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29.

「午後からの授業は国史についてよね」

私は馬車の中で午後の授業の確認をした。

「はい。おそらく今日はガルディア帝国との外交史がメインになると思われます」

ガルディア帝国・・・、ああ、あの西にある仮想敵国ね。私は頭の中に地図を思い浮かべる。あの国はかなり領地が広かった。確かこの世界最大の領地を誇る。


ちなみにあの帝国に亡命することだけはない。なにせ国土の半分が永久凍土なのだ。冗談じゃなく寒くて凍死してしまう。穀物も育たない冷たい大地。毎年凍死者や餓死者が出ているというし。温暖な気候万歳。


「はい。その後クラウス様との剣術になります」

「わかったわ・・・・。でも、国史の先生の声聞いてたら、絶対寝ちゃうわ」

今も結構眠いんだけど。濃いメンツのせいで本気で疲れた。馬車の緩やかな振動が私を眠りに誘う。

「かしこまりました。今ならお眠りになっても構いませんよ。私しかおりませんから」

「・・・・・・・・」

魅力的な言い分だわ。

・・・・・馬車の中なら人の目を気にしなくてもいいし。

「・・・・近くになったら起こしてね」

私は誘惑に負けて寝ることにした。このままだとマジで授業中に寝落ちする。優等生として教師たちの中で通っている私としてはいやだ。

「おやすみなさい」

私は窓にもたれて眠った。





「助けて」

いつものあの夢かと思った。黒い髪の子供たちが助けを求めてくる夢。私はいつも第三者の目線に立って夢を見ていた。

「・・・・・・?」

でも今回は違う。私も、その場所にいた。

ここ・・・、どこなの?な所はさっぱりわからない。窓がそもそもない、外から音も聞こえない。炎がゆらゆらとわずかにあたりを照らしているだけだ。私は黒髪の子供たちが肩を寄せ合って眠っているの見て、痛々しく思った。彼らは薄汚れていて、目は腫れぼったい。きっとたくさん泣いたに違いない。

子供たちに話を聞かないと・・・・・・・・・。そう思い、私は子供たちをゆすって起こそうとした。


すかっ・・・・・


え・・・・・・。私の手をすり抜けた。違う、私の手が彼らをすり抜けたのだ。



幽霊かよ。どうやら夢の中では、私は誰かに触れることはできないようだ。


ねえ。


声を出したつもりだが、声も出ていないのだろう。これでは子供たちに何かを伝えることも聞くこともできない。扉も触ることができなかった。

その時だ。

何の前触れもなく扉が開いた。そして



どさっ


無造作に子供が投げ入れられた。

子供になんてことをするのだ。


ちょっと、何してるんだ。

しかし、その言葉は届かない。扉はすぐに閉じられ、あたりを静寂が包んだ。私はその子に触れることはできないが、その子の頭を撫でた。感覚ないけど。

「・・・・・・」

この子は、それなりによい服を着ている。きっと貴族なのかもしれない。その子の顔を覗き込んだ。


「え・・・・・・・」


私は息をのんだ。








「お・・・じょう・・・ま。お嬢さま」

誰かにゆすられる気配がした。うっすらと目から光が差し込む。輪郭がぼやけて分からないが、誰かに呼ばれている。

「ん・・・・・・。・・・・・・・お母さん・・・?」

「お嬢様?もうじき屋敷につきますよ」

はっきりと目が見えたとき目の間にはルカの無表情なイケメン顔があった。

「ル、ルカ!!」

「はい。お嬢様」

なんでそんなに顔が近いの。そしてなんで私はあなたに膝枕されているの。あなたイケメンだからやめてくれ。

「寝違えてしまうといけませんし」

ルカはしれっと顔をもどして答えた。

「あ、そうなの。ありがとうね。脚しびれたでしょう」

ルカなりに気を使ってくれたらしい。まあ、おかげですっきりした。

「いいえ。・・少々うなされていたようですが」

「うーん・・・」

まあ、あれは悪夢だな・・・。と言うか、あれは実際起こっているのだろう。しかし、結局あれがどこなのかわからない。ルカに黒髪の子が誘拐されているよ、なんていったところで医師を呼ばれるに違いない。

