55.
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「私とお父様はね、戦場で出会ったの」
そう言って私は娘に微笑んだ。
娘は何が何だかわからない顔をしている。それもそうだろう。
でも、賢い娘がこんな驚いた顔をするのだと思うとちょっと微笑ましく思った。
「お前は本当は誰かに愛されたいだけなんだ」
血だらけの私に、同じく血だらけの男が手を差し伸べた。
とっても滑稽だったろう。だって、さっきまでお互い殺しあっていたんだから。
「この手を取ってくれないか。・・・・・家族になろう。マリアンナ」
そう言われた時、私は初めて本当の意味で泣いた気がした。
「ルーシェ・・・・」
マリアの前には愛娘のルーシェが横たわっている。その顔は青白く、その胸の部分が動いていることが彼女が生きていることのあかしだった。
「ごめんなさい。私が、私が、こんな生まれだから・・・。あなたにこんなものを背負わせてしまった。」
自分が無能だったから、失念していた。まさかこの子が持って生まれてしまうだなんて。それをアレに、気が付かれてしまった。人の皮を被った、化け物に。
ただでさえ、私のせいで凶相が強いのに・・・。
「マリア・・・・」
後ろから声がした。私をこの国に連れてきてくれた夫だ。
「アドルフ・・・」
「自分を責めるな。お前の生まれは王もリスティル一族も皆知っている。それによってもたらされる問題も承知済みだ」
「でも・・・」
「リスティルに嫁ぐものに血筋は関係ない。この身に流れる血にはどこぞの死刑囚や反逆者の血だって流れているんだ。下手をすれば亡国の王族の血もな。そう教えたろう。次の世代に1つ別の血が入っただけだ」
「でも、この子がこんなにもつらい思いをしたのは私のせいだわ」
「違う、自分たちを優種と思っている北方のバカどものせいだ。・・・これは王国に、リスティルに売られたケンカだ」
だから、泣くんじゃない。
「・・・・・・アドルフ」
アドルフは横たわるルーシェのそばまで来ると、頬を優しくなでた。
「魂がどこかに飛んで行っている状態らしいが、今いろんなものを使って探し出している。心配するな、リスティルは代々生き汚い一族として有名なんだ。・・・・すぐに戻ってくる。信じろ」
そう言いいながらも、彼自身、難しい顔をしていた。当然だろう。アドルフはルーシェをことさら可愛がっていた。ルーシェが生まれたときこの整った顔が気持ち悪いほど崩れ去ったのだ。
きっと大丈夫だと、この子を信じろと、自分自身に言い聞かせているのかもしれない。
「そうね・・・・。この子なら大丈夫ね」
そう思うことにした。
「ああ」
凶相のもとに生まれた子供だ。きっと戻ってくる。この生きることの方が地獄かもしれない世界に。
「あと、マリア・・・・。悪いんだがグレンが泣いているから泣き止ませてくれ。どうも私だと泣き止まなかったんだ」
旦那様がいるとひどくなると、メイド達に追い出されてしまったんだ。
心底参ったという顔をして頭をかいていた。グレンはなぜだがアドルフに抱かれると泣くのだ。義父ならなんとなくわかるのだが。
「ふふふ、わかったわ。・・・・・・そういえば、ルカは大丈夫かしら・・・・・」
ルーシェのことを誰よりも思っている元暗殺者の従者は、しばらく見ていない。
「あいつは誰よりも責任を感じているからな・・・・。まったく困ったものだ。・・・・そろそろクラウス師匠の所から呼び戻そう」
「ルーシェはルカのことを気に入っているからね。目覚めたときにそばにいないと、きっと困っちゃうわ」
「・・・・・・・」
「あら、どうしたの」
アドルフはむすっとしていた。突然どうしたのか。
「なんだか複雑な気分だ。気に食わない」
まるで娘を嫁に出す父親のような顔をしている。その言葉を聞いてアリアはあきれた。
「何言っているのよ。まだルーシェもルカも子供なのよ?・・まあ、それでもいいけれどね」
「よくない」
「よくないって・・・。アドルフ、行き遅れたらそれはそれで大変でしょう。そもそも、何年後の話をしているのよ」
その時だった。
「う・・・・・・・・・・」
愛娘の、声が聞こえた。




