37.
「全く、二人して何しているんだ!!」
「ごめんなさい、お父様」
いま、お説教を受けています。理不尽、そりゃ、私も抜け出したけどさ、王女様に意見なんてできないよ・・・・・・。
え?私が年上だって? 精神的な話でね。でもそれは結局誰も知らないじゃない。
「アイヒ様。あなたの変装術にケチはつけませんが、それは後宮の中だけにしてください。まったく女の子なんですよ。こんなに葉っぱをつけて」
と、お父様が私やアイヒについた土や葉っぱを落とす。
「はははは。アドルフ、そんなに怒らないであげなよ。昔の私達にそっくりじゃないか」
陛下は何がそんなに面白いのかけたけた笑っている。
「あのな、この子たちは女の子だぞ!? それに危ないだろうが」
「俺たちだって姉上とよく駆けずり回ったろう。クラウス先生やアデル将軍にいたずらしかけてよく怒られた私たちに比べたらかわいいものだよ。」
「そりゃそうだが・・・・・・」
お父様、いたずらって何をしたんですか。あの怖い顔二人に何をしたかが妙に気になるところだ。
「ごめんなさい、アドルフ様。わたくし楽しくてつい」
アイヒ様が謝る。
「全く、どうやって後宮から抜け出したんですか?」
「秘密ですわ」
あ、そこは言わないんだね。
「まったく・・・・・・」
お父様は頭を抱えている。すみません。
「あのアドルフ様。先ほどのお話ですけど・・・・・・」
お父様のまとう空気が変わった。先ほどのお話、黒髪の子供たちが、いなくなったと言っていた・・・・・・。
「わ、わたくしもルーシェも言いませんわ。大変なことですもの。その、ヨシュアは・・・・・・、ヨシュアは大丈夫ですの?」
おお、ヨシュアの心配か。なんだかんだ言いつつヨシュアのこと好きだもんね。ヨシュアがピリピリしていたのはこれが原因かな。
「ヨシュアか・・・・・・、今のところは無事です。ちゃんと私たちが守りますので安心してください」
でも、お父様たちはおっしゃっていた。侵入経路が不明だと。それは根本的解決には程遠い。わたしもそれに関してはわからない。彼らがどこにいるかも。わかっているのは彼らが生きていて、窓のない部屋にいること。そしてこの王都にいることだ。でも、あれだけの人数がいたら泣き叫べば外に聞こえるはず。ならば大きな邸宅を持つ貴族の屋敷の地下室。でも内部犯の可能性が高く、貴族、貴族とつながりがあって地下室を持つことを考えるとかなり絞れそうな気もする。でもなあ、間違っていたらシャレにならない。プライド高そうだし。
そして、なんでそんなことをしたのかもわからない。そりゃ、売れば金になる子供たちだ。でも、裏ルートに回すにしても危ないような気もする。その辺はよくわからないけれど。
「ルーシェ姫?」
陛下が私の名を呼ぶ。
「は、はい」
やべ、考え込んでいた。
「どうかした?」
「いいえ。その、みんな怖いだろうなと思って、かわいそうになったのですわ」
「そうだね。早く見つけてあげないと」
「でも・・・・・・」
「でも?」
「魔法でなんとかなりませんの? 空間移動の魔法とか使ったとか」
その時私は特に何かを視たわけでもなかった。ただ、前世のアニメなどで空間を移動できる道具を見ていたから言っただけ。
「・・・・・・空間魔法ねえ」
その瞬間執務室の空気が一瞬冷えた。私は鳥肌が立った。まじでヤバかった。しかしそれは一瞬で霧散した。
「そんな魔法はないからねえ。きっと違うよ」
「そうですか・・・・・・」
残念なことにこの世界に空間魔法はないらしい。・・・・・・あるのかもしれないが禁術だったりしてね。
その後、私とアイヒ様はお父様に抱えられて後宮を目指すことになった。目を離すと何をするかわからないためだ。否定できないところが悲しい。
その時だ。
「おや、リスティル元帥」
どこかで聞いたことのある声。
「ああ、バールトン伯爵か」
私はなんだか恥ずかしくなった。今は男の子の格好でお父様に抱えられているのだ。お父様は人が少ない道を歩いてくださっていたのに、なんだって現れるんだ。KY伯爵め。
「珍しい光景ですね。どうされたんです。お姫様二人も抱えられて」
しかも私達ってばれているし。
「どうもこうもない」
アイヒ様を見ると完全に顔をお父様の肩にうずめている。どうやらこの姿を見られたことが恥ずかしいらしい。
「なんとなく予想はつきますが・・・・・・。そういえば近衛騎士の方が探しておられましたよ」
「そうか、後で行く」
「でもお急ぎのようでしたよ。なんなら二人とも連れていけばよろしいのでは?」
なんていうことを。私はじとっと伯爵を見た。
伯爵の目は語る。
なんかおもしろそう。
この人、人をからかうのが好きな愉快犯なのかもしれない。初めて会った時もなんだかんだ言いつつアイヒ様で楽しんでいたし。
「・・・・・・楽しんでいないか?」
お父様も同じことを感じているようだ。
「まさか。冗談です。でも、アイヒ様のことを騎士の方は知っていますし、ルーシェ様は剣を持つお方だから動きやすい服装で来たとでもいえばよいのですよ。なんなら少し戦えばよろしい。かなりの腕と聞いておりますし」
「・・・・・・」
うそつけ、絶対本気だったでしょう。アイヒ様は完全無視する方向に決めたらしい。明後日の方を向いていた。
「バカを言うな。・・・・・・ルカ、来なさい」
「はい」
すっとルカが柱の陰から現れた。ルカ!? うそ、いたのか。全く分からなかったぞ。私はルカを見るのが怖くなった。だって怒ってそうだもの。
「この子たちを後宮まで送り届けろ。寄り道は禁止だぞ」
「かしこまりました」
お父様は私の頭を撫でて、伯爵とともに去って行った。
「ルカ、怒っていますの?」
後宮への帰り道は無言だったので、気まずくなった私はルカに話しかけた。こわい、こわいよ。ルカ。
「怒ってはいません。心配したのです」
まあ、後宮内はある意味牢獄と同じくらいのセキュリティーがあり、安心安全な場所だ。なんたって王の妃と子供たちが住んでいるのだから。そっから抜け出したらそれはね・・・・・・。たいていのことは笑って許すルカがかなり焦ったことがうかがえるので、素直に謝ることにした。
「ごめんなさい。つい遊び過ぎちゃったわ」
「ルーシェ、わたくしのせいでごめんなさい。ルカもルーシェを怒らないであげて。私が言い出したのよ」
「わたくしも止めませんでしたから。お互い様ですわ」
まあ、結局私も悪い。それは確かだ。
「アイヒ王女殿下、国王陛下もアドルフ元帥も怒っているのではなく、御身の心配しているのです。今後はおやめくださいね」
「わかっていますわ」
本当にわかっているのか微妙なところだが、もう何も言うまい。
「あと、ヨシュア様が額に青筋立ててお待ちですよ」
あらま。アイヒを見ると、何とも言えない渋い顔をしている。自分が悪いことをしているのはわかっているが、どうにもヨシュアに言われるのは癪だ。そんな顔。気持ちはわからなくもないが。・・・・・・ヨシュアよ、頼むから優しくしかってくれ。口げんかが始まらないことを祈りつつ、後宮に帰って行った。