私は何となーく言ってみた。

「黒い髪の子供たちが、ずっと泣いているの」

「黒い髪の子供たち・・ですか?」

ルカの表情は変わらない。と言っても私では彼が嘘をついているかどうかはわからないが。

「そうなの。助けてってみんな言うのだけど・・、私は何もできなかったわ」

きっとあれは夢じゃない。実際にあの子たちは閉じ込められているのだ。

「そうですか・・・。その子たちは閉じ込められていたのですか?」

「そうなの。窓もなくて、ほとんど真っ暗・・・。出してあげたいわ」

しかし、あそこには手ががりになるのものはなかった。音もしなかったし、地下なのかもしれない。それすらも予測なのだけれど。

「お嬢様はお優しい。でも大丈夫、それは夢ですから」

夢ではないと、私は言えない。そんなことを言えば何が起こるかわからないから。

「夢?」

「そう、夢ですよ」

そう言ってルカは私の頭を撫でてきた。






「ガルディア帝国について今日はお教えします」

初老の教師はメガネを手で押し上げた。この先生のお話はまあまあ面白い。

「よろしくお願いいたします」

初老の教師はにこっとほほ笑む。そして教科書を開いた。

「かの帝国はこの国から西に在ります。国土は我が国よりも2倍大きい。しかし北に広がっているため、永久凍土が半分を占めます。」

永久凍土ね・・・。前世の某大国みたいだなあ。

「それじゃあ、せっかく国土が大きくても、作物など育たないでしょうね・・」

「その通りです。なのでかの帝国は軍事に力を入れています、その力でもって周辺の国を属国とし、食糧確保を行っています。それでも冬には多くの餓死者が出ていますが・・」


なるほどね・・・・。仮想敵国とされている理由はこれだろう。黄金地帯と呼ばれる肥沃な大地を持つうちの国はとにかくあの帝国によく狙われるらしい。なんでも10年前にとんでもない大きな戦争があったらしいが。

「現皇帝は5年前に即位されたジェレミア皇帝。現在11歳です」

「ええ!?」

私はあまりのことにビビった。11歳!?なんだそれ。

ガルディア帝国は皇帝が何年か前に代替わりしたが、なんとそれは若干6歳での戴冠だったということだ。あまりにも幼すぎるということで摂政のような人間がたったらしい。それが外戚であるバール伯だ。いや、もう完全に傀儡皇帝じゃん。

「今まで外の国に軍事で迫っていましたが、ここ最近は大きな戦争はしていません。今は内政に力を入れている様子です。皇帝が幼いゆえに反乱分子などが出てきたようですから」

「外戚が摂政と言うのがほかの貴族には気に入らなかったのかしら」

日本での歴史でもよくあることだ。そんなに権力がほしいものかね。私にはさっぱりだ。

「実を言うなら、皇帝は第三皇子だったのです。母君の家柄はけっして悪いわけではないのですが、正妃よりかは劣るのです・・・。しかし皇帝が名指しで生まれたばかりの第三皇子を指名したのです」

「え・・・」

先代皇帝は何かを感じたのだろうが。その3番目の子供に。

「皇帝は先代の指名制で決まるとなっていますが、正妃が産んだ第一王子がなるのが慣習です。妙なことをすれば内戦のもとですから。そのために帝国はごたついたのでしょう。」

確かに、うちの家だって余計な争いがおこらないように長子が後継者になる。でもそれでも第三皇子を指名したのは・・・・。


「ただ、ルーシェ姫」

「はい?」

先生の声が低くなった。

「現皇帝は歳の割にかなり優秀と聞いております。そして彼の外戚も権力を持って満足しているというバカではありません。戦場にも出てくる軍師でもあった人です。エイダ将軍もご存じのはず。おそらく皇帝が15歳になったとき、内戦は完全に終結し、権力は皇帝に集まっているでしょう。おそらくその時彼らが何をしてくるのか・・・・」

「・・・・戦争を仕掛けてくると・・・?」

目の前が暗くなった気がした。前世ではテレビの中だけだった、戦争・・・・。目の前に見えてくる。

それも4年後。私はその時、10歳。

夢では少なくとも12歳にならないと起こらないと考えていたのだけど・・・・。



「可能性はあります。奴らは狡猾です。先王陛下は食糧支援などを奴らに行ってきましたが、それでも戦争をふっかけてきました。10年前の戦争は特にひどかった。先王陛下はその時に亡くなられたのです。」

それは初耳だ。10年前の戦か・・・。

「ルーシェ様。あなた様や弟君の時代まで戦争を引っ張るつもりは当主様方にはないでしょう。しかし何事にも絶対はないのです。・・・・、まあ、脅しまくりましたが、ルーシェ様が戦争に出陣なさるのはずっと先ですし、我が国の外交官たちは外務卿を筆頭に優秀です。ご安心を」

と、朗らかに言われた。いや、安心できないから。







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