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番外編2

エイダさんの若いころ。エイダさんは書いていて楽しいです。

「俺と結婚してくれ!!エイダ!」

「消えて」


はあ、またか。

猛将クラウスは友たちのお決まりと言っていい掛け合いにため息をついた。


「結婚しよう!!」

今度はアデルが花を持って、エイダの前にひざまずく。たぶん普通の女子にとっては素晴らしくうらやましい光景だろう。が、ここにいる女は残念なことに普通ではない。地獄のサタンもおそらく彼女を裁くことができないだろう。と言うか、むしろサタンを切り捨てそうだ。


ばさっ


かわいらしい花はあっという間に散った。エイダを見ればいつの間にか剣が握られている。目にもとまらぬ速さだった。間違えればアデルの腕も吹っ飛ぶくらいにぎりぎりだ。

それをやってのけるエイダの剣技をほめるべきか、そんな危険なことを平気でやってのける冷たさをいさめるべきか迷う。花がかわいそうだ。が、少なくともこの鬼姫に説教をしても屁でもないだろう。



鬼女、鬼姫、人はみな彼女をそう呼ぶ。



「いい加減、消えろ」

虫けらを見るような目でエイダはアデルを見ると、踵を返した。

さっきから死ねとしか言ってないな・・・・。そんなエイダを見ながらアデルに視線を戻した。


「お前、よくあきらめんな」

返答どころか生命否定されている友に声をかける。俺だったら心が折れるな。

「ふむ、このシチュエーションはあまりうれしくなかったようだな」

幸か不幸かこいつは一切気にしていないようだった。その能天気さが良いのか悪いのか・・・。

「次の手を考えよう」

「なんだよ次の手って」

「妹にどんなふうに結婚を申し込まれたいか聞いたんだ。それを片っ端から試しているんだよ」

あのメルヘン妹の入れ知恵か・・・・・。道理でこの女心のわからん男にしてはまともな求婚をしていると思った。


「あー、そうかい。しかし、・・なんだってまたエイダにそこまで固執するんだ。顔は恐ろしく美人だけど、性格はやばいだろうが」

その容貌は神が作った最高傑作とうたわれるくらいに美しく、幾人もの男たちが彼女に求婚した。しかし、あの冴え冴えとした美貌で一言

「死んでくれたら考える」

その一言でほぼ脱落、あきらめきれなかった稀有なる人間もエイダの剣技に勝てずに脱落。結果的に誰も残らないのだ。


「・・・・お前、この間のことまだ根に持っているのか?」


「当たり前だろうが!!死にかけたわ。お前だって死にかけただろうが」

この前は本当にヤバかった。本気で死ぬと思った。帰ってきた俺たちを見て「遅かったな。」の一言に本気で切れそうになった。


「生きているだろう。全員・・


「運が良かっただけだ!!」

そう、運が良かっただけだ。じゃなきゃ突然の豪雨が降って、川が増水して、渓谷の水かさが増して、敵兵が流れたなんてあるわけがないだろうが。


「どうだろうなあ・・・・・」

天候すらもあいつなら操りそうな気がするが。






「お前、独り身でいるのか?」

先日、結婚した王は問うた。エイダは頭が痛くなった。王よ、お前もか。

「別に私が結婚しなくても、弟がすればいいだろうが」

「それもそうだが・・・、結婚も悪くないと思うがな・・・・・・。面白いぜ?王妃は」

現王の結婚相手は隣国の王女だった。幼少のころ数回あっただけで、ほとんど互いに知らなかったがどうやら仲良くやっているらしい。まあ、それはよいことだ。世継ぎも心配いらないな。

「悪いとは言っていないが、私はしない、それだけだ」

「アデルは嫌いなのか?顔はいかついが、悪い奴じゃないだろ?」

「悪いやつとか、そんな問題ではない」

「でも、リスティルのじじいは喜んでだぜ?最後のチャンスだ―!!とか。後、お前の弟はつんでれサイコーとか叫んでたな」

親族たちの小躍りする姿が目に浮かぶ。切り捨てるか。と言うかつんでれってなに、弟よ。時々不思議発言を連発する弟はとにかくわけがわからん。


「・・・・・なんだって私をそんなに結婚させたがるんだ。戦場に邪魔か?私は」

「いやいや、そんなわけあるか。お前が指揮しない戦場とかくそつまらん。・・・・・いい縁があるんだったらすればいいとだけ思っただけだ」

「しつこいんだ、あいつ」

「まあ、アイツはあきらめ悪いからな。でも、それくらいの方がいいだろう?」

お前、愛は与えなさそうだから、与えてくれるアイツぐらいがちょうどいいんじゃないか?そう言って笑みを浮かべた。

「まあ、せっかくなんだから、考えてみればいい」

そういうと王は去って行った。




「結婚ね・・・・」


自分が異常と言うことは幼いころから気づいていた。6歳のころ初めて戦場に連れて行かれた。初めて、血を被ったのは7歳。そこで初めて人を殺した。でも、それよりも何よりも自分が恐ろしかった。


だって、何も感じなかったから。


敵の領地に入って、自分と同じ女が凌辱されているのを見ても、子供が切り殺される姿を見ても、まるで、心が動かなかったのだ。いくら血を浴びても、死臭が体から取れないと錯覚しても、白い衣がどす黒く染まって、赤黒い何かがしたたり落ちても、心はいつでも変わらなかった。凪いだまんま。それどころか、共に戦う兵士たちを利用することすら心が痛まない。むしろ、戦場が自分の思いどおりに進むことに楽しさすら感じる。思わず笑ってしまうのだ。


そんな私を見た父が

「お前も呪いが強い子だね」

と、言ってきた。意味が解らなかったが。


自分につき従った従者は初めての戦いで死んだ。


それでも涙は出なかった。


敵兵は言う。鬼の姫だ、鬼姫だと。味方は言う。心を神から抜き取られたのだと。


たぶん間違っていない。


そんな自分が、まともな生命の営みができるのだろうか。きっと子供ができたとしてもその子供に愛なんて言うものをあげることができるとは到底思えない。きっと子供の方が不幸だ。


アデルの顔が浮かぶ。いかついクマみたいな奴。私を好きだという馬鹿な奴。




「愛しています」

たくさんの男が私にそうささやくけど、心は少しも揺らがない。むしろ別の人間にささやいて国のために子供を作ればよいと思ってしまう。なにも女は私だけではない。


「そういえばあいつだけは、愛しているなんて私に言ったことなかったな・・・」


いつも状況は違うが、結婚してくれ、としか言ってないな。



なんでだろうか。





「そういえばお前、アイツに愛しているとか言ったことあるか」

「ないな」

「なんでだ?」

「妹に言われた。愛しているなんて軽々しく言われたくないんだと」


『いい、お兄様。愛って数値化できない不確かなものなの。男と女の心が感じ取るものなのよ』


『愛しているなんて、軽々しく言う男は信用できないわ』



「俺が愛しているというときは、アイツが求婚を受けてくれた時だな」


「そうかい。ガンバ」

クラウスはこの時アデルがエイダを落とせるとはこれっぽっちも思っていなかった。






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