40
いつも読んでくださり、ありがとうございます。皆様のおかで40話まで書くことができました。
「くそっ・・・・・・」
ラスミア殿下は悔しそうだ。まあ、負けず嫌いそうだしね。
「ありがとうございました」
私は早いところ部屋に引っ込みたかった。先ほどから、ほかの騎士達の視線が痛い。彼らが思っていたより、私が弱かったのか、強かったのかはわからないけれど、そんなにガン見しないでほしい。
「すごいですわ、ルーシェ!! お兄様に勝つだなんて」
アイヒは興奮しているのか顔を赤らめている。
「ありがとう」
それしか言えない。そして、ラスミア殿下が何も言ってくれないことが一番やだ。怖い、そっちを見られない。
「その格好でよく勝ったの」
おばあ様はにやにやしている。もう、おばあ様が着替えさせてくれなかったんじゃないか。さすがに戦場ではドレスで戦わないでしょうに。
「足が痛いですわ」
「ふふ、敵がいつでも準備万端の時に来てくれるとは限らんからの。何事も経験じゃ」
「そうですけど・・・・・・」
でもそれ、今経験させなくてもよいじゃないですか。
しかし、そんなこと言えるはずもない。ルーシェはいい子なんだもの。
「さてさてラスミア殿下、あなたの負けです」
「ああ・・・・・・」
ラスミア殿下は悔しそうにうつむいている。
「負けたけれど、これからさらなる訓練を積めばよろしいのです。それにルーシェはあなたの盾となり、剣となる子。主に負けるわけにいきません。むしろ強いことを喜ぶべきなのですよ」
まあ確かにね。でも年下で、しかも女の子に負けたってことが嫌なのだろう。
「わかっています。俺はまだまだ、鍛錬が足りない。引き続き、強い部下に恥じない主になるよう、さらなる努力をします」
私はラスミア殿下を主とはしないのに、ここまでまっすぐに言われるとなんだか悪い気がしてきた。でも、ここでは黙って聞いておいた方がよいと思ったので、何も言わなかった。
その時に、私はあなたの隣にはいない。
「私もラスミア殿下に負けないようにさらなる努力をしますわ」
私は薄く微笑み、偽りの言葉を告げた。
***
「鬼ごっこは次の日にしましょう。ルーシェ、疲れたでしょ?」
「そうですね」
精神的にかなり疲れましたとも。騎士達のあの視線が怖かったし・・・。あの後、おばあ様の一言でその場は解散になった。ラスミア殿下たちは稽古に戻り、私達は部屋に一度戻ることになった。
「私も剣を習ったらあなたみたいに強くなれるかしら」
「いや、アイヒは別に習わなくてもいいと思うわよ。手に豆とかできて痛いの」
私は習わないといけない家柄だったから習っただけだもの。アイヒが戦に出ることは別に立場的に問題はないが、国王陛下やラスミア殿下は反対するだろう。アイヒは王女で、王女には別の役割があるしね。平和な世界で暮らせるなら、わざわざ自分からそれを捨てていく必要はないと思う。
「でも、わたくしも戦えた方がよろしくありませんこと?」
たぶんアイヒは戦うことの意味をまだ、解っていない。
「アイヒ様が剣を操れるとは到底思えませんので、やめておいたほうがよろしいかと」
「なんですって、ヨシュア」
話に入ってきたのはヨシュアだ。また、辛口発言をする。
「まあまあ、アイヒ。ヨシュアがあなたのことを守ってくださるのだから、戦わなくても大丈夫でしょ。それとも、剣より弓なら習ってみてもいいんじゃないの? ねえ、ルカ」
剣は近接戦闘が多いからヒヤヒヤするが、弓なら離れたところから打つから安心だ。私は折衷案を出してみた。
「弓ならば女性でも強い方がいますので、やってもよいのでは?」
「そうですわね! お父様にお願いしてみますわ」
アイヒが納得したので、良しとするか。まあ、あの国王陛下がなんていうのかはわからないが、ちょっとくらいなら習わせてくれるだろう。
「弓術なら陛下もお許しになると思いますよ」
その時、いろいろと言いあっている私たちに声がかかった。
「あ」
「でたわね、バールトン伯爵」
私達に妙な反応をされてしまったバールトン伯爵は、少々顔をひきつらせていた。
「アイヒ様、『出た』、と言われたらさすがに悲しいですよ」
よよ、と泣きまねをする。嘘くさいなあ。
「だって、いつも登場の仕方が『出た!!』て感じですもの。ねえ、ヨシュア」
「・・・・・・」
ヨシュアの反応がない。
「ヨシュア?」
アイヒが返事がないことに気が付いて振り向く。私もヨシュアの方を見た。彼は言い方はともかく、アイヒの言葉には必ず返答を返すからだ。
「え、ああ。・・・・・・さようでございますね」
ヨシュアはどこか心あらずと言った顔をしていた。さっきまでアイヒと言い合いをしていたのに、いったいどうしたのか。
「ちょっとヨシュア君もひどいんじゃないの。学園では、僕に優しく挨拶してくれるのに・・・・・・」
ああ、そういえばバールトン伯爵はヨシュアが通う学園の校医でもあったわね。
「え、あなたが優しいですって!? どれだけ猫被っていますの!」
アイヒが食いつく。
「通常運転です。猫被っていません」
またもやケンカ勃発。飽きないね、この二人。
「そういえばルーシェ姫は殿下と戦ったって?」
そんな噂がもう流れているとは、本当に人の口に戸はたてられない。
「ええ。おばあ様のせいですわ」
「仕方ないよ。エイダ様には誰も逆らえないしね。ああ、私も国王陛下に呼び出されてなかったらのぞきに行ったのに・・・・・・。惜しいことしたな」
と、大げさに悔しそうな顔をした・
「で、お話はそれだけですの?」
「いいえ? 私の要件は別にあります。ルーシェ姫」
「なんですか?」
「重要案件その一を片付けますね」
とてもいい笑顔で言われた。
「はい?」




