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59.

「今度はラスミアを連れてくるよ」

陛下は普通に言い放った。私も自然にうなずきそうになったが・・・・、いや、ちょい待ち。

「いや、待ってください。私がうかがいます。・・王族方が王宮をあまり出るべきではありませんし・・・」

本来ならば陛下が臣下の家に来るなんてありえないのだ。しかし、事態は予想外の方向に行った。


「え、姉上様。またお城に行くの・・・?・・・・・もう城にはいかないで」

今まで黙っていたグレンが言葉を発したのだ。

「グレン」

私はグレンをとがめた。言いたいことはわかるけど陛下の前で言っちゃだめでしょ。

「陛下、グレンはまだ子供です。どうかお許しを・・」

私はすぐにグレンの頭を下げて謝った。こんなところで不興を買われるのは困る。


「ああ、気にしていないよ。むしろ当然のことだ」

陛下は怒るわけでもなくグレンの前に膝をついた。

「グレン公子、君の大切な姉君を守れなかったことは本当に申し訳なかった」

「陛下!?」

「・・・!!」

グレンもびっくりした顔をしている。王が、臣下の子供に膝をつくなど前代未聞だ。

「でも、姫君はもちろんグレン公子にも、王族と王宮を嫌いにならないでほしい。・・・・我々アステリアはリスティルに嫌われるとつらいんだよ」


「陛下、立ってください!! グレン?いい、よく聞いて。今回のことは私が「いいんだよ。大切な家族がこんなケガをして帰ってきたんだ。怒らないわけがないさ」・・陛下」


「そんなわけだから、ラスミアを連れてくるね」

話が最初に戻った。いや、だから。

「私がうかがいますから。連れてこないでください。どうせ父様にも内緒で来るのでしょう?だめです」

これ以上父に負担をかけないであげて。

すると、目を瞬いて、

「ルーシェ姫までそんなこと言わないでよ」

とすねてしまった。ちょっとかわいいのでほだされそうになったが

「お父様がかわいそうですわ」

それはそうと、扉の音がいつの間にか消えていた。父があきらめたとも思えないが・・・・・。

「アドルフはちょっとまじめだよね。エイダ将軍もアデル将軍も結構適当だったのに」

それに関しては納得できる。おばあ様は適当と言うか豪快というか・・・・。

でも現王を一人にするのはちょっと心配な気はするから、父の口うるささはわからなくはない。こう、おっとりしているというか・・・。もちろん、彼には護衛がついているのはわかっている。あの仮面の集団とか。


たぶん今も上にいるし。私はちらりと上を見上げた。



「そう言えば、伯爵はお元気でしょうか」

私は陛下に視線を戻して、もう一つの気になることを聞いた。

「あいつも元気だよ。もう、仕事に復帰しているしね。姫のおかげでほとんど無傷だし・・・・」

それはよかった。伯爵にも疑ってごめんなさいって謝らないといけない。



ああ、そうだ。




「・・・・・・・アイヒ様とは、会えますか」

ヨシュアはもうそばにはいない。わけのわからぬまま、連れてこられ、刺されて、目が覚めればもう大切な従者とは会えない。心は平気なのだろうか。

「会えるよ。・・・大丈夫。あの子は強い。もとから体の傷は何もないし。・・・・・・会いに来てね」

「もちろんです」


「・・・・・ルーシェ姫」

「はい」


「自分の力について、わかっている?」

きたよ、この話題。

「・・・・・・・治癒の力ですか」

「そう。そして、君の力は治癒の中でも特に特殊だ」

「・・・・・・時戻り、と言われました」

彼はそう言っていた。あの残酷な子供は。

「・・・・・そうか。君の力は文字の通り、時を戻すんだ。今回ならケガをする前にね。これはこの世界においても本当に数人しか発現していない能力だ」

数人しか発現しない。でも、あの時彼はこう言っていた。


「空間だけでも発現したらラッキーと思ってたけど、時戻りもやってのけたよ」


まるで私がその力を発現することが前提であるかのように。


「その力、発現する人間はどこの国が多いのですか」


「・・・・・本当に6歳とは思えないよね。さすがはリスティル」

将来有望だよ、本当に。

「・・・・・・・」

陛下は笑っているだけで、答えてはくださらなかった。



「・・・・・・今回のことは外部にはほとんど漏れていない。あの2人を除いてね」

「・・・・・・」

「ただ、絶対はない。これから先、姫や公子の血筋がどこからかばれることもありうる。」

ないとは言い切れないだろう。まったくなんで私がこんな目にあっているんだか・・・・。一般人でいたかったよ。


「だから、約束してほしい。その力は決して使ってはいけない」

「私も、使おうと思ったわけではないのですが・・・」

あの時は治れ、治れと願っただけだった。私は自分の手を見つめる。あのときのような力があるとは到底思えない。

「それもそうか・・・・。なら、けが人のそばにはあまりよらないようにね。私たちは姫に、無益な争いに巻き込まれてほしくない」

「・・・・・はい」

なんともまあ、原始的方法である。仕方ないけど。



「陛下」

「ん?」

私はもう一つ気になっていることを聞いた。

「その力はグレンに受け継がれますか」

私はグレンの頭を撫でる。グレンはされるがままで、言っていることの意味をあまり理解していないようだ。


未来視の中ではグレンにそんなそぶりはなかったが、使っていなかっただけかもしれないし。


「わからない。そもそも、マリア殿は「無能」だったからね。その因子とやらは持っていないのだと思っていた。その力は、わからないことが多すぎる・・・・」

最後は独り言のようだった。


その時だった。


バンッ


大きな音に私は音がした方向を見た。

「お父様」

私の後ろの窓が外から開いかれており、父が窓の前に立っていた。え、ここ2階・・・・・・。


「やあ、アドルフ」

何事もなかったかのように陛下は父に挨拶をしている。


「このくそ陛下。うちのかわいい娘の部屋に無断で入ってなにしてんだ。グレンまで連れ込みやがって」

お父様、いま、くそって言いましたわよね。


「連れ込んだって人聞きの悪い・・・・。仕方ないじゃないか。君、お姫様やグレン公子と話したいって言ったって許してくれないだろ」

「当たり前だ」

即答である。なんでお父様は陛下と私たちが話すのを嫌がるのかしら。

「だから突撃したんだよ。・・・・・・もう話は終わったよ。病み上がりにすまなかったねえ、姫。グレン公子も姉君との時間を邪魔してごめんね」

「いえ、もうぴんぴんしていますから」

元気なのは事実だ。ひま、本当にひま。

「まだ万全じゃない。無理をさせるなよ」

そう言って父は私とグレンの頭を撫でた。


「はいはい。もう戻るから。・・・・・それではまたね、二人とも」

陛下はひらひらと手を振って出て行った。




マジで自由だな。



屋根の上の方々の苦労がしのばれる。

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