隠れる。

「後ろの男の子はグレンね。グレンは初めましてね。ルーシェちゃんは大きくなったわね」

そう言って私とグレンは美人に抱き上げられた。力持ちだな・・・・・・。

「あなたたちの叔母の」

「ごふっ。痛い!!」

叔母? の頭をお父様がはたいた。

「なに嘘っぱちを教えているんだ。お前は叔父だろうが!!」

「え・・・・・・」

やっぱりそうでしたか、いや、信じたくはなかったですよ。でも、体つきとかね。ルカが顔をひきつらせたのは、きっと気が付いていたからだろう。

いったいどうやったらそんな胸、作れるのか聞いてみたいところだ。ついでに声の秘密も。

「兄上は冗談が通じませんね」

「やかましい」

お父様は叔父様の頭に拳骨を落とした。

「痛い!!」

声がイケメンボイスになった!!!!

しかし、美人でイケメンボイス。なんか・・・・・・、うん。

「はいはい・・・・・・。じゃあ改めまして、君たちの叔父にあたるアレクと言います」

そう言ったアレク叔父様の顔は、確かにお父様によく似ていた。おそらく格好いいと言われる部類に入るに違いない。

「後ろにいるが妻のエヴァ。そしてこのちびっ子たち二人が息子たちだよ」

「こんな恰好で失礼いたしますわ、ルーシェ様、グレン様。こいつの妻のエヴァです」

貴族男性の格好をしている方がなんと驚き、奥方様だったらしい。金の髪にブラウンの瞳を持つとても美しい方だ。

「こいつのってひどいじゃないか。君だっておふざけしたんだし・・・・・・」

「お黙りなさい。あなたが私のドレスをすべて隠すからでしょう! 子どもですか! まったく、義兄様にまでこのようなお遊びをして・・・・・・、義母様がいたら怒られますわよ」

何というか、とてもハキハキしている方だ。

「母上はむしろ笑い飛ばしそうな気もするが・・・・・・」

ああ、それは否定できないかも。お祖母様は結構楽しいことが大好きなのだ。

「二人とも、ルーシェ様とグレン様にご挨拶をして。あなた達のいとこですよ」

エヴァ様に背中を押されて、二人の子どもが前に出た。確か一番上の従兄弟は私より年上だった気がする。一番上は面差しが叔父様によく似ていた。髪や瞳の色は完全にエヴァ様だ。

その後ろに隠れている子は、髪や瞳の色はアレク様だけど、容姿はエヴァ様に似ている。

「初めましてルーシェ、グレン。私はユアンと申します。・・・・・・ほら、お前も・・・・・・」

長兄はユアンというらしい。きれいな笑みを浮かべて挨拶する姿は確かに様になる。将来が楽しみだね。

「は、初めまして・・・・・・ぼ、私の名前はユーリです」

そう言ってユーリはユアンの後ろに隠れてしまった。恥ずかしがり屋なようだ。可愛らしいが、グレンの方が間違いなくかわいい。


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