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63.

皆様、ごきげんよう。私はルーシェ・リナ・リスティルですわ。

私達の目の前には人、人、人。町中の人が集まっているんじゃね? ってぐらいの人だかりだ。動物園のパンダはこんな気持ちなのね。

「お、お父様?」

お父様はお披露目と言ったが、普通は城のバルコニーから手を振るとか、もっとこう夢があるものじゃないわけ?

「ん? どうした?」

そんなにいい笑顔で聞き返されると逆に言いにくい。

「いや、あの?」

なんといえばよいのか・・・・・・。お父様は困惑している私達に苦笑した。

「ルーシェ、グレン。手を振ってあげなさい。お前達の民だ」

そう言うとニコニコと手を振りかえしている。その瞬間女性たちからの悲鳴が聞こえる。え、今とても野太い声も聞こえたけど?

(まあ、気のせいと言うことにしよう)

私達の、民か・・・・・・。前世が一般人の私にはさっぱりわからない感覚だ。

「姫様、公子様。今日のこの日を民たちは待ちわびていたんですよ」

頭上からクマが答えた。

「民たちにとっては、領主一族に出会える貴重な機会ですから」

(ああ、それもそうね)

私は彼らを見渡した。子どもからお年寄りまで、おそらく全員がここに来てくれているのだ。

将来の主の顔を見るために。

姫様、公子様。ようこそ。

みんなが、私達を歓迎してくれている。

それだけ治めているリスティル公爵家が慕われているということだろう。

(私が彼らの主となることはないけれど)

私は彼らの声援に応えるべく、笑顔で手を振り始めた。すると声援が大きくなった。

――――公子様、泣いてらっしゃるわ。ご機嫌斜めなのかな?

そんな声が民衆から聞こえた。

――――エイダ様は相変わらずアデル様を足蹴にしていますか!? 私も足蹴にしてください!!

おい、どんな声援だ。そしておばあ様、民たちの前でおじい様を足蹴にしたのか。

私がちらっと後ろを見ると、グレンはぐずぐずと泣いていた。抱えている騎士、兵士も困り顔だ。

「公子様、あなたの民ですよ」

ゴウエンがやさしく声をかける。が、ますますぐずついた。ゴウエンの顔が怖いんじゃないの?

「グレン」

「姉上様・・・・・・。怖い」

ゴウエンと民を見て呟いた。

どうやら人の多さに圧倒された様子だ。うん、ゴウエンの顔についても、気持ちはわかるが、いずれここを継ぐ人がこんなことでは困る。

「みんなあなたのために集まってくれたのよ。手を振らなきゃ失礼だわ。大丈夫よ。お姉さまと手を振りましょう?」

私はグレンの頭を撫でた。

「うん・・・・・・」

グレンは目を真っ赤にしているが、頑張って手を振り始めた。そしたら声援がさらに大きくなった。

「よしよし。偉いわ」

そんな私たちの姿を見て、ゴウエンが口を開いた。

「公爵様に姫様、そして公子様が生まれたときにはリスティル領全土がわきましたよ」

うわー、そんなに喜んでくれたとは。なんか中身がただの女子高生で申し訳ない気分になった。

「本当に?」

「もちろんですよ」

「ルーシェ」

お父様が近づいてきた。

「お父様」

「そろそろ屋敷に入ろうか。ルーシェ、お父様の馬においで」

と、でれっでれの顔で迫ってきた。気持ちわ・・・・・・じゃなくて、もっと真面目な顔になってほしいところだ。

「呼んだつもりもない客にいつまでもかわいい子どもたちを見せる必要はない」

ぼそっとお父様が何かをつぶやいた。

「どうしましたの?」

「いいや、何でもないよ。ほら、あのあたりの人たちにも手を振ってあげなさい?」

「はい」

私はお父様が示したあたりに、顔色が悪くなっている人を見つけたので、その人に向かって手を振ってみた。


***


「あれを逃がすなよ」

アドルフは、ルーシェが手を振るのを見守りながら、ゴウエンに小さくつぶやいた。

「了解」


***


「あれが、リスティル公爵継嗣。ルーシェ・リナ・リスティル・・・・・・」

民衆たちがわく熱気の中に確かにその男は存在していた。存在しているにもかかわらず、その気配はとにかく薄い。

アステリア王家の剣、リスティル公爵家。戦場を血で染める悪魔の一族。その後継者とされる令嬢は、あの幼さで現当主に引けを取らない才能を発揮しているという。

「隙あらば殺せって・・・・・・。無理に決まってんだろうが」

あんな射殺してくださいという位置にいながら、射殺せる気がしない。周りを固める人たちの気配で無理だと悟る。アステリアなんぞ敵に回して大丈夫かよ、うちの国は。

そう言ってボーッと令嬢の顔を見つめていた。

その時だった。

「っ!!」

目があった。

そんなわけがない。こんなにもたくさんの人がいるというのに、彼女は間違いなく、俺を認識している。

彼女はにこっと笑った。いや、嗤った。

まるで、狙えるものなら狙ってみなさいと言っているかのように。

「おいおい・・・・・・」

冷や汗が流れた。今までそれなりに修羅場をくぐりぬけてきたつもりだが、本能がやばいと叫んでいる。

化け物かよ・・・・・・。

すぐに踵を返そうとした。

「・・・・・・っ」

男は自分の運命を悟った。囲まれている。

「はあ・・・・・・」

やれやれ、とんでもないぜ。

最後に見た空は憎らしいほど青かった。



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