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お久しぶりです。更新が遅くなり大変申し訳ありません。


「・・・・・・・」

私は目の前の扉の取っ手に手を置いた。少し押せば簡単に開くはずなのに、手に力が入らない。

「ルーシェ。大丈夫だよ」

父が私の頭を優しくなでた。

何だって私はこんなにも緊張しているのだろうか。

「さあ、行っておいで。アイヒ様が待っているから」

「・・・・・はい、お父様」

私はアイヒ様に会いに王城に来ていた。あの日から、初めて会うことになるのだ。わけのわからない緊張感に包まれた私は父に背中を押され、意を決して扉を開けた。


「わっ!!」

扉を開けた瞬間、何かが私に飛びついてきた。。


「アイヒ!?」

「ルーシェ!!久しぶりね」

彼女は変わらない笑顔で私に抱きついてきた。その笑顔は前と変わりないが、彼女のそばにはヨシュアはいなかった。


「アイヒ」

私はアイヒの名前を呼んだ。

「どうしたの、ルーシェ。元気になりまして?」

彼女の笑顔は不思議なほど影がなかった。異常なほどに。

ああ、彼女は幼くても王女様なのだ。少しばかり心配になった。

「ええ、元気よ。アイヒはもう大丈夫なの?」

アイヒの体は確かに剣に貫かれた。私が治したみたいだが、突然時間が戻り、傷も戻りました、とかになってないか心配だったのだ。

「ええ、大丈夫。私はもとから怪我していませんでしたもの」

自分が剣で貫かれた記憶はすっかり抜け落ちたようだ。うん、それでよい。


「・・・・・」

沈黙に包まれた。何を話していいのか難しいところだ。



「・・・・・ヨシュアがバカなことをして申し訳ありませんわ」

口を開いたのはアイヒからだった。やっと、と言ったら不謹慎かもしれないが、アイヒの顔が曇った。


「アイヒのせいじゃないわ。ましてや・・・、ヨシュアのせいでもない」

あの帝国の破綻者のせいだ。思い出すだけでも背筋が凍る。あの男と同じ血が自分にも流れていると思うと、ちょっと嫌だ。

「・・・・・・あのお間抜け、今度会ったらいじめてやりますわ」

「・・・・・ふふっ」

思わず笑みがこぼれた。会えるかわからないけれど、きっとアイヒは会うつもりなのだろう。

「ケンカしたらだめでしょう」

「それはヨシュアの出方次第ですわ」

あの子ったら、いつも私のことを敬わずにバカにするんですもの。

「ヨシュアはアイヒのこと大切にしていたと思うよ」

「・・・・お父様に言って、新しい従者は断りましたの」

それは初耳だった。

「彼のために空けておくのね」

「そんなんじゃありませんわ。ただ、お父様が連れてきた候補の中にこれというものがいなかったのです」

あの陛下が使えないやつを選んでくるわけがない。あえて選んだかもしれないが・・・。まあ、そう言うことにしといてあげよう。

「そうなの。まあ、好きにしたらいいわ。だってあなたはお姫様だし、わがまま言ったっていいでしょ」

少しぐらいなら許される。

「ですわよね。どうせ、着替えは侍女たちに手伝ってもらいますし、お茶だって彼女たちが入れてくれますもの」

従者がいなくたって問題ありませんわ。

私とアイヒは顔を見合わせて笑う。まだ本当の笑顔ではないけれど、きっと、大丈夫だ。














「ああ、疲れた」

銀の髪を持った少年は長き眠りから目を覚ました。真っ白の柱、天井が目に入る。生まれたときから知っている色だ。きっと外も同じ色をしているのだろう。



「あなた何もしてないでしょうが」

あきれたような顔で自分を覗き込んだのは、人形遣いキースだった。


「送り返そうかなあ・・・・」


「すいませんでした。・・・・・というかあなた、あそこまでやっといて子供達本当に一人もつれてきてないんですね」


「面倒だったからねえ」

あの状況下で子供をさらうなんて面倒だったのだ。


「面倒って・・・。あなたほどの人間が出ておきながら戦利品1つないなんて、爺どもになんと言われるか・・・」

キースは頭を押さえた。

「知らないねえ。そもそも、こうなったのだって、あのバカどもの自業自得だろう?・・それに、戦利品はちゃんと持って帰っている」

「は?・・・・ぶふっ」

キースの鼻に何か固いものが投げられた。痛すぎる・・・・・。鼻は無事なのか・・・・・。そしてこれはなんなのだ。

キースは地面に転がった黒いものを拾い上げた。

「これは・・・・。宝石ですか・・・?」

黒曜石のような・・・・・。これが戦利品?


「魔力石。黒の子供から吸い取って作ったんだよ」

「は?魔力石・・・・・?バカ言わないでください。こんな真っ黒な魔力石なんて見たことない。いったいどれだけの魔力が込められて・・・・・」

まさか・・・・・、とキースは銀の少年を見た。そして、後悔した。



その顔は嗤っていた。悪魔だって、鬼だってこんな顔をしないだろう。



「今も彼らとは繋がっているし・・・・・。魔力は無尽蔵と言うわけだよ・・・」

そう言って手をかざすと、同じような魔力石がどんどんあふれてきた。カラン、カランと音を立てて転がる。


「あなた・・・・・・」

言葉にならなかった。

「ギャーギャー煩い子供を洗脳するよりもよっぽど効率的だよ」

子供を誘拐なんて外聞が悪いことをしなくてすむんだから・・・。




プチっ。




頭の中で何かが切れる音が響いた。


「あ、吸い過ぎたかもね。・・・・・死んだかな」

気を付けないと、大事な大事な補給源だからねえ。



「それに・・・・、発現者もいたから・・・」

その顔はさっきとはまったく変わってうっとりとしていた。そのあまりの変貌ぶりに、本気でキースは引いた。そして、敵だけれども、この皇帝と同じ血を引く、あのリスティルの姫君に心の底から同情した。これの執着は本気だ。



「発現者で、尊き血のお方の一人ですよ。・・・・・・壊さないでくださいね」



「壊すわけない」

だって彼女は・・・・・・・・・・・・・・だもの。

ありがとうございました。

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