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更新がかなり遅れて申し訳ありません。
私は女性がいたと思われる場所で立ち止まった。あたりを見回すが人影は見えない。
「今の人・・・・・・」
私は目の前にある館を見上げる。彼女はこの中に消えたようにも見えた。
「もしかしてここ、あの幽霊が出る館じゃないの?」
その館の作りはほかに比べて少々貧相にも見えた。ルカが以前、外観はほかの館より少し古びていたと言っていた。だとしたら、私が見たあの女性は幽霊なのだろうか・・・・・・。え? でも、幽霊って昼間に出ないはずよね。
「・・・・・・」
考えがまとまらなくて、ごちゃごちゃしてきた。そもそも、今は幽霊よりルカのところに戻らないと。どうせまた夜に行くんだから。わざわざ一人で追いかける必要はない。あの女性が幽霊だろうがそうじゃなかろうがこの際どうでもいい。ルカは私が約束をやぶってきっと怒っている、というか慌てているに違いない。ルカの所にもどって、ヨシュアを見つけて――――。
そのときだった。
ガシッ。
「きゃ――――」
「ルーシェ姫?」
肩をつかまれ、突然のことに悲鳴を上げそうになったが、聞き覚えのある声に、私は顔を上げた。
「バ、バールトン伯爵・・・・・・」
今、一番あやしい男、バールトン伯爵が背後に立っていた。
「な、なぜ、ここに?」
「それはこちらのセリフだよ。ルカ君はどうした?」
バールトン伯爵はいつもと違い、どこかあわてているようだった。
「ルカは・・・・・・、ヨシュアを探していますわ。姿が見えなくなってしまいましたの」
「・・・・・・ヨシュアがいなくなったのか。やはり・・・・・・。とにかく、ここにいるのはよくない。早くみんなの元に戻るんだ」
バールトン伯爵は私の手を引っ張った。やはりって、なんだ。何を知っているんだ。
「どうしたのですか? そんなにあわてて」
「理由は詳しくは言えない。君に何かあったらリスティル公爵に申し訳が立たない」
彼は私をここから遠ざけようとしている。
「ここに何がありますの?」
口から、この言葉が出た。
「姫・・・・・・?」
「バールトン伯爵、あなた、今『やはり』っておっしゃいましたよね・・・・・・。何を知っていますの?」
「落ち着いて」
「落ち着いていますわ。ヨシュアはどこ? あなたがさらったんですの!?」
私は勢いに任せて言ってしまった。しまったと思ったがもう遅い。いいや、流れに委ねよう。
「前に足を治してくださったときにおっしゃいましたよね?」
『ははは。目的は身代金だけとは限らないよ。黒髪の子たちだけが攫われているわけだしね。なんにせよ、早くあんな暗いところから出して、親元に帰してあげないと。きっと泣いているよ』
「どうして子どもたちが暗いところにいるって知っていますの?」
「そ、それは・・・・・・」
バールトン伯爵が何か言いたそうに顔を歪めた。
「あなたが――――」
子どもたちを誘拐したの?
「違うよ・・・・・・。私は、本当は・・・・・・危ないルーシェ姫!!」
バールトン伯爵は何かを言いかけようとした。が、できなかった。
「え?」
その瞬間、何が起きたかわからなかった。
体が衝撃を受ける。突然の浮遊感。
浮いて、落ちる。
衝撃が体にきた。
(な、に、が・・・・・・?)
視界の端にかすめたのはこちらに走り寄るバールトン伯爵と、その後ろにいた、何の感情もない無機質な目を持った、ゆがんだ笑みを浮かべたような、人形だった。
***
体が浮く感覚がする。
私はまた、あの地下室に立っていた。
また、夢・・・・・・。いつもいつも同じ・・・・・・。いい加減に先に進んでくれないと意味がないというのに。
「はあ・・・・・・」
私はため息をついて 一歩踏み出した。
びちゃ。水音がした。いや、ちがう水よりもねばねばした感触がする。私は下を見た。部屋の中は 薄暗いので正直いってよく見えないけれど、私は認識した。
これは血だ。
(一体誰の・・・・・・?)
後ろから嫌な気配がした。振り向きたくない。でも、振り向かなければならない。
私は意を決して後ろを向いた。
「・・・・・・!!」
悲鳴を上げそうになった。
床に広がる何かの液体。
「あ、いひ?」
髪が顔を隠しているが、わかった。あれはアイヒだ。ドレスが血でどす黒く染まっている。
「アイヒ!!」
私はアイヒに駆け寄ろうとしたが、誰かが立っていることに気が付いた。その人物の手にはどす黒く染まった剣が握られ、そこから流れ落ちた液体が、ぽたぽたと音を立てていた。
「誰!? 誰なの!?」
その人物の顔ははっきりとは見えない。でも、小柄だった。私よりは高いけれど、まだ、子どものような・・・・・・。私はじっと見つめた。
***
ぴちゃん。
水がしたたり落ちる音が脳内に響く。
「ルー・・・・・・ひ、め!ルーシェひめ、ルーシェ姫!!」
呼ばれているのが自分の名前だと、だんだん認識した。そう、私はルーシェ・リナ・リスティル。戦公爵リスティル公爵の第一子。
私を呼んでいるのは、誰?
まだ、目がかすんでよく見えない。というか、暗い。ゆらゆらとオレンジ色の何かが見える。ろうそく?
「う・・・・・・」
「ルーシェ姫!」
この声は、だれ? バールトン伯爵? ヨシュア?
だんだんと目の霞が取れてくる。
「ヨ、シュア?」
私の目の前には、ヨシュアがいた。
「そうです。大丈夫ですか、ルーシェ姫」
ヨシュアが私の体を抱えながら、安心したように笑った。
いや、嗤った。




