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読んでくださっている方々、どうもありがとうございます。
更新がゆっくりで申し訳ありません。
コンコン
「・・・姉上さま」
グレンはドアを少し開けるとちょこっとだけ顔を出した。
うわ、天使。心臓止まりそう。
「どうしたの、グレン。・・・・入ってらっしゃい?」
私がそう言うと、恐る恐る部屋に入ってきた。
本当になんてかわいいのかしらこの子は。心の中で悶えまくった。
ああ、そうそう、私が目が覚めてから5日が経った。私としては体調は万全なんだが、周りがとにかく心配性で、何もさせてくれないから困ったものだ。剣を持とうとしたらルカが速攻で飛んできて取り上げられ、勉強も再開しましょうと言ったらまだ駄目ですと言われた。さすがに心配かけたから仕方ないと思う。私も我慢した。しかしだ、本当にやることがなくなったのだ。もう眠くもない。さすがに暇だ、とルカに言ったら、何か考えて、結局子供がすきそうな絵本を渡された。まじで一瞬の暇つぶし。
何回も読んだせいで覚えたよ。
そして、本気で暇だったときに我が愛しの弟が現れた。
ちなみに、部屋にいたルカはお茶を取りに行った(おそらく逃げた)。
「お見舞いに来ました。もう大丈夫ですか」
心配そうに言われた。ああ、この子にこんな顔をさせてしまって本当に申し訳ない気持ちだ。
「ええ、大丈夫よ。むしろ暇なの。・・・・・グレンが来てくれてうれしいわ」
「ほんとに!?」
「ええ、もちろん。私がいなかった間、いい子にしていた?」
「うん」
「お父様を困らせたんじゃないの?」
あと、メイド達を泣かせなかったのか・・・・。
「・・・・・・」
グレンはだんまりを決め込んでしまった。目線も合わない。
この子、困らせたわね。
「お父様のこと嫌いなの?」
「・・違うよ」
その顔はどこかぶすっとしている。
やれやれ。困ったものだ。これが反抗期と言うやつなのか。反抗期って何歳からだったか?
でも普通の子に比べ、この子は聞き分けがいいだろうし、これくらいの反抗は許してやるべきかな。
「あまり困らせてはだめよ」
「うん。・・・・・姉上様」
「なあに?」
「僕も今度クラウス様に剣を習いたいってお願いするね」
「え?」
「姉上様が怪我をしないように、僕が守るから」
にこっ
「・・・・・・・・」
な、なななななななんていい子なのかしら!!!!!!私はグレンを抱きしめた。
苦しいよ~と声が聞こえるが、離せない。本当に天使なんだから。
「うれしいわ、グレン。私を守ってくれるのね」
「うん。姉上様の隣に立って僕も戦うんだよ」
私はその言葉に心が痛んだ。私の目に映る大きくなったグレンは私を睨みつける。
ごめんね、グレン。
私は笑顔で小さなグレンの頭を撫でる。
そんな日は、きっと来ないんだよ。
その時だった。
バターン!!扉がものすごい勢いで開いた。
「おや、兄弟の憩いの場を邪魔したらしい。ごめんね」
私はとっさのことで反応ができなかった。グレンも固まっている。
後ろからはものすごい父の怒号とぎゃーとか、うわーと言う声が聞こえる。
いや本当にどうしてここにいるんですか。いや、考えてはいけない。
とりあえずあいさつをすることにした。
「陛下・・・・・・・。ご、ごきげんよう」
「ごきげんよう、ルーシェ姫。そして、赤ん坊の時に会って以来かな、グレン公子」
この国の国王はにこやかにほほ笑んだ。
「あの、どうされたのですか」
「ん?見舞いだよ。我が娘と部下の命を守ってくれた功労者だしね」
はい、と渡されたのは南国フルーツの盛り合わせ。ど、どうも。
ドンドンっ。部屋の扉がものすごい音を立てて叩かれた。
「おい!!おまえ何してやがる!!早く開けろ!!!」
父の声がする。どうやら扉が開かないようだ。
カギかけたんですね、陛下・・・・。
「ふふ、ごめんね。きっと2人で話すなんてアイツが許してくれないと思ってね」
「何かお話が・・・?」
「うん。ちょっともうぎりぎりでねえ。手段を選んでいられなくて」
こんな手段をとったんだよ。そう言った国王は少々焦っているようだった。
ちょっと意味が解らないが・・・。
その時だった。
ふわっと陛下の背後が揺れた。
「え?」
「あ、姉上様」
グレンも何か感じたらしい。
「おや、グレン公子も将来有望だねえ。・・・・・・後宮の幽霊の方だよ。」
陛下の後ろに透き通った女性が現れた。
「ゆ、ゆゆゆ・・・・」
私は言葉にならなかった。なに今日の天気は晴れですよ的な感じで、紹介してくれてんだ。グレンに至っては震えている。
そんな私たちの様子を見て陛下は苦笑した。
「あの方から大まかなことは聞いているのだろう?」
「あの方・・・・・」
まさか、イリシャのことだろうか。
「君を連れて帰してくれた人だよ」
どうやらイリシャのことらしい。よく考えたら彼は後宮にいたのだから、陛下と知り合いでないほうがおかしいのかもしれない。
私は納得すると、女性の方を見上げた。
ドレス姿の女性は苦笑していた。彼女の姿を通して後ろの背景も見え、彼女は本当に幽霊なのだと認識した。しかし、その姿の輪郭は消えたり現れたりしている。
ぎりぎりって、まさか。
「君に謝りたいってさ。・・最後に」
「そんな、あなたのせいではないのに」
私が勝手に突っ込んだだけなのだ。今回のことは。
ー私が、力を使ってあなたを呼んでしまったのー
そう声が聞こえた。
どうやらあの館の前で姿を見せたのは彼女らしかった。曰く、自分の姿を認識できる私に呼びかけてしまったらしい。確かにあのとき何故かついて行ってしまったが・・・。
「・・・でも、あなたのおかげで子供たちは救われましたわ。それに私も無事です。だからそんなに気にやまないでください」
終わり良ければすべて良いのだ。
そう言うと彼女は泣き出しそうな顔をした。
ーありがとう。歴代のリスティル当主達には本当によくしてもらった。ー
ふわっと私を抱きしめた。普通に通り抜けたけど。
「もう、逝かれるのですか?」
彼女の気配が本当に薄れているのだ。
「さすがに長い間霊体でとどまっていたからねえ。さすがにもうやばいと思って、急いで連れてきたんだ。今回のことでかなり力を使ったからねえ」
「・・・・・・」
ー私はもう死んだ身。本当はこのような姿でいることすらも許されないのに、王たちは願いをかなえてくださった。もう、十分です。-
「・・・それが約束だからね」
ー子供たちも守れました。私には・・・・望めなかったから。-
「・・・・・・・・」
ーさようなら、不思議な姫様、公子様ー
そう言うと、光の粒になって溶けて行った。
「・・・・・・・さようなら」




