38
「いつまでそこにいるつもりですか?」
そこはまっ白い柱が並ぶ、どこか現実離れした空間だ。
蒼の髪を持つ少年が、そこにある一つのベッドに近づき、声をかけた。そこには人間離れした銀の髪の美しい容姿の少年がいた。
「もうそろそろ終わるよ。でも、気になることがあるんだよ」
突然、空間から声が発せられた。
「気になること?」
声の主はとにかく気まぐれだ。いったい、何が琴線に触れたというのか。
「そうだよ。この国の為にもなると思うよ・・・・・・。あ、あと人形遣い貸してくれる?」
「あまり、ここを開けるのもよくありませんよ」
「はいはい。それよりも人形遣い」
「聞いていませんね? 人形遣い? 何に使うのです? そもそもあなたも使えるでしょう」
「それは秘密だよ。同時進行で動かすのが面倒くさくなってねえ。・・・・・・よろしくねえ」
そう言って声は聞こえなくなった。
銀の髪の少年は深いため息をついた。
「やれやれ、困ったものです。・・・・・・キースを呼べ」
***
「・・・・・・」
誰か助けて。私はどうすることもできない。ドレスに着替えて、カツラを脱ぐまではよかった。それからが問題だった。
「・・・・・・」
私の目の前では・・・・・・
「・・・・・・」
無言でアイヒを見つめるヨシュアと、ヨシュアを睨みつけるアイヒがいた。
仲裁すべきなのかどうかわからないが、私も今回やらかしたからなあ。だが、かれこれ十分はこのままだ。何事もやらねばなるまい。
「ヨシュア・・・・・・、その・・・・・・私も悪かったのです。アイヒも陛下と父に怒られましたし、その辺にしてください。心配かけて申し訳ありません」
私は頭を下げた。許して。
するとヨシュアがため息をついた。
「・・・・・・ルーシェ様、顔を上げてください。どうせアイヒ様に押し切られたのでしょう? それに・・・・・・ルカ殿の顔が怖いです」
私は顔を上げ、ルカの顔を見た。いつもの通りの無表情。特に変わりはないが。
ヨシュアはアイヒを見て、はあ、とため息をつくと
「もうやめてください。困ります。私の心臓を止めるおつもりか」
「そんな柔じゃないくせに・・・・・・。わかっていますわ」
アイヒ様は顔をそむけたまま言った。これは仲直りしたと考えてよいものだろうか。でも、二人の雰囲気が穏やかになったので大丈夫なのかもしれない。
ようやく、和やかになった。
その時だった。
「おい。いるか」
バーンと音がしそうなほど扉を開いて登場したのは、この国の第一王子ラスミア殿下だった。
「ラスミア様」
「お兄様」
王太子は剣を腰に下げていた。どうやら剣の稽古中だったらしい。ところどころ泥がついているのは言わないことにする。きっと頑張っているんだろうから。
「どうされたの」
「いや、ルーシェの従者と手合せをしたいと思ってな」
確かに約束した。でも今からするのか・・・・・・。
「アイヒ、よいかしら?」
「わたくしは構いませんわ。わたくしも見てもよろしくて?」
「どうぞ」
アイヒの許可はもらった。まあ、そんなに目立つところでやらないようにお願いしたし、アイヒたちくらいなら良いだろう。
「ルカ。頑張って」
「かしこまりました」
ルカの目が死んでいたのはみないことにした。ごめん。だって王子様のお願いだし。私は従者を見捨てた。それに私がいなくなったときのことも考えると王子様に気に入られる方がいいと思うんだよね。
「どこでやりますの?」
「騎士たちの訓練場」
ちょっと待て。話が違うだろう。
「お待ちください。目立たないところって言いましたわ」
「騎士たちの訓練場なら、騎士たちしかいないだろうが」
いや、その騎士が問題だろうが。
「後宮じゃだめですか?」
「・・・・・・あんまりよくはないだろう。後宮で剣を振り回すのは」
それもそうなので何も言えない。ルカの目がますます死んだが、ごめんとしか言えないわ。心の中で。
「ルカ、もしかしたら騎士たちに認められるかもしれないわよ」
私はまあ、一応メリットを言ってみた。すまない、あきらめてくれ。
「私はお嬢様の従者です」
どうやらお前、いらない的な意味でとらえられたらしい。いや、そんなわけないじゃない。
「当たり前ですわ。頼まれたってあげません。でも、剣の腕を認められるのは悪いことではないでしょう」
「興味ありませんが」
「あら、私は嬉しいわよ。ルカが認めてもらえたら」
いずれ彼をおいていくのだけど・・・・・・。都合がいいけれど、ルカが褒められるのは嬉しいよ。するとまあまあ機嫌が直ったようだ。よし、今度からほめる作戦で行こう。
「心配はしていないけど、手は抜かないこと。・・・・・・あと、怪我はだめよ」
ケガとかはあまりしないでほしい。
「かしこまりました、お嬢様」
ルカは恭しく膝を折った。その姿は様になっている。
イケメンって痛いしぐさも様になるんだから不思議よね。
「ルカはルーシェ様の従者と言うより騎士みたいね」
ちょっとうらやましい。
「実際そうでしょうね」
「あなたもあれくらいわたくしを敬いなさいよ」
「敬っています」
「嘘おっしゃい。ひざまずけまして?」
「ごめんですね」
後ろで二人が何か言いあっていたが、私にはよく聞こえなかった。




