39.
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
皆さん、ごきげんよう。ルーシェ・リナ・リスティルですわ。本日は友人のアイヒのお家(離宮)に遊びに来ていますの。
でも皆さん、ちょっと文句を言いたいのだけれど。
なんで私が剣を持ってラスミア殿下の前に立っているのかしら。
「お前から来い」
「・・・・・・」
(いやです)
ルカと戦うんじゃなかったわけ? え? ルカ、なんだって一歩下がっているのかしら。そもそもなんでこうなったのだろうか。
事の始まりはこうだ。
ラスミア殿下がルカと戦いたいということで騎士達の訓練場に向かった。しかし、そこにはすでに先客がいた。
「おや、ルーシェ」
「おばあ様!?」
他国から戦場の鬼姫と恐れられる軍師将軍エイダがいた。私からすると優しいおばあ様なのだけど、みんなすごく怖がっている。彼女はなぜか木刀を持っているが、いつもの見慣れたドレス姿なのでちぐはぐな感じだ。彼女の下に騎士達が積み重なっていた。・・・・・・成仏してください。
「エイダ将軍」
「これは、これは。ラスミア殿下にアイヒ殿下。このようなところで何を?」
「今から、ルカとラスミア殿下が戦うのです」
「ルカとラスミア殿下が?」
私は今までの経緯を話した。するとおばあ様は、それはそれは面白そうな顔をした。何かたくらんでいる、そんな顔だ。私は心の底から嫌な予感がした。
「ラスミア殿下、ルカは強いですよ? あなたでは相手になりません」
うわ、おばあ様。はっきり言っていいの? ルカが戦ったところは見たことがないけれど、ルカはクラウス師匠の元弟子だから、強いに決まっているのだ。
「エイダ将軍、わかっております。ですが、強い相手と戦ってみたいのです」
おお、素晴らしい心意気だ。しかしそんな心のほっこりは、おばあ様の次の言葉で吹き飛んだ。
「ならルーシェと戦ってみてはいかがですか」
「・・・・・・は?」
おばあ様、今なんとおっしゃいましたか。ルーシェと戦ってみましょう? ルーシェ、私、私の名前。
「おばあ様!!」
「なんじゃ、よいではないか。ルーシェもいつもあの怖い顔のクラウスと戦うだけではつまらないだろう。たまには似たような実力の者同士で戦ってみるがよい」
いや、言いたいことはわかるよ。そりゃたまには別の人間と戦う方がいいだろうな。でも心の準備とかいろいろあるでしょう。だって王子様だよ?
(いやだよ、いやいやいや)
が、そんなことを直接言えるほど私の心は強くない。仕方なく遠まわしに拒否ってみる。
「おばあ様、私はラスミア殿下のお相手ができるほど強くはありませんわ」
「どっちもどっちだろう。・・・・・・剣を持ってこい。短いのだ」
おばあ様がその辺にいた騎士に命令を下す。やめて、聞かないで。お願い。私はやりたくないよ~。
しかし、そんなことが許されるわけもなく私は剣を渡された。
「・・・・・・」
私はあきらめて渡された模擬剣を見た。長さは自分がいつも使っているものとそんなに変わらない。でも、ヒールにドレスでかなり戦いにくい。そういえは、ラスミア殿下は何も反論しなかった。ルカと戦いたがっていたから、ごねると思っていたのに。 私はラスミア殿下をちら見した。
(見なきゃよかった)
目は語っていた。
お前には負けない、と。
ここは「年下の女の子と戦うなんて・・・・・・」って言うべきじゃない?! なんでそんなに闘志燃やすかな!?
「・・・・・・」
しかし、こうなってしまっては仕方ない。
(やるしかないわ)
私は息をスッと吐くと、剣を構えた。刃が視界の中心に来る。右足を少し後ろに下げる。師匠に教わった、型。
覚悟は決まった。
王子様とはいえ、手を抜くのは失礼にあたる。
ぶっちゃけ言ってもいいかな。
負ける気が、しない。思わず、笑みがこぼれた。
「お前から来い」
「遠慮なく」
私は、地面を蹴った。
***
「エイダ様」
「ルカか。どうした?」
「お嬢様を戦わせなくても私が・・・・・・」
「ふふ・・・・・・。あの子だって一度くらいは同年代と戦わせんとなあ。自分の立ち位置を知ることは大事じゃ」
エイダは不敵に笑った。
「どちらが勝つとお思いですか?」
ルーシェは同年代の人間と比べたら確実に強い。あと数年もすれば間違いなく元帥にふさわしい腕になる。しかし、どちらが勝つのかはわからない。
「さあな?」
エイダはどこまでも楽しそうだった。
***
キンッキンッ。
刀の打ち合う音。
ヒュッ。
刀が空を切り裂く音。動きを見切り、体を、そらす。
それらが心地よく感じる。風が、私を導く。
ラスミア殿下が私に斬りかかった。それを屈んで避けると、とっさに蹴り上げようとしたが、スカートをはいているのでやめた。
「どうした! こんなものか!」
言ってくれるわね、ラスミア殿下!
ギンッ。
ギリギリ。
つばで競り合う。
「まだですわ!!」
ただ、私は少しだけかかとの高いヒールをはいているので、足元がぐらついていた。
(痛いし、あまり時間はかけられないわ)
とっさに判断し、力ずくで押し切ることにした。この時期ならば男も女もそんなに筋力や体格に差はない。私は足に力を入れて、ラスミア殿下を押し込み・・・・・・。
ガキンッ。
剣を上に弾き飛ばす。
そして、ラスミア殿下の首元に剣を突きつけた。
「くっ」
「そこまで!」
よっしゃ、勝った。私は心の中でガッツポーズをした。
「お見事」
誰かが呟いた。




